ストーリーズ・イン・シークレット

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64 最後の言葉


 それはいつもと変わらない休日だった。5月の澄み渡った空と青々とした芝生。私達は自宅からほんの少し行った所にある都内の大きな公園でランチボックス片手にピクニックを楽しんでいた。摩利と天仁はきゃあきゃあと騒ぎながらサッカーボールを追いかけ、私はそれを眺めている。その輝きはあの別れの日から1年以上が経ったなんて夢みたいだって私に思わせてくれた。二人の子供達は無事に小学校に入学し、それぞれに友達ができ楽しくやっていて、暮らしにも困らず過ごしている。
 あれから典子は青山と一度は分かれたものの、結局彼が泣きつく形でゴールインをした。鹿子は急に思い立ちアメリカの博物館に修行の旅に出て。志努青年はお店を軌道に乗せ、紫乃ちゃんは今度は無事に子供を出産したばかり。弟は最近出来婚をすることになり、お嫁さんになる人は
『悪阻が苦しくって大変なんです。でも彼、イマイチ頼りないし。お姉さん、助けてくださいよ~。お姉さんが一番頼りになるんだから』
って電話をくれ、私と実家をつないでくれている。お婆様は亡くなり、あのお地蔵様は土地開発で別の場所へ移動し、今ではきちんとした祠に収められていて、田舎の風景も変わってしまっていた。変わってしまったと言えばあの糠漬けの味もそうだ。東京の空気を含みすこし香りが薄くなり、その分僅かな酸味を増していた。そして私はもうすぐ33。女を卒業しても良いやって気持ちの、短い髪とペタンコ靴。履き古したジーンズにエコバック。天仁の
「ママは綺麗にしていないといけないんだよ。それって義務だからね」
の言葉に
「はいはい」
重い腰を上げ、ともすれば忘れがちになる“おしゃれ”をしていた。男の子ってこういう所厳しいなって思う。
 ジョージは結構元気にしていて、今でも私とあのマンションに暮らしている。しかも2ヶ月前から今彼の卓ちゃんがやって来て同棲を始めていた。この卓ちゃんというのは彼が個展をやった時に会った、あの卓ちゃんだ。彼はジョージがHIVだって知っていてつき合ってるし、ジョージも過去の罪悪感を少しつづ修復している、そんな感じだった。でもこの二人は稔の最後の言葉が無かったら復縁する事は無かった、そんな気がするのも確かで。
「恋人を作ってね」
稔は死の間際に私達にそう繰り返した。
「独りの人生は寂しいよ。僕みたいに、最後は大切な人に見守られて逝く人生こそが幸せだから」
彼の青白い肌と、落ち凹み飛び出しそうな程膨れ上がった瞳に
「分かった、約束する」
私達は迷う事なく頷いていた。稔にお願いされたらどんな無理な事でも叶えてあげたかった。かといって彼が亡くなってすぐ新しい恋人を作ろうなんてお互い思うはずもなく、そして時間は行き過ぎる。
 私は結局子育てに振り回され、慌ただしい毎日の中で彼の記憶を薄らがせ、でもジョージはしばらく引きずっていて、落ち込み、仕事に熱が入らない状態が続いていた。そんな彼をかいがいしく
“様子を見に”
来る卓ちゃんがいた。稔のことが有って一度は振られた彼だけど
「これって仕事だからジョージさんの世話しているだけですから」
なんてことを言って肩をすくめていた。その姿をいじらしいなって思ってた。
 きっと昔のジョージだったら、どれだけ卓ちゃんがジョージの事を好きだったとしても心が揺らぐ事なく稔に操を立てていたと思う。冷たく、突き放すみたいに。でも今の彼はそうじゃなかった。
「俺さ、卓とまたつき合う事にしたんだよ」
半年前に照れながら私にそう報告した彼は、ある意味とっても誇らしげだった。
「あいつの気持ちに応えられるか、正直今の自分じゃ分からないけどさ、でも良いやって。自分ばっか頑固で、頑で、融通効かないガキみたいな生き方していたら、稔が天国で悲しむからさ」
なんて、妙に大人ぶって笑ってた。
「おめでとう」
彼が自分の弱い所も含めて自分の人生可愛がっている気がしてとっても嬉しかった。卓ちゃんがジョージの所にやって来る回数が増えるにつれ、自然に子供達とも仲良くなっていたから
「こうなったらあんたはダディで卓ちゃんは“お兄ちゃん”だね」
