ストーリーズ・イン・シークレット

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62 父親のプレゼント


 あたしの赤ちゃん。小さな手、不思議な香り。か弱いけど泣くときは必至。おっぱいが大好きで、胸をはだけると鼻をひくひく動かして顔を近づけてくる。双子は似ている様で違う。鼻の形、目の形、それからその仕草。上の子はおっぱいを含んだ後、その掌であたしのおっぱいを
“大好きだよ”
って触れて来るし、下の子はぎゅっとしがみついて来る感じ。
“放さないで”
どっちにしろ、可愛い。
 そしてあっという間に退院の日は近づいた。生憎その日は稔の受診予定と重なっていて、先生からの話しを聞いた後あたし達は別々に家に帰る事にした。彼は病院へ、あたしは子供達と一緒に真っ直ぐにマンションへ。その時赤ちゃんを抱いてくれるもう一人は
“ジョージ”
だった。
「ちょっとあんた、ぐずぐずしないで」
あたしは部屋の隅から遠巻きにこちらを伺うジョージに声をかけた。
「ここ、早く来なさいよ。あんたが抱っこしてくれなきゃ帰れないでしょう。それとも何? あんたまだ赤ちゃんが怖いの?」
彼の表情は複雑で。もしかして本当に怖いのかもしれないなって思って笑えた。
「これだから男ってのは。」
くすくすと笑うあたしに向かって
「うるさい女だなぁ」
渋々のジョージがやって来て
「かしてみろよ」
稔から赤ちゃんを受け取った。その手つきは今だぎこちなく、それでも宝物を受け取る様にしっかりと抱えてくれた。そして
「何だか日増しに軽くなってないか?」
ふと見せる心配そうな顔。
「当たり前じゃん。」
あたしは逆に笑って答えてみせる。赤ちゃんは二人ともほとんど同じ体重2500 gで産まれて来ていて、その重さはペットボトル5本分。そう考えると滅茶苦茶軽い。でも
「産まれた後は体重が落ちるって決まってんの。だから心配無し。それよりも、双子にしては大きい方だって褒めてもらっているんだからね」
その事が凄く嬉しかった。だってさ、あたしの子だよ。
「それにしても抱くの下手」
居心地悪そうな仕草で体揺らしているジョージを見ながら稔と顔会わせて微笑んだ。
「早く慣れてよね。そうしないとこの子達が可哀相だから」
ふざけるあたしに
「ああ」
彼はその手に力を込めた。
 快晴の空の下、病院の玄関を抜けたあたしは普通に駐車場へと向かった。でも
「おい、違う」
ジョージはあたしを後ろから呼ぶ。
「タクシーで帰るぞ」
あれって思った。
「車で来なかったんだぁ」
こいつは昔からランドローバーとかGMとか、無駄にでかい車を乗り回すのが好きだった。稔がよく
“何となく大きすぎる車って事故りそうで怖いんだよね”
て心配してたくらいだったから、今回も普通にベンツのワゴンで来たと思ってた。でも違うらしい。
「文句言うな」
丁度目の前で女の人を降ろしたタクシーがいて、ジョージはさっさと乗り込んでしまい
「あっ、ちょっと待ってよ」
慌ててあたしも追いかける。バックミラー越しに運転手さんと目が合い、こいつと夫婦だと思われたかと思うと恥ずかしかった。だのに肝心の彼は全然動じていなくって、平然とマンションの住所を告げる。でも
「さすがに今日は緊張するからな」
ぼそっと、あたしにだけ聞こえる声でそう言った。彼は赤ちゃん達を乗せて車を運転するのが怖くって、それで自分で運転しないんだって。
「へぇ~」
それは何だかくすぐったい様な言葉。
「あんたでもそういう事って有るんだぁ」
ジョージにとってもこの子達は最高に大切なんだって事。きっとこの子達は、彼がいくら望んでも手に入れる事の出来ない
“幻の赤ちゃん”
で、本当は彼だって父親になりたい、家庭を持ちたいって、そう思っていたんだってわかっちゃうような一言だった。
「ありがとうね」
心の底からそう思うよ。だからぶすっとした横顔のジョージに告げる。
「ほら、この子達もありがとうって言ってるよ」
なんて。
「そんなの言ってねぇし」
憎まれ口を叩きながら彼の口の端は笑っていた。

