FC2ブログ

ストーリーズ・イン・シークレット

恋愛小説置いてます。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

 
 

Information

Date:--/--/--

59 奇妙な三角形

 その日稔は朝からそわそわしていた。でも彼はそれを隠そうとしているからあたしもそれに気がつかない振りをして
「今日は天気がいいから洗濯物がよく乾くよね」
なんて事を言ってみたりする。空気が乾燥していて目元が突っ張る位の快晴。今日は土曜日で市場(しじょう)は動かない。稔の仕事もお休みだ。二人でのんびりブランチをとり、一緒に見たがっていたDVDを見る。彼は時々あくびを繰り返しているから、昨日の夜は眠れなかったんだなって思った。そしてエンドロールが終わり余韻に浸る頃、稔はおもむろに顎を撫でる仕草をしてふと首を傾げた。
「髭、伸びている?」
なんて。
「大丈夫大、そんなに伸びてないから」
あたしはクスッと笑いながらお茶を片付ける為に立ち上がった。彼は何も言わず、でも静かに部屋を抜け出し洗面所へと向かう。そして鏡に向かって顎を突き上げ
「あ~」
なんて小さな声を出していた。こっそりと近づいたあたしは
「伸びてる?」
ちょっと彼を脅かしてみたくっていきなり声をかけてみる。
 病気が分かってからの稔は鏡を見る事を嫌がる様になっていた。理由は想像がついていた。その稔が珍しく食い入る様に鏡を見ている。目の下には寝不足のクマちゃんがいて、あたしと目があった彼は一瞬恥ずかしそうな表情を浮かべたけど
「やっぱ気になるよ」
その動作を続けた。
 彼はじりじりと確実に痩せていた。多分一日に100gとか言う単位だろうなって思う。その変化はとても小さい。毎日目にしていると
“10日前よりも変わったかも”
って程度の感覚で。でも
“それ”
は確実に近づいて来ている。あたしは鏡の中の稔を見つめながら何か不思議な感覚に襲われた。デ・ジャ・ブとでも言えばいいのかな。何だろうこれって。それは確かに以前も感じた事が有る違和感だった。
「あっ」
あたしは口の中で小さく声を漏らしていた。
「どうした、涼子?」
稔が振り向き、
“本物の顔”
があたしを見つめる。
「んん、何でも無いよ。」
そう言いながら勝利の事を思い出していた。不思議だよね。愛しているとさえ感じていた勝利の事はいつだって鏡越しにしか見る事が出来なかったんだから。勇気のなかったあたし。そしてその事から少しは
“学んだ”
今は稔を正面から見つめ、ともすれば逸らしてしまいたくなる目を必至で現実に戻していた。だからなんだと思う。目の前に映っている左右の違う稔の顔はまるで別人だって感じてしまったはずなのに、その映像はゆっくりと一致してしまい。現実でも、鏡の中でも、その表情や顔つきは死神に取り憑かれていて、その足音が聞こえるみたいで怖かった。そんな心の内を悟られない様に
「ほら、折角だから髭剃っちゃいな」
稔の顎を指差す。
「やっぱその方が良いよね」
稔はすすすって顎に指を滑らせた。最近の彼は剃り残しが有る。それは電動シェイバーを使っているからだ。刃の付いたカミソリで傷を作る訳にはいかないから。ついこの前ふざけてあたしがやってあげようかって言ったら
「自分で出来るよ、そんなの」
そう切り返されて気がついた。髭くらい自分で剃れないと駄目なんだって。きっとそれは稔のプライドで。自分で自分の事を出来るって事が大事なんだって感じた。平凡な事を人に助けてもらわないといけない事が悔しいから、あたしは彼の髭がどんな状態でも絶対に手を出しちゃいけないんだって分かった。そんな彼が
「剃ってくれない? ほら、よろしく」
自分のほっぺたを叩いた。あたしは泣き出したいのを堪えながら彼のシェイバーを手に取る。その電動ひげ剃りは国産の高級品。確か3万以上もして、絶対肌に傷を付けず、自動で掃除もしてくれるって言うのがウリだった。それでもあたしは恐る恐る彼の髭を剃った。
「大丈夫だよ」
彼があたしの手元をからかう。
「うん」
頷きながら手が震えそうだった。彼を傷つける事が怖いんじゃない。もっと怖い事は他にある。ゆっくりと滑らせる金属のヘッド。あたしは鏡を見ながら確認した。
「こんなもの?」
「もう少し、かな?」
彼の指す右の顎を指で撫でると
「あっ、本当だ」
鏡の中には映っていなかった部分にそれは生えていた。その昔、鏡には全部映るって思ってた。
『鏡は嘘つかない』
って、どこかのおとぎ話で言ってたじゃない? それは嘘だったけど。そしてあたしの覚えている勝利は今でも鏡の中にいた。彼はどうしているのかなって思う。あたしが選んだ
“結末”
は本当に彼を幸せにしてくれているだろうか。彼は第二の人生、踏み出せているのかなって。
 
