ストーリーズ・イン・シークレット

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68 病室の風景


 自慢になるけど、私の子供達は二人ともとっても良い子だ。見た目もばっちりだけど、それ以上に優しくって素直で思いやりがあって。頭を抱える事も多いけど、それ以上にいてくれて力をもらえる。そしてある瞬間などは私が思っているよりもずっと賢く、とても大事な事を教えてくれる。それはまるで
“裸の王様”
に出て来る
“子供達”
みたいに。
 目の前の勝利はまるで扉そのものが人間ででもあるかの様な顔つきで目を凝らし、それから困った様に唇を開きかけ私を見た。こんな事、予想していなかったんだろうなって思う。思わず顔の端に浮かんで来てしまう表情を誤魔化したくて、私はうつむく。
「あの子達が助けてくれた人にお礼を言いたいんだって。だから聞いてあげて、ね? そんなに緊張する事、無いでしょう?」
勝利がごくりと唾を飲む音が病室に響き、躊躇いを伝える。だからだめ押しをした。
「子供が頭を下げたいって言って来ているんだから、受けてあげるのは大人の義務だよ」
そう、これは大人の義務だ。彼の立場がどうだからというのではなく、大人だったら果たさなければいけない社会的な役割。その思い立ちが私の背中を押していた。同時に飛び出したのは
「あんたが助けた命なんだから」
自分でも意外な一言だった。
“あんたが責任もってよね”
今、この瞬間にその言葉が頭に浮かんで来るとは思ってもいなかったし、彼に向かって言う事になるとは考えた事も無いセリフ。私は自分の言葉に動揺し、
“何を言われたのか”
まだ気がついていない印象の勝利に背を向け
「待っててね」
軽く手を振り、ドアをすり抜けた。
 二人は窓の大きな明るいラウンジでお絵描きをしていた。足早になりそうな気持ちを堪え、ゆっくりと歩く。すぐに気がついて
「ママ!」
叫びながら駆け寄って来るのは
「天仁。ここ、病院だから静かに」
そして弟のペンも片付け緊張した面持ちで歩いて来るのは
「ありがとうね、摩利」
「うん」
お兄ちゃんの方。全く違う二人。当然私とも違う。
「おじさんはね、病人だから」
あたしは二人の頭をゆっくりと撫でた。
「うるさくしちゃ駄目だよ」
「うん!」
間髪を入れずに答えるのは天仁、静かに頷くのは摩利。天仁の垂れ目と摩利の寡黙さは勝利譲りだ。
「静かに、良い子にね」
その言葉を繰り返し、私はゆっくりと二人の手を引いた。病室に辿り着くまでの数秒間、勝利に落ち着く時間をあげたいなって思ったから。それから閉まっている扉の前で少し深呼吸して、中にいる彼に私達の存在を知らせた。
「邪魔するね」
扉を開け、子供達を先に部屋に通す。勝利は頑張って起き上がろうとしていた。
“無理しなくていいよ”
と言いかけ、無理したいんだなって思って、
「待って」
彼を止める。
「ベッド、上げても良いの?」
病院のベッドは足下にある金具を回せば起き上がったりできる仕組みになっている。
「あっああ、大丈夫。今朝普通に飯、朝ご飯食べたから」
「そう、良かったね」
私はしゃがみ込みその金具を回した。
「これくらい、大丈夫?」
“ベッドを45度上げる”
その角度を私は体で覚えていた。
「あ、ありがとうございます」
言葉に詰まる勝利の事を
「このおじちゃんはね」
立ち上がり手を払いながら子供達に説明した。
「ママの昔の知り合いの人なのよ」
「へ~」
好奇心一杯の瞳で見上げる天仁に、私達を見比べる摩利。
「教えていなかったね」
私は笑いながら付け加えた。
「ママが昔働いていた会社の同僚。同じ会社にいた人なのよ。だから、知り合い」
不思議な沈黙が流れ、みんながお互いの
“距離”
を計り合っていた。
「良かったら、こっちにおいで」
最初に動いたのは勝利。
「顔、見せてくれるかな?」
天仁は私の方を振り向きかけ、摩利は躊躇う弟の手を引いて彼の懐へと真っ直ぐに近づく。そしてぺこり。摩利は頭を下げ
「弟を助けてくれてありがとう」
そう言った。
「あっ」
勝利が言葉を漏らす。釣られる様に天仁が頭を下げ
「ありがとうございました!」
追いつくその声に勝利が目を丸くした。そうだ、と思い出す。こいつは驚いた時、童話の
“しろいうさぎとくろいうさぎ”