 久しぶりに帰った自宅は出たときと同じ様に、つまり綺麗に掃除された状態であたし達を迎えてくれた。
「ただいま」
赤ちゃん達はずっと眠ってる。手が痺れて来ていたけど、ここでベッドに下ろしたら目が覚めてしまいそうで何となく可哀相。そんな風に迷っているあたしにジョージが
「リビングの絨毯の上で一緒に寝ちまえば?」
アドバイスをくれ
「それもありだよね」
真っ直ぐ奥の部屋へと向かう。するとそこには新しくてふかふかの絨毯と赤ちゃん用のお昼寝布団が敷いてあり
「やるじゃん」
あたしは準備ばっちりなその様子に目を丸くした。
 結局あたしはそのまま子供達とそこに転がって昼寝をした。
「明日から二週間家政婦さんが来る手はずになっている」
とか
「飯だけは俺たちが用意するから一緒になるけど文句言うなよ」
とか
「稔と相談しているから分かってると思うけど、日中は稔の家で暮らせよな。夜にはとりあえず落ち着くまで俺たちが交代で泊まりに来るから」
とか、遠くで洗濯機の回る音を子守唄にしながら寝た。その浅い眠りの中で、子供達の横に寝転がりながらその口元に指を当て、
「ちゅぅ」
って音を立てて吸い付く赤ちゃんを愛おしげに見つめている男の顔を見た気がした。
「可愛いなぁ。」
薄目の奥で泣き出しそうな男の顔が呟いた。
「滅茶苦茶、可愛い。」
その瞳がキラキラ光っていて、ああ、こいつだって平凡に結婚して平凡に子供がいる、そんな生活夢見ていた事有るんだって教えてくれた。

