ストーリーズ・イン・シークレット

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71 おしゃべり


 携帯が鳴ったのは12時15分。まるで計った様だった。そう言えば7年前、あいつにやられた直後に見上げた時計の文字盤が丁度この時刻を指していた気がする。あの日、あのときの痛みが胸を過(よぎ)り、私の心はぐっと沈み込んだ。同時に勝利の
『許して欲しい』
と呟く映像が目の前に重なって、私が苦しんだのと同じ様にあいつも苦しんだ、そう私に思わせてくれた。だから今、本当の意味で乗り越えないとって思う。それはあの時から止まってしまっている私達二人の時間をもう一度やり直す、そんな事の様に思えた。
 私は彼の名前を確認し、そっと通話のボタンを押す。
『もしもし、あの、余田です』
躊躇いがちな声、その電話の向こうからは彼以外の人の気配は伝わらず
「今、会社の屋上?」
思わずそう聞いていた。窓の外は青空。気持ちのいい風がたなびいていて
『うん、そう』
彼も同じ空を見上げているんだなって思った。彼の声は最初聞き取りづらく、私は何回か
「もう一度言って」
を繰り返した。やがて場所を移動したのか、急に耳元で彼の声がクリアに聞こえ出し、私に向かって話しを始めた。
『昨日は、ありがとう』
と。静かな落ち着いた響き。
「うん、こちらこそありがとう。子供達につき合ってくれて」
電話を持ったまま部屋の隅っこに移動し、私はそのまま猫みたいに丸くなった。彼の声を聞きながらドキドキしちゃう自分をちょっと可愛いなって思いながら、彼が今どんな気持ちなのか物凄く知りたいなって思う。

 この電話が来る1時間程前、
『ちょっと聞いてよ~』
なんて子育てに疲れている典子から電話が有ったのだ。散々愚痴を聞いた挙げ句、今度私の家で飲もうって話しに落ち着いて、その隙間に思わず彼の事を聞いていた。
「勝利、この前から会社行ってると思うけど、大丈夫?」
今更こんな事典子に聞くのってどうかと思ったけど、天仁を助ける為に彼が怪我した事には変わりがないし、本当は会社に私から挨拶に行かないといけないかなって気持ちも有って、でもそれをするとお互い気まずいだろうなって事で、詳しい事情は私と勝利と青山夫婦の間だけの秘密にしておいたのだった。だから余計、彼の事が気になった。
「青山から聞いていない?」
『ああ、それねぇ』
その答えは青山らしいものだった。
『私も旦那に“どう?”って聞いたんだけど、あいつボケボケだから“大丈夫そうだよ~”ってしか言わないんだよね。だから何だかよく分らないんだよ』
なんて。
「そっかぁ」
それってきっと上手くやってるって事だと思う事にした。
『で、涼子、元鞘に戻るの?』
「えっ?」
いきなり言われて
「何言い出すのよ、いきなり」
携帯を取り落としそうになってぎゅっと握りしめる。
「そんなの、分からないし」
全然、分からない。ただあいつにも少し幸せを分けてあげたいって思っただけ、それだけの事だから。すると典子は
『だって子供達のパパ、あいつなんでしょう?』
さらっと言いにくいはずの事を口にした。
「知ってたんだぁ……」
多分典子は気がついているって思ってたけどね。まぁ、バレてるとは思ってたけど、このタイミングで言われるとは思わなかったよ。
『あいつさ、いいヤツだよ』
ちょっと沈黙してから彼女は続けた。
『だから考えても良いんじゃない?』
なんて。
『彼の話ししたら涼子が辛いと思って今までしなかったけど、勝利、久美子とつき合い始めてすぐに別れたんだよね』
それは知っている。あの時勝利がそう話してたから。
『あれ以来、あいつに浮いた噂一つもないからね。うちの旦那がそろそろ彼女くらい作れよって合コン誘っても来ないし、告ってくる女の子には必ず、好きな人がいるからって言ってきっぱり断るし』
それって何だか彼らしいなって思う。
『きっぱり断るからまたカブが上がっておモテになるんだけどね』
彼女が電話越しに明るい声で笑った。
「ふ~ん、典子がそう言うならかなり“買い”かもね」
素直に頷いた私に彼女は気を良くしてまくしたてた。
『お買い得だよ。だってあいつ、仕事も超真面目で、営業の花形だもん。イタリア語ペラペラで、しょっちゅうあっちに出張してるし、イタリア人相手に毎度美味しいお店で接待してるし。』
食いしん坊の彼女にはそこがポイントらしい。
『なんかね、うちの旦那に言わせると彼、目標が有るらしいよ。何でもその好きな人にもう一度会った時、恥ずかしくない自分でいたいんだって。だから頑張るんだって。でさ、彼の好きな人って涼子の事じゃないかってずっと思ってるんだけど、どう思う?』
ずきんと心が痛んだ。
『直感でいうけどね、あいつ、今でも涼子の事、好きなんだよ。こういうときって男の方が純情だからね。だから、色々有ったと思うけどそろそろ許してやれば? そうしないと勝利、ミイラになっても涼子の事待っていそうだよ。あいつ、十分頑張って来てるから、そろそろ報われても良いかなって思うよ』
口調は軽いけど、彼女が私と勝利、両方の事心配してくれているんだって思った。
『それにね』
典子が言った
『涼子も頑張って。今まで一杯頑張って来たけど、それって全部、稔さんとか子供達の為じゃない? だからさ、今度は自分の為に頑張ってみなよ、ね? 涼子はもっと幸せになっていいんだから』
私はこうして彼女から勇気をもらった。