一回り近く年の離れたカップルを私は笑顔で祝福した。
 元サッカー部の卓ちゃんと一緒に跳ね回る子供達を見ていてそんな事を思い出していた。ジョージは最近になって疲れやすくなって来て、今は木陰で昼寝をしている。その髪の毛の一本に白髪を見つけ時間が経つのって早いなって思った。
『お前も稔の遺言、果たせよな』
ジョージは酒に酔うとマジとも冗談ともつかない声でそう繰り返す。
『は~い』
私は適当に相槌を打ち、卓ちゃんがそんなジョージから私を助けてくれていた。
 でも今更男なんて要らないと思う。私の人生は完璧でこれ以上無い位満ち足りている。私の恋人は子供達だ。しかもとびきりハンサムで優しいときている。それに目下の心配事は他に有って。
「あれ? 天仁はどこ?」
ふと目を放した隙に見えなくなる子供。
「天仁!!」
すると木の影に隠れた小さな姿が
「ママぁ」
と泣いていた。
「どうしたの?」
彼の膝にはかすり傷。
「怪我しちゃったぁ」
その声はかなり情け無く、傷の大きさとはまるで比例していなかった。
「これでお仕事できなくなっちゃったらどうしよう」
目立ちたがりやの天仁は最近になり俳優になりたいと言い出していた。しかも運の良い事にそこそこの養成所から来ても良いよと言われていて。
「大丈夫、そんな事気にしないで」
私はウエットティッシュを取り出し彼の傷を拭った。この子が気にしているのは、怪我が原因で俳優失格と言われてしまう事だった。なにしろ浮き沈みも厳しければ競争も厳しい世界。それを子供なりに感じているらしい。でもこれっぽっちの怪我で辞めさせられるなんて大げさで、子供の考える事だなって思う。だからあえて
「男の子なんだから少しぐらい怪我してたって大丈夫よ」
そう言って肩を叩いた。彼は
「絆創膏は貼らないの?」
なんて弱々しく聞いて来るけど
「こんなのどうってこと無いわよ。」
本当にそう思うから、心配そうにこっちを見ている摩利に目配せをしながら
「ほら、しっかり遊びなさい」
再びサッカーの輪に戻した。
 それからしばらくして気がついた着信メール。
「あっ、まただ」
眉間にしわを寄せる私に
「どうした?」
ジョージが目を覚まし尋ねて来た。それは学校の方から流される不審者情報のメールだった。
「また変な人が出たらしいよ。今度は女の子の後をつけて来たらしい」
こんな話しを聞く度に今の世の中ってどうしちゃったのよって思う。有名な子供モデルに至っては、ストーカーと言うか幼児性愛者みたいなファンがいる事も有るらしく、誕生日に男の裸の写真が送られて来たとぶち切れていたママもいた。
「摩利君も天仁君も気をつけた方が良いよ」
その人は荒い息で私に忠告してくれた。
「今ってね、男の子だって油断できない時代なんだからね」
あたしはそのママの話しを聞いて他人事じゃないなって思ったものだった。それに先週あった懇談会で
“子供が誘拐されるのは保護者が目を離した隙の5分間です”
なんて怖い話しを聞いて来ていた。だからこそこうして遊びに来る公園も見晴らしがよく安全な場所を選んでいた。そのはずが。
「あれ? 天仁は?」
それはほんの少しの事だった。ちょっとだけ目を離した、それだけの事だった。ぐるっとあたりを見回しても彼がいない。
「ねぇ、摩利。天仁は?」
いまだにボールで遊んでいる彼に聞いてみると
「さっき“ちょっと”って言ってトイレの方に行ったよ」
なんて。
「ふうん」
私は納得したような納得しない様な気分で頷き、トイレの方向に目をやった。でも何かがおかしい。あの子はいつでも自分のしたい様にする事が第一で、落ち着き無く、いつでもどこかへ走っていってしまうから。しかもこの公園には大きな池が有り、好奇心いっぱいな天仁はその岸辺にいるヤゴ(トンボの幼虫)に夢中だった。私は
「まさかね」
って呟きながら、念のためにトイレを確認に向かった。
「天仁、いる?」
そこは小さなトイレだから外から声をかけても十分中に声が届く。
「天仁、いたら返事して!」
叫ぶ私に中から出て来た年配の男性が
「多分この中には誰もいませんよ」
そう教えてくれた。頭が真っ白になった気分だった。
「ジョージ! 天仁がいなくなったみたい!」
慌ててみんなの所にかけ戻り
「探してくるね」
携帯を握りしめ
「見つかったら連絡する」