 もちろん、その夜はお祝いだった。
「涼子、お疲れさま」
稔のマンションで二人が用意してくれた御馳走を前に五人が揃う。
「これから二人で頑張っていこうな」
彼はさらっとそう口にした。
「うん、頑張ろうね、稔」
あたしは答えながら、今のって稔がジョージに牽制かけたんだって気がついていた。この子達はあたし達の子供だから、必要以上に介入はしないでくれって。でもそれは稔の為、稔がそうして欲しく無いからっていうよりも、あたしの為にそう言ってくれたんだって感じた。彼とは終わった事だって教えてくれる為に。
 当然だけど、あたし達の田舎の人間はここに来てはいない。
「双子だから」
ずっとそれを言い訳にしていた。
「双子だから赤ちゃん達の体が安定するまで会いに来るのは待っていて欲しい」
だから五人だけ。抜けて弾けるシャンペンの音
「ワインは母乳の出を良くするらしいよ」
稔が手渡すシャンペングラス。
「一口ぐらいだったら大丈夫だから」
稔もジョージも笑ってグラスを持ち上げるけど、本当はここに居て一緒にお祝いして欲しいって思っている人達がいないってみんな知っている。稔やあたしの両親、それに弟。お婆様も。それから……。あたしの心が疼いた。彼にだってここにいる権利有ったはずだったんだって。きっと勝利だって良い父親になれたってそう思う。てか、むしろ物凄くなったと思う。あいつは馬鹿だったけど、でも優しくて、誰よりあたしの事を愛してくれていた。あたしは思わず最後に会ったあの日の事を思い出し、まだたるみの残っている、でもペッタリとへこんだお腹に手を当てた。大きくて暖かい掌。あの手はあたしや子供達の事守りたいって、そう言っていたはずだった。あの時には戻れない。あたしに彼の夢を叶えてあげる事なんてもう出来ない。ふと我に返り、歪んだ鏡になっていているシャンペングラスに泣き顔の女が映ってた。
「涼子」
稔があたしの肩に手をかけそっと引き寄せた。
「乾杯しよう。この子達の未来の為に、ね?」
「うん」
稔はあたしの事何でも分かってくれる。あたしは口の端持ち上げ頑張って笑った。
 出生届けは普通産まれてから14日以内届け出る物らしい。
「でもその前に名前、決めないとね」
3人でテーブル囲みながら稔の事をじっと見つめた。なにしろ赤ちゃん達が産まれたその日に
『良い名前が有る』
って言ってたんだから。
 赤ちゃんの名前ってこの世で一番最初にもらう贈り物だと思う。だからあたしは稔に名前を決めて欲しかった。
『それじゃあ退院した日にみんなに発表してよ、稔がつけてくれた名前』
『涼子はそれでも良いの?』
彼は不思議そうに首を傾げた。
『僕が決めても? 相談もなしに?』
『う~ん、そう言う見方も有るけどね』
でもあたしは彼に決めて欲しいって思った。
『この二人の中に沢山稔が詰まってるって、いつも思い出したいから』
そして今日、この日が来た。リビングに広げたおくるみの上では赤ちゃん達がもぞもぞと動いていて、稔は二人を見ながらふんわりと微笑んだ。
「それじゃぁ、パパからの贈り物だよ」
おもむろに広げた二枚の半紙には
“命名”
の文字。それから
「これって、まりとてんじんって読むの?」
そこに有ったのはあまり見慣れない文字で。
「そう、摩利(まり)と天仁(てんじん)。神様の名前をもらったよ」
彼はふふふっと笑った。
「戦いの神様」
そこから持つイメージにあたしは眉をひそめた。争い事は嫌いだから。
「摩利支天(まりしてん)って言ってね、昔から有る日本の神様なんだよ。正確に言えば武運の女神だけどね」
彼はふうっと大きく息を吐き出した。
「この子達には
“勝ち続けて”
欲しいから。ほら、僕を見てご覧よ。僕は最後まで諦めないで戦って死ぬつもりだよ。だからこの子達も、どんな事が有っても負け無いで、自分と家族を信じて生きて欲しいって、そんな願いを込めてみたんだ」
気持ちが強く伝わって来て
「うん」
あたしは大きく頷いた。
「良い名前だね。本当に良い名前」
 だからその名前を壁に貼ってみんなで写真を撮った。勿論とってくれたのはジョージだ。双子は産まれたての赤ちゃんとは思えない程ご機嫌でその愛らしさにあたし達はずっと笑いっぱなしだった。
「ほら、今度はあんたの事撮ってあげる」
ファインダーから向けられる不思議な程優しい視線が苦しくなってあたしは思わずそう言っていた。
「さぁ、天仁。今度はこのおじちゃんに抱っこしてもらってね」
ジョージは
「おじさんかよ」
少し嫌そうな声で、でもすぐに赤ちゃんを受け取り稔の隣りに行った。
「おじさんが嫌だったらダディだね」
あたしはふざけながら、それでいてずっと考えていた事を口にした。
「稔がパパで、ジョージがダディ。ね? 決まり」
何度か撮らせてもらったずっしりと思い一眼レフを構えながら続ける。
「は?」
ジョージが思いっきり間抜けな顔をして
「ナイス!」
思わずシャッターを押してしまう。
「何だよ、それ、ダディって。ダディって、父親って意味だろうが」
稔は眉間にしわを寄せたジョージの顔とあたしの顔を見比べた後、すぐ顔を
“嘘だろ”
ってほころばせた。
「そうだよ」
「でも“ダディ”は格好悪い」
そんな事言いながら彼の口元もほんのりと
“嬉しい”
って言っていた。
「そうだ、ダディが良い」
稔はあたしが何を言いたかったのかすぐ分かったみたいだった。
「そうすればこの子達には二人も父親が出来るんだ。幸せ者だね」
そう、
「稔がいなくなった後、父親代わりしてもらうんだからね」
それは口にしちゃいけない言葉なのかもしれない。でもきっと、それは一度は口に出しておかないといけない言葉でもあったと思う。稔は彼が死んでしまってから後の事を心配している、それを
“今だからこそ”
感じるから。
「稔が安心して天国に行ける様に、あんたにも協力してもらわないとね。あんたも父親の一人になったら赤ちゃんの事守ってあげないといけないんだから、おめおめと死んだりしないでよ」
あたしは
“天国”
って言葉をはっきりと発音した。それは1年先の事かもしれないし、10年先の事かもしれない。それでもその日が来る事を覚悟して、毎日を大切に生きようねって言うあたしなりの誓いだった。それにどんなに苦しくったって明日は必ずやって来るから。



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                     出産について語っている あとがき




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Date:2009/06/05
Trackback:0
Comment:2
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

*

いい家族になってきたね。
でもやっぱり皆の心の中には勝利の事が
あるんだろうなぁ・・。
2009/06/06 【tomo】 URL #- [編集]

* >tomo ちゃんへ

そうなんですよ、消えないんですよ。
でも、勝利の存在を消すんじゃなくて
その事を肯定するというやり方で
“受け入れる”
手も有るんじゃないかなって思っています。

さて、これから話しが変わっていきます。
お楽しみに~!

2009/06/06 【廣瀬 】 URL #- [編集]

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