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70 七年目の後悔


 30歳を過ぎると急におばちゃんになった、そんな気がする。気持ちは若いんだけど、する事にどこか抑制かかって、簡単にやりたかった事を我慢できる様になっている。
 ピザソースの染みがついた130センチサイズのTシャツを洗濯機に放り込み、10代の頃には
“有り得ない”
と思っていた今の年齢をおかしいと思った。あの頃の私は30過ぎて恋愛するなんて気持ちが悪いと思ってた。
『歳を考えれば?』
なんてね。でも今の私はそんな事を思ったりしない。同じ年齢で良い恋愛している子も知っているし、彼女達は生き生きしているから。むしろした方が良いってそう言える。でも、だからって言って自分が前向きになれる訳じゃない。私は少し緩くなった結婚指輪を右手で摘んでクルクルと回し、頭の中の稔に相談をしていた。
「どうすれば良いんだろう」
 大人になると
“自分だけの恋愛”
が出来なくなる、そんな気がする。好きなだけで暴走するなんて有り得ないし、まず最初に周りの事とかが頭に浮かんで来てしまうから。それに相手の事だってそうだ。本気で好きって言われたとして、どれほど好きなのか、どれ位迷惑かけても良いものなのか、私なんか特に子持ちだしって考える。確かに子供達の父親は勝利で、彼だってその事を100%知っている。でも私は自分がシングルマザーだって思っているし、勝利に限らず、男より子供の存在の方が大きかった。
 久しぶりに一緒に過ごした勝利は、歳をとったかもしれないけどあいかわらず魅力的だった。笑い皺が少し深くなっていて、その瞬間目尻にも皺が寄る。子供達と話すときの彼は純粋な感じで、私の存在を忘れているかの様に振るまい、低い声で何回も笑っていた。
 正直、惹かれる。だから余計に迷ってしまう。彼が手に入れる事が出来なかった事をあげたいと言う気持ちや、無理強いしたくないという気持ち。何事も無かったかの様にリセットし再スタートしたい気持ちと、きちんと話し合って全てをあからさまにして乗り越えた方が良いって気持ち。彼と面と向かって何かをするのが怖い気持ちと、また会いたいなって気持ち。それから、子供達が私達の関係を見てどう思うか、その事が不安だった。
「意気地がない」
そう思うけど、やっぱり息子が心配だった。
 そこまで考えて、あっ、やっぱ私は勝利の事気になるんだって思って落ち込んだ。落ち込んだのは自分の気持ちに気がついたからって事じゃない。もしかしたら勝利が会いたいって思っているのは私じゃなくて子供達だけかもって可能性がある、そう気がついたからだ。
「私って、自意識過剰?」
自分の事、笑っちゃった。きっと今でも彼は私の事を愛してくれている、そんな気はする。でも今の私に26の若さは無いし、ルックスだってスタイルだって悪くなっていて、彼を惹き付ける魅力は半減しているはずだった。残っている
“本物の私”
にどれほどの価値が有るのか分からないけど、失ったものばかりの今の姿を近くで見たら、彼だって気が変わるかもしれない。
 私の頭の中で古い歌がぐるぐる回る。マッキーの
“もう恋なんて”
だったかな? 振られて落ち込む歌。今の私はそんな彼より臆病で、恋をするのが怖かった。

 次の日の朝起きて来た天仁は開口一番
「勝利とは次にいつ会うの?」
と聞いて来た。いつもなら
『朝ご飯、何?』
って聞いて来るはずなのに、今回は違うらしい。
「ああ、それね」
私はキッチンに立ちながら用意していた答えを言う。
「昨日おじちゃんからメールの返事、来なかったのよね」
なんて。
「そっかぁ」
気落ちした様な息子の表情に嘘ついてご免ねって思いながら、やっぱりメールしないといけなかったかなって思った。
 昨夜寝る前、子供達は
『この次勝利と会う日を決めて欲しい』
そうせがんで来た。
『おじちゃん、僕たちとまた会いたいって言ってたよ』
屈託の無い笑顔。
『じゃぁ、ママがおじちゃんにメールして都合のいい日を聞いておくね』
そう約束したはずだった。その事を覚えていたらしい。むっとした天仁に
「おじちゃんだって忙しいのよ」
私はあいつに罪を被せその場を誤摩化そうとした。
「ちぇっ、自転車の乗り方、教えてもらおうと思ってたのに」
口元を尖らせる弟を、摩利がなだめる。
「おじちゃん、嘘つく様な人じゃないから、絶対連絡くれるよ」
なんて。嘘をついているのはこの私。連絡するのが怖いから。
「とりあえずご飯出来たから食べなさいね」
手早く作ったベーコンエッグを彼らの手に渡し
「ゴミ、出して来るから。先食べていて」
あらかた用意していたそれをつかんで外へ出る。エプロンのポケットに携帯を忍ばす事も忘れずに。エレベーターを呼ぶ間に
“昨日はありがとう”
それから
“子供達がまた会いたいって言ってます”
手早く打って送信。深く考えると言葉が決まらなくなりそうだ。朝の7時。もしかしたら迷惑な時間だったかもしれないって思うけど、無視した。どうせむっとされるのはこの私。どうって事無い。そして部屋に入った瞬間、携帯が着信を教えた。
「勝利だ!」
天仁が走って来る。
「そんなにおじちゃんが好きなの?」
私は少し呆れた声を出していた。そんな私に向かって
「それより早く出たら?」
摩利が鋭く、躊躇いのある心を突いて来る。
「うん、そうだね」
私は軽く手を払い画面を開ける。懐かしい名前。でも今回は
“M”
じゃない。
“余田勝利”
の名前がくっきりと浮かび上がる。
“こちらこそありがとう。良かったら空いている日を教えて欲しいのですが、昼に電話しても良いですか?”
子供達が見つめている。
「分かってるわよ」
返信画面、打ち込み
“お待ちしています”
送信。過去の私達じゃ考えられない丁寧な口調。
「今度の土曜日、撮影無いよ」
スケジュールをきっちり覚えている摩利が決定みたいな口調で話す。
「晴れると良いな」
二人はご機嫌で行ってきますを言って家を出た。