 電話越しの彼は自信が無さそうに、それでもきっぱりと
『この前はとっても楽しかったよ。摩利君も天仁君も楽しそうだった』
と言った。それに向かって
“私も楽しかったよ”
そんな事を心の中で付け加えてみる。
『だから、出来たらまた会いたい。会ってあの子達の事、もっと良く知りたいんだけど、どうかな』
彼の言葉は単刀直入、駆け引き無しだ。
「良いよ」
あたしは答える。
「勝利が会いたいって言うんだったら、全然、良いよ」
すると彼は少し意外だったらしくたじろいだ。多分、私を説得する言葉を沢山考えていたんだろうな、なんて事を思って少し口元がほころぶ。
『涼子は、その、辛くない? 俺と子供達が会っても』
彼は言いにくい言葉をきちんと口にするから、私も彼の勇気に応えなきゃって気分になって
「辛くないって言うと嘘になる」
本音を話す。
「あの時起こった事は人生最悪だったって思うから」
それは勝利との事だけじゃない。復讐したいって、怨んでのたうった惨めな姿の事や、子供を本気で堕ろす決心をした醜い自分の事だ。
「正直、思い出すのも嫌だよ。でもね。でも、あの時の私がいるから、今の私もいるんだって思えるから、大丈夫。結局私には支えてくれる人がいたし、産んでみて、子供って宝物だって思うからね」
彼は何も言わず黙って私の話しを聞いていた。
「典子がね、あんたの事、褒めてたよ。頑張ってるって」
それは聞いた内容と少し違ってるけど、この際良い事にする。
「彼女の言葉でさ、あんたが子供達に会った時、恥ずかしくない様に生きてたって部分、よく分ったから、だから勝利も少しは報われても良いかなって、今の私だからそう思えるよ」
私は携帯を持ったままごろんと床に転がった。鼻先をレースのカーテンがかすめて揺れて、窓の外には澄んだ空が広がり。私は自分を開放すると同時に、彼を開放してあげたい、そう思った。
「勝利さえ良かったら、もう一度、始めからやり直しても良いよ」
ちょっと高飛車な言い方だけど
『嬉しい』
彼は間髪を入れずそう答えた。
『凄く、嬉しいよ』
って。
 何だか湿っぽくなりそうで、私は話題を切り替える様に彼に提案をした。
「早速だけど、今度の土曜日、どう?」
子供達が勝利から自転車を習いたいとはしゃいでいた事を思い出したのだ。すると
『任せといて』
弾んだ声で返事が返って来た。
『俺ね、高校大学って自転車の選手だったから。それだけは自信あるからさ』
そう言えば、そうだった。
「でも怪我した腕でも大丈夫?」
ギブスは外れていても、怪我は怪我だ。
『大丈夫だよ』
耳元で心地よい笑い声が聞こえる。
『教えるのには全然平気。それにいざとなれば両手放しで普通に乗れるから』
「そんな事って出来るの?」
ちょっと想像し
「一輪車みたい」
何だかサーカス連想しちゃって笑いが込み上げる。
『もちろんさ。自転車部で出来ないヤツなんかいないよ』
妙にご機嫌な勝利はよくしゃべった。そして1時近くまで話している事に気がついて電話を切ろうとした私に
『もっと話しをしたい』
そう言った。
『今まで話せなかった事、もっともっと話したい』
彼の声は打って変わった様に真剣で。そして私も同じ気持ちだったから
「そうだね」
って頷く。
「今度会った時、いっぱい話そうね。今まで話さなかった分、話そうね」
私の中には優しい気持ちが沢山溢れている、そんな気がした。


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                 あとがき           
            


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Date:2009/08/28
Trackback:0
Comment:4
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

*

幸せを分けてもらった気がします。
ありがとう♪
2009/08/28 【tomo】 URL #- [編集]

* > tomo ちゃんへ

そう言ってもらえると嬉しいです ♪
この二人、色々有りましたからね ♡
2009/08/28 【廣瀬 】 URL #- [編集]

*

勝利がんばってたんだね。
そろそろ二人が幸せになってもいいんじゃない?
廣瀬さん、神の手でなんとかしたあげて~~(笑)
2009/08/28 【kanon】 URL #F/BsZWm2 [編集]

* > kanon ちゃんへ

彼なりに頑張っていました ♪
でも涼子視線で書いている都合上、なかなか現しずらかったです。
でもこれからは、ねぇ ♡
何てったって ロマンス! 書きたいですからね~。
2009/08/29 【廣瀬 】 URL #- [編集]

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