 夕方、約束の時間5分前にジョージはやって来た。
「よぉ」
あいかわらず図体のでかいジョージ。ポケットに両手の親指突っ込んだままあたしの方に向かって
「久しぶり」
なんて挨拶をした。こいつとはつい1週間前に
“情報交換”
とか言って会ったばっかりだって言うのに。そのわざとらしさに笑いが込み上げそうになったけど、彼がうつむきながらそっと稔の方に目を忍ばせた様子を見て、まっ、良いかって思う。
「僕には?」
なんて稔が言い、
「おおっ、そうだな。久しぶり」
ジョージは玄関先でたたらを踏み、
「こいつが」
そう言ってあたしの方に
「こいつが来いって言うから来てやった」
憎まれ口を叩きながら顎をしゃくるから
「悪かったわね」
みんなが示し合わせて嘘をついていた。
 ジョージに病気の事を教えていたって報告をしたあと、今一度彼と会わないかって稔に勧めた。あたしが知っている今のジョージは後悔にまみれた可哀相な男だったから。でも最初稔は困った顔でなかなか頷いてはくれず。
「涼子に……」
言葉を濁しながら
「悪いから」
そう声を細らせるから。
「馬鹿ねぇ」
あたしは呆れた様な声で言っていた。
「あたしと稔の関係は揺るがないの。今更ジョージが出て来たってどうって事無いから。それより稔、気持ちに整理つけた方が良いと思うよ。元カレってのもそうだけど、あいつ一応稔の従兄弟だし。ずっと大事な人だったのはあたしも知ってんだから、だから後悔しない様に、ね? 一度会って話しつけたら?」
そうしてこぎ着けたのが今日だった。
「つもる話しも有るだろうから、二人で勝手にやってよね。あたしは奥の部屋で昼寝してるから。ご飯の時になったら起こして」
妙にもじもじしている二人を稔の部屋に押しやって、以前子供部屋に改装していた所で横になった。
 そしてとろとろと夢を見る。夢の中には真っ白いタキシードを着た稔とジョージが現れてあたしの方に向かって
『ゴメンね』
って言っていた。
『俺たち、駆け落ちするから』
稔はカサブランカのブーケを手にしていて、
『この次は涼子だよ。俺たち先に行くから』
そう言いながらあたしにブーケを手渡すと、夜行列車の屋根に二人で飛び乗った。
『待ってよ!!』
あたしは全力で追いかけていた。
『それに乗っちゃ駄目!』
だってその列車はこれから事故に遭うんだから。崖っぷちから真っ逆さまに堕ちるんだから。それを分かっているあたしは必至で止めるんだけど、二人は手に手を取って笑いながら落ちていく。周りは一面の海で、ぶくぶくと泡が漂い、稔は
“呼吸が出来ない”
そうもがき始めて……。
「助けてくれ!」
あたしはその声で起こされた。
「な、何?」
夢と現実の区別がつかない中、目の前にはジョージの顔が有った。
「稔が発作起こした!」
 それは単純なぜんそくの発作だった。部屋に行った時、稔は自分で吸入をしていたし、顔は真っ青で過換気(呼吸の回数が著しく多くなっている状態)っぽい感じだったけど、それでもあたしの方に向かって
“大丈夫”
って手を振る余裕は有った。だから
「大丈夫だって」
あたしはパニック起こしかけ救急隊を呼びそうな勢いのジョージをなだめすかした。
 その夜ジョージは帰りたくない仕草で家の中をうろうろとしていた。
「何? 言いたい事有れば言ったら?」
業