“びっくり顔”
になるんだった。私は思わず笑いを漏らしてしまったけど、勝利はそれに気がつかず
「偉いなぁ」
そっと目を細め、見つめ合い照れ照れと笑う子供達に視線を注ぎ
「本当に、本当に偉いなぁ」
柔らかい声で話しかけていた。
『その気持ち、分かるよ』
って言ってあげたかった。私もそうだったから。昨日家に帰り子供達と事故の話しをしていて、摩利の発した
『ねぇ、ママ』
控えめな、それでいてきっぱりとした意志を持つ
『天仁を助けてくれたんだから、その人に会ってお礼が言いたいな』
の一言に、この子達を産んで良かったなぁって思った。教えなくても、本当にこの子達は優しい。そして私が子供達を連れてこようと決心できたのも、その一言があったからだと思う。親って、良い。親は子供の為ならいくらでも馬鹿になれるから。
「善い子でしょう?」
私は二人の肩をそっと押して彼の方に近づけた。子供達はもじもじしながら目配せし、
「ねぇ、痛くないの?」
痛いに決まっているのにそんな事を聞く。
「ああ、これね」
彼はギブスを指差しながら
「平気だよ」
と答えた。
「おじさんは学生の頃、自転車競技をやっていてね、しょっちゅう転んじゃぁいろんな所怪我していたからね」
「へぇ、それでも死ななかったんだぁ」
子供は残酷で不躾。
「天仁!」
しかる私に
「ご免なさ~い」
ちっとも怒っていない勝利の表情を読みとって、ふざけて返してくる。
「ねぇ、ところで君に怪我は無かったの?」
勝利は天仁の頬を撫でた。
「うん、大丈夫」
彼はにこにこと笑いながら頷いた。勝利の中に
「良かった」
言葉以上の感情が溢れていた。
「所で君たちは幾つなの?」
ほんの少し頭を下げ、子供達の視線に自分を合わせる仕草。
「六歳」
「六歳です」
彼の中で
“六年間”
が過(よぎ)ったのが目に見えた気がした。
「六歳かぁ。って事は小学校に行ってるの?」
「うん」
「学校は楽しい?」
「うん」
「何が一番楽しいの?」
「給食!」
「へ~。じゃぁさ、給食は何が一番美味しいの?」
「揚げパン!」
「僕はフルーツポンチ」
「あっ、僕もそれ!」
日頃大人に囲まれている二人は物怖じする事なく勝利と話した。天仁の大振りのゼスチャー。少し先走る会話に、フォローする摩利。
「所でおじさん、なんて名前? 僕は天仁。天の天に、人が二人」
「僕は摩利。女の子みたいな名前だけど、神様の名前からもらったって、パパが言っていた」
すると勝利は
「天仁君と摩利君か。良い名前だね」
なんて言いながら、首を傾げた。
「って事は、二人の名前は
“摩利支天”
からもらったの?」
疑う様な声に、
「うん! よく知ってるね!」
珍しく摩利が勢い良く答えた。
「“摩利支天”
って名前の武運の神様からもらったって。パパがつけてくれたんだ。格好良いでしょう?」
彼は日頃その整った容姿と名前の所為で
『マリちゃん』
と呼ばれる事が多く、私には文句を言った事は無かったけど、不満は有ったんだなって感じた。
「おじさん、よく知ってるね」
身を乗り出した摩利に
「おじさんの名前は漢字で
“勝利(しょうり)”
って書いて、
“かつとし”
って呼ぶからね。」
彼はやんわりとそう言った。
「“勝利(しょうり)”
って言うのはね、
“戦いに勝つ”
って言う意味なんだよ」
ここに来て私は初めてその事に気がついた。
「摩利支天は戦国武将が信仰した有名な
“勝利の神様”
だから、おじさんとの関係も深いんだ」
稔がつけた二人の名前はそれが本当の意味だったんだって。皮肉だけど勝利の名前の上の位の名前を付けて牽制して、それでいて縁をつなげていたんだなって。そのくせ本当の事は私には分からない様に遠回しに話し、さりげなさを装っていた稔の複雑な部分を感じていた。そんな私に気がつくはずもなく、勝利は二人の頭を交互に撫でた。
「本当に良い名前だね」
「うん」
「勝利もな」
ずに乗った天仁がため口を聞く。
「ちょっ! 駄目でしょう!」
止める私を
「良いから」
彼が制する。
「勝利って呼んでもらって構わないよ」
 それから三人で仲良くおしゃべりをしていた。不思議な光景だった。まるで稔が生きているみたいだと思った。子供達は好奇心一杯で勝利の話しを聞き、勝利は忍耐強く彼らの相手をする。話しは途切れる事なく続き、笑いがさざ波の様におこった。
 気がつくと結構時間が経っていて
「もうそろそろ行こうか。おじちゃんは怪我しているから長居すると疲れさちゃうよ」
声をかけた私に
「もう少し待って」
天仁が甘える様な声でおねだりをした。
「それにね」
彼が指差したのは真っ白いギブス。
「おまじないを描いてあげるんだ」
「はぁ?」
何を言っているのか分からない私に摩利が教えてくれる。
「ほら、智ちゃんだよ」
智ちゃんというのは二人の幼稚園の頃からのお友達。その子も先月骨折をして足にギブスを巻いていた。
「早く治るようにって、その白い所にみんなでおまじない描いたでしょう? 天仁はその事を言ってるんだよ」
なるほどって、智ちゃんのギブスに描かれたカラフルな模様を思い出す。
「でもこの人は大人だよ?」
さすがにそれは駄目だよなって思った。私は今の勝利を知らない。そのギブスに子供の絵が描かれている事が暗示する事を、彼の
“今の生活”
は喜ばないかもしれないし、一気に詰まっていく勝利との関係に戸惑いを覚えていた。にもかかわらず
「いいね、それ」
勝利は私の顔色を伺う様な顔つきで二人に話しかけた。
「二人に描いてもらえれば、おじさん、早く治ると思うよ」
「やった!」
喜んだ天仁は素早く摩利の持っていたバックから色ペンを取り出し
「何描こう!」
大はしゃぎだ。摩利は折れた腕を見つめ
「早く治ると良いね」
何かを思い出す様な顔つきで笑い。
「でもね」
勝利は少し困った様な声で
「ママに聞いてみないとね。もしかしたら時間がないかもしれない」
その言葉はクッションだ。私が
『駄目』
を言いやすい様に。
「許してもらえるか、聞いてみないとね」
選択権を持つのはこの私。三人から注がれているのはそれぞれちがう感情。それでいて六つの瞳は
“期待”
に大きく見開かれていた。


