ストーリーズ・イン・シークレット

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65 思い出の残像


 乗り込んだ救急車は渋滞の都内をぎこちなく走った。救急車の中ってサイレンあんまり聞こえないね、なんてことを考えながら私は典子の電話番号を押す。
「ご免、休みの日なのに」
応える彼女の声は朗らかで
『良いよ~、それよりさぁ、私も話しが有ったんだよね~』
なんて話しを始められそうになり、
「悪い」
素早く遮る。
「旦那と代わって」
だって目の前の担架に横たわる勝利はぐったりしていて目も開けず、その首にはがっちりとしたプラスチック製の首輪みたいなのがつけられていて。目を反らしていてもヤバい事がよく分るから。
「大変な事起きたから、すぐに青山と代わって」
気味が悪い位冷静な声が私の喉から漏れ
「勝利が」
言いかけて口をつぐむ
“死ニカケテイル”
そんな事、言葉が現実になるって有りそうで、口が裂けても言えない気がした。
『なに、勝利って?』
彼女は一瞬分からないって声を出し
『あっ!』
小さく息を漏らし、慌てて
『大丈夫?』
物凄く心配そうにそう言った。何が大丈夫かなんて今の私には分からない。
「とにかく、青山、出して」
慌てて彼を呼ぶ典子の声、それから
『おう』
相変わらず能天気な返事。私はそれにイライラしながら
「勝利、家族は?」
って聞いた。
『何だよ、急に』
こいつの鈍すぎる反応に腹が立つ。
「怪我したから。交通事故。だから早く家族に連絡して」
彼の指に指輪はなかった。でも迂闊な事は言えない。結婚しているかもしれないし、子供だっているかもしれない。私がそうである様に、今の彼にも守るべき家族がいるかもしれない。
「勝利、今救急車の中で病院向かってるから。あんた今でもこいつと同じ会社なんでしょう?」
『あ、ああ、ああ。って、どうしたんだよ、何が有ったんだよ。交通事故って、何だよ』
急に電話向こうが騒がしくなりその慌てる雰囲気が私に伝染しそうで何とか距離置こうとした。私は落ち着かないといけないんだから。
「後で話すから。今はとにかく家族に連絡して私の携帯に電話する様に言って。急いで!」
無駄に話すと気持ちが弱くなりそうで、それだけ言って電話を切った。本当はなんて言えば良かったんだろう、そんな事を考えていると
「ありがとうございます」
救急隊の人がさもありがたそうに頭を下げた。
“別に”
って思った。別にお礼を言われる事なんかしていないじゃんって。
「こういう時、出来るだけ早くご家族の方にお知らせしたいものなんですよ。心情的な部分も有りますけど、手術とかになった場合、同意が必要になりますからね」
微妙な苦笑いに
「そうですか」
思わずうつむき、横たわる勝利を見た。何年ぶりかなって考え、子供の年齢プラス1年だって思う。6プラス1。7年。蛇腹の様に折り重なった悪夢がふと目の前に広がり、一瞬頭の中が真っ黒になる。でもそれが全て
“過ぎた事”
なんだってすぐに悟った。
 酸素マスクをしてぐったりしている勝利。血だらけのその顔でも彼はあいかわらずハンサムで、こんな時だって言うのにごく普通のボタンシャツが物凄く似合ってた。こうやって見下ろしていると私と同じ年だって思えない位若くって、あいかわらずモテてるんだろうなって思う。それでもその目尻に浮かぶ細かなしわに彼なりの人生を送って来たって事も感じる。
 どういう経緯で天仁の事助けてくれたのかは分からないけど、勝利が命がけであの子の事を守ってくれた事は確かで、彼が今でもそう言う人間だって事をあの子が助かった事同様に嬉しいって思った。