 今日の午前中は洗濯をたたんで、掃除して、ベーカリーシドの決算書を見る。そんな予定を立てていた。でも9時を過ぎた頃から携帯が気になり出し、まだ昼前だって言うのに落ち着かなくて何も手につかなくなってしまった。当然仕事も進まない。11時になっても部屋は散らかったまま。
「どうしよう」
昔からずっとそうだけど、私は困った時には必ず稔に相談していた。だからこの時もパソコンを立ち上げ彼と一緒に撮った写真をスクリーンにスライドショーで流してみた。何でも良いからヒントは無いかなって、そう思った。
 双子を両脇に抱えちょっとぎこちない表情で笑う稔。離乳食で顔をベタベタにした天仁を拭いてあげる手つき、微笑み。摩利の大好きなアンパンマンを上手に書いて見せびらかす誇らしげな姿。それから四歳になってすぐにお参りした七五三の全員お揃いの着物姿。
『汚しちゃ駄目!』
怒る私に
『目くじら立てるなよ、相手は子供なんだから』
のんびりと諭す稔。
『だって高いんだよ?』
口を尖らせると
『じゃあ、脱ごう』
なんて言い出して。
『それは駄目! 折角着たんだから最後まで着ていてよ!』
私の方が慌ててた。
『全く、稔って“馬鹿殿”?』
高価な着物を何とも思っていない姿に呆れる私の目の前で、晴れ着を着た男三人は
『馬鹿殿~馬鹿殿~』
と歌いながら電車ごっこを始めていた。
 今思えば、稔にとって大切なのはお金じゃなくて、思い出と言うか記憶だったんだろうなってそう思う。
 そんな事を思いながら、これが勝利とだったらどんなだっただろうって考えた。しょっぱな社宅に入って
『出来婚』
とか言われ、でもきっと私は開き直って暮らしていた事だろう。双子は物入りだから切り詰めなきゃってぼやいてみたり、あいつの帰りを待ちながら有りものの野菜で煮物を作って。四人で小さなテーブル囲みながら、休日は彼の膝に子供達が乗っている。私の空想はどんどん広がった。その映像の中の勝利の顔が、昨日の勝利の別れ際の顔と重なった。それは突然私の背中に厚くのしかかり、胸元をぎゅっと締め付けた。彼から奪った
“幸せ”
の重さは、私が抱えている
“幸せ”
の重さだ。もしも、もしも私の中に有る稔や子供達の記憶が無くなってしまったら。私達が過ごして来た月日が影も形も無くなってしまったら。それは辛いとか悲しいとか、感情で表わされる言葉じゃない気がする。その事を想像した時、深い穴の底、光の届かない魂の落とし穴に落ちた、そんな感覚が私の中に沸き起こって来た。
 もしかしたら勝利は今私が考えた様な世界を生きて来たのかもしれない、でもそうじゃないかもしれない。どちらかなんて私には分からないけど。もし私だったら、そう考える。ここに来て初めて私は自分が
“された”
事以上に、勝利に対して
“した”
事を償いたい、そう思った。


   戻る     鏡 TOP    続く

            
            オマケ付きの あとがき 
                


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Date:2009/08/21
Trackback:0
Comment:8
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

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* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2009/08/21 【】  # [編集]

*

涼子の色んな面から想像?妄想?しちゃう気持ち
よくわかります。
好きだから悩むんだよね。
この恋、楽しくなりそうだね。
2009/08/21 【tomo】 URL #- [編集]

* 8/21 匿名様

ありがとうございます!
早速訂正 ♪ 応援もさんきゅっ ♡
2009/08/21 【廣瀬 】 URL #- [編集]

* > tomo ちゃんへ

うふふっ。
折角だからもう少しすれ違うかも ♪
子供がいて恋愛するのって、また別の意味で楽しそうですよね。
外野の為にも(にやり)すったもんだしてもらおっと♡
2009/08/21 【廣瀬 】 URL #- [編集]

*

更新ありがとうございます。じれじれしながら、相手が過去の男なだけにドキドキも。失った時間よりも、4人で一緒に創れるこれからの時間に目を向けて頑張れ!!まだまだすれ違いますか?まぁ別れ方があれですもんね、悩んで迷うのも当然かなぁ。
2009/08/22 【mimana】 URL #- [編集]

* > mimana ちゃんへ

これからのお悩みポイントは アレ♪ です。
うふふっ ♡
でもそんなに焦らしませんからご安心を。
2009/08/22 【廣瀬 】 URL #- [編集]

*

更新うれしいです。
ダディって子供に呼ばせている人物がいるから、これから勘違いはありそうかな・・・?
2009/08/26 【】 URL #L8AeYI2M [編集]

* 8/26 匿名様

コメントありがとう♪ うふふっ、呼び名に注目してくれてありがとう♡ 最後のキーワードになります。
2009/08/27 【廣瀬 】 URL #- [編集]

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