   戻る     鏡 TOP     つづく

                       あとがき



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Date:2009/07/31
Trackback:0
Comment:8
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

* うふふふ~

4人そろいましたね!
その様子を天から稔が微笑みながらながめて居る気がします・・・
涼子と勝利、幸せになって欲しいな・・・
2009/07/31 【kanon】 URL #F/BsZWm2 [編集]

* > kanon ちゃんへ

うふふふふ~♪ 揃いましたとも。
さてこれから彼らはどんな駆け引きを始めるのでしょうか。
お楽しみに。
2009/08/01 【廣瀬 】 URL #- [編集]

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2009/08/01 【】  # [編集]

* >8/01 鍵コメ様へ

うふふっ、そうなんです。
子供達の名前は勝利と繋がっていたんです。
人の縁って分からないと思います。

誤字の指摘もありがとうございます。
速攻! 直しました、ありがとう!
2009/08/01 【廣瀬 】 URL #- [編集]

*

本当に尊敬しちゃいます。
小説って色んな知識が豊富じゃないと
書けませんよね~。
いつも楽しませてもらってありがとう。

私としては、なんとか二人が仲良くなって
まためくるめく・・・を・・♪
2009/08/04 【tomo】 URL #- [編集]

* > tomo ちゃんへ

いえいえ、雑学ばかりで恐縮です。

これからの二人は様子を見ながらじりじりと♡
2009/08/05 【廣瀬 】 URL #- [編集]

*

子どもに教えられることってたくさんありますね。正直な分残酷だから、大人は偽善を突きつけられて恥ずかしくなることもあるし我が身を振り返って反省したり。だから育児は育自って言われるんでしょう。でも大人も皆んな子どもだったわけで忘れてしまっただけなんでしょうけど。だから、小さな大人にならなくていいと私は思ってる。しっかりはしてほしいけど、子どもでいられる時間を大切にしてほしい。私が母親のせいでいつも顔色を伺っていないといけない子ども時代を送ったから、余計にそう思います。過保護との境界を見極めるのも難しい、いずれこうやって悩んだ日々を懐かしく思うんだろうと今から感傷にふけってどうするんだ?(笑)子どもと一緒に笑って泣いて怒って哀しんで、そんな毎日をとても大切にしたいです。勝利は6年(ほんとは妊娠期間を入れて7年)と子どもの口から言われて失った時間が悲しかったかなぁ。
2009/08/06 【mimana】 URL #- [編集]

* > mimana ちゃんへ


『私が母親のせいで
いつも顔色を伺っていないといけない子ども時代を送ったから』
の気持ち、分かります。
私は自分が親になって初めてそんな自分のあり方に気がつきました。
そして今でもそれを引きずっていたりします。

子供もむずかしいけど、大人も難しい。
親はもっと難しい! 

考える事が有り過ぎて辛くなるときが有りますが、
何も経験のない人生を送るよりはずっと幸せだと言い聞かせ、
とりあえず頑張っています。

mimana ちゃんも頑張りましょうね!

勝利は『悲しいけど、こうして会えたからそっちを喜ぼう』
と自分に言い聞かせているみたいです ♪
2009/08/06 【廣瀬 】 URL #- [編集]

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