 彼の兄だと名乗る男の人から電話がかかって来たのは、勝利が病院に運ばれてすぐの事だった。
『何が有ったんですか?』
焦っておかしくないはずの状況でその声は妙に落ち着いていた。
「く、車にひかれたんです」
私は知っている事を全部話した。私の子供を助けようとした事も、頭から血を流し気を失った事も。それなのに
『大丈夫ですから』
彼はむしろ私を落ち着かせるかの様に言った。
『勝利は大丈夫です』
その自信がどこから来るのか分からなくって、でもそれがとってもありがたい事の様に聞こえ
「はい」
遠く北陸にいるというその人に届く様に
「私もそう思います」
携帯に向かって頷いていた。

 少ししてから警察の人達が
“事情聴取”
をしにやって来た。でも結局私はひかれた場面に居合わせた訳じゃないって事が分かると
「それではできるだけ早くお子さんと話しをさせて頂けますか?」
って言われ、子供達を任せていたジョージに電話で事の次第を告げた。彼はそれなら警察まで子供を連れて行くからと言い、その人達は潮が引く様にいなくなった。 
 がらんとした待合室に独り取り残された私。ふと気がつけば携帯以外何一つ持っていない。静かすぎるこの空間で、ともすれば恐ろしい事を考えそうになる。今こうしている間に勝利が死んでしまったかもしれないと。頭の中を心肺停止のアラーム音がかすめ、呼吸器をつけられた勝利を上から見ている気分だった。おかしいね。たった1時間前の私は彼の事をすっきりと忘れた人生を送っていたんだから。この過ぎてしまった7年間の間、私はむしろ彼の事を考えない様にして来た気がするから、もしもその間に彼が死んでいたとしても当然私は気がつく事もなくいつもの生活をしていたんだと思う。それなのにこんな有り得ない様な偶然で再び巡り会うなんて思いもよらなかったし、どうでも良いから勝利に、子供達の本当の父親に死んで欲しくないって思ってた。
 そんな事を考えていると小さなノックの後、
「あの~、余田勝利さんと一緒にいらっしゃった方ですよね。」
小柄な看護師さんがドアの隙間から顔をのぞかせた。
「はい、そうです」
思わず立ち上がり
「彼は無事なんでしょうか」
彼女に詰め寄っていた。
「あの、そう言う事ではなくて。貴重品の受け取り、お願いしたいんですけど。」
こんな時にこういう仕事をする看護師さんもいるのかよって、どうでも良いから勝利助けてよって考えが頭の中をよぎる。でも仕方が無い。人が沢山いれば助かるなんて事無いんだしね。カッカしていて大人げない自分が馬鹿みたいだ。
 貴重品の受け取りだから私は家族じゃないのに良いのかなって思ったけど、看護師さんは当然みたいな顔をしているから、素直に書類にサインをして財布を受け取った。その人は部屋を出る時、思い出した様に振り返り、
「今、CT検査に行っていて、脳の状態調べていますから」
そう告げた。
「詳しい事は後で医師から話しが有りますが、検査次第でどうなるか分からないので、今しばらくお待ちくださいね」
それは結果的に
“まだ死んではいない”
って事しか私に教えてはくれなかったけど
「ありがとうございます」
部屋を出て行く彼女に頭を下げていた。
 そして再び訪れた沈黙に行き場を失いながら、何気なく彼の財布を眺めていた。その財布には見覚えが有った。
「物持ち良いなぁ、あいつ」
思わずそう呟き、ずいぶんと年季の入った革の表面をそっと掌で撫でてみる。薄暗がりのラブホテルのロビー、取り出される千円札と馴染みの店のポイントカード。物凄く貧乏臭くってリアルな思い出。それでもあの瞬間はそれでも良いって思ってた。遊びじゃないと手に入らないって信じていた幸せの断片が割れた鏡の様に私の心に突き刺さる。
「ご免ね」
今更言っても遅いけど。私達は薄く張った氷の池の上をダンスしていた、そんな気がする。分かっていてした事で、だからこそもし相手を大切だって思ったら一刻も早く止めないといけないゲームだったんだ。その時
「あっ!」
手元が滑り、落ちた財布の中身が飛び出し床に散らばった。四方に飛び散る薄い紙。
「やっちゃった」
それはコンビニのレシートにビデオ屋のカード、免許証。小さな写真の中の彼は少し緊張気味の顔つきに似合わないネクタイ。7年前の勝利とあまり変わらない気がした。少し垂れ気味な目元と、整った唇。表情が優しくて、どちらかと言うと女顔。あたしはその面影をいつも天仁の中に見ていた。誤摩化し様にも誤摩化せない親子の特徴がそこには有って、悔しいけど、子供は父親そっくりだった。
「参っちゃうね」
彼の本籍地は石川県。誕生日は7月7日。もうすぐだ。しかも七夕だし。そんな事、一度も話した事無かったね。そして現住所は私達がよく遊びに行くあの公園のすぐ近く。もしかしたら今日会ったのは偶然じゃなかったかも、そんな事を思いながら残りの紙を拾った。その中に、何だか彼にそぐわないものが有った。ぽち袋みたいな大きさの真っ白い封筒。それは結婚式で使われる様な立体的な模様が刻んであって、これが勝利にとってかなり特別なものだって教えてくれていた。
「何だろう」
見ちゃいけないって分かってて、でも好奇心に負けてそっと中身を取り出した。それは見覚えの有る写真。
「これって……」
そこにいたのは真っ白いウエディングドレスを着た私。夜会巻きの髪にピンクの造花のブーケ。真っ直ぐこっちを見つめるはにかみ笑い。でも私がこんな格好をしたのはたった一度しかない。あの成田での偽デートの時だけだ。見覚えのあるその画像。懐かしさよりももっと、何か込み上げて来る想いに胸が詰まりそうだった。
「私、綺麗だったじゃん。」
手の中で笑う26の私。真っ白いリボンテープのウエディングドレス。嘘つきの私。頑張って笑って、幸せ演じている私。そんなつもりなんか無かったけどさ、涙が込み上げて来たよ。あの時の写真はこれよりもっと大きくて、だからこれが別にスキャンして焼いた写真だってすぐ分かる。
「何でだよ。」
何でだよって。勝利は私にとって過去の男だった。それなのに、ああって。彼は私の事、まだ愛していてくれたんだって。彼の指先がそっと写真の中の私の頬を撫でている、そんな気持ちが痛い程伝わって来る気がした。

 面会の許可が出たのはそれから3時間もたってからのことだった。




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Date:2009/07/03
Trackback:0
Comment:6
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

*

7年間、涼子のこと想い続けていたんだね・・・
涼子たちの近くに住んでそっと見守り続けてくれていた・・・
速く勝利を目覚めさせてあげて~~~!!(笑)
2009/07/04 【kanon】 URL #F/BsZWm2 [編集]

* > kanon ちゃんへ

さて目覚めた勝利の第一声はどんなだと思います?
これまた彼らしいですからね。
お楽しみに♪
2009/07/04 【廣瀬 】 URL #- [編集]

*

ぐっときちゃいました(;;)
勝利・・カッコよ過ぎ(;;)
早く~~~!!起きて~~~!
2009/07/04 【tomo】 URL #- [編集]

* > tomo ちゃんへ

勝利らしいでしょう?
ウエディングドレスの写真のシーン、書きたかったんです♪
まさかここでつながるとは思わなかったでしょう?
まだまだ色々有りますからね。お楽しみに♡
2009/07/04 【廣瀬 】 URL #- [編集]

*

更新ありがとうございます。もしあの時素直に気持ちを言えてたら、と思うことがあります。時間は戻せないと気づくのは何かを失ってからでしょうか。稔の死を経て、ジョージも前に歩き始めたし今度は彼女の番かな?
2009/07/07 【mimana】 URL #- [編集]

* > mimana ちゃんへ

はい、これから落ち着く所に落ち着かせて行きますね。
リアルでは一度道を間違えてしまうともう元には戻れませんが、
小説だったらなんとかなります。
というか、勝利のあの性格が今回は吉と出そうです。
2009/07/07 【廣瀬 】 URL #- [編集]

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