物凄く嫌な予感がした。
「俺も行く」
ジョージが立ち上がり、
「お前、駐車場の方向探して。外に出ようとしたらあっちから行くから。俺は池の方を見て来る」
「うん!」
本当は一緒に池の方を見に行きたかったけど、見つける方が先決で。何だか頭の中がぐるぐる回って息切らしながら走った。
「天仁!」
必死で走りながらピント来るものが有った。そう、駐車場だ! きっとだけど天仁は車に戻ったに違いないって思った。あの子は傷が気になって絆創膏を貼って欲しかったんだって。でもきっと私もジョージも
『これ程度の傷』
と言って取り合わないのが分かってたから、自分でこっそり取りに戻ったんだ。そう閃いた瞬間、私の足は緩やかに加速を弱めた。それが災いした。
 もう一歩で駐車場だというその時、耳の奥を射抜く様な急ブレーキの音と、何かがぶつかる鈍い音が聞こえ、誰かが叫んだ。
「ひかれた!」
「子供が!」
「交通事故だ!」
悪い予感が体の中を駆け巡った。神様に助けてってお願いした。絶対にあの子だと思った。
「天仁! どこ!?」
駐車場の少し先の交差点のあたりに立ち止まる人だかり。そこに間違いないから
「通して!」
声張り上げて押し分ける。すると
「ママぁ」
目の前でその弱々しい声が私を見上げた。天仁はぐったりした男の人に抱えられ道路に横たわっていて。僅かな血の色が路面に引きずる跡を残し
「嘘……」
その事を信じたくなくて思わず首を振っていた。
「子供が飛び出して来たんだから!」
ヒステリックに叫びながらぐるぐると歩き回る女の人も、車の凹んだバンパーもどうでも良かった。
「大丈夫?」
こういう時、無理に動かしちゃいけないって知ってて、どうする事も出来ずに手を差し伸べると
「ママ!」
彼は素早く男の人の腕をすり抜け私の腕の中に飛び込んで来た。
「天仁! あなた、大丈夫だったの?」
奇跡としか思えなかった。
「うん、僕は大丈夫」
「どこも、何ともないの? 痛くない?」
いつもと変わらない天仁の
「全然平気」
見慣れた顔が私に微笑んだ。その事がとても不思議に思え頭が宙を彷徨っている気分だった。それを戻してくれたのが
「この人が助けてくれたの」
の声だった。その笑っていたはずの顔が不意に歪んで、天仁は火がついた様に泣き出した。
「この人が助けてくれた、この人が助けてくれた」
泣きじゃくりながら
「だから助けて! ママ、助けてあげてよ!」
叫ぶ彼に
「救急車、呼ぼうね」
私が今何をしないといけないかを思い出し、握りしめていた携帯開けて119を押す。その指が震えていている事に今更の様に気がついて、なんだ、自分も落ち着かなきゃって思い
「大丈夫だから、ね、天仁。落ち着いて」
子供に話すふりで自分に言い聞かせていた。
「僕の代わりにひかれたよぉ」
繰り返される悲壮な声に、周りを何も見ずに飛び出した天仁とそれを助けようとした男の姿が見える様だった。すぐ目の前のアスファルトの路面には死んだ様に動かない男の人がいて、一歩間違えば私は天仁を失っていたかもしれないっていうそんな恐怖に体が凍り付きそうだった。
「助けてあげるからね」
天仁に聞かせながら、この人が絶対に助かって欲しいって思った。人が死ぬのはもうこりごりで、ましてや誰も犠牲になんかなって欲しくない。死ぬはずがない人がいなくなるなんて惨すぎる。だから
「もしもし」
すぐにつながった電話に助けを求め
「交通事故で、男の人が怪我をして。早く来て!」
まくしたてていた。
「車にひかれて血を流しています。ええ、一人。男の人が一人。天仁を庇ってひかれたんです。天仁は私の子供で、子供は大丈夫っぽいです。でも男の人は重傷だから!」
とその時、べったりとした血を纏った男は僅かに顔を上げ、天仁に向かって
「無事だった?」
聞き覚えのある声で囁いた。
「嘘……」
見上げる彼の瞳は真っ直ぐに天仁に向けられていて、その姿を捉えた瞬間、はにかむ様な笑いを浮かべた。
「良かった」
唇が動き、ゆっくりとまぶたが落ちる。真っ黒くて少し癖のある髪。ちょっと垂れ気味な目元とその笑顔。ぶっきらぼうだけど柔らかい話し方。忘れたくても忘れるはずがない。
「勝利……」
二度と会わない、そう約束し、二度と巡り合わない、そう信じて疑わなかった人がそこにいた。


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Date:2009/06/27
Trackback:0
Comment:10
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

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* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2009/06/27 【】  # [編集]

*

きゃ~~
ついに来たわね!
まってたわよ~^^
2009/06/27 【kanon】 URL #F/BsZWm2 [編集]

*

来たね~。
現れましたね~。
でも事故って~~~(;;)
2009/06/27 【tomo】 URL #- [編集]

* 匿名様!!

ありがとうございます!
速攻で直しました。
気にはしているつもりですが、いつも同じ感じを間違う傾向に有り
気の引き締め方が甘いよなって思います。
ありがとうございました。

これから再び恋愛小説らしい恋愛小説に戻りますからね。

2009/06/27 【廣瀬 】 URL #- [編集]

* > kanon ちゃんへ

お待たせっ♪
やっぱ勝利に出て来て欲しいでしょ♪
2009/06/27 【廣瀬 】 URL #- [編集]

* > tomo ちゃんへ

だって彼にも体張ってもらわないとね~。んふふっ。
さて、33歳の勝利って、どんな感じでしょう♪
2009/06/27 【廣瀬 】 URL #- [編集]

* ひさしぶりぃ~~

勝利ぃ~~!!
久しぶりの登場ですでに気絶??!!
でも、どしてここへ?なんでここに?子供が生まれる前に逢ったのが最後なら・・・数年ぶりかぁ?!
その間ずっと??
あぁぁ、想像が想像をよんで膨らんでいくぅ~~
2009/06/29 【SORA】 URL #LkZag.iM [編集]

* Re: ひさしぶりぃ~~

> SORA ちゃんへ

そりゃもう、飲んだくれて、荒れて、色々悪さして、でもやっぱり勝利は勝利だから
自己嫌悪に落ち込んだりして。おほほほ~!
恋に苦しむ男性の姿ってかなり美味しいですよね♪(廣瀬S?)
2009/06/29 【廣瀬 】 URL #- [編集]

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このコメントは管理人のみ閲覧できます
2009/06/29 【】  # [編集]

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2009/06/30 【】  # [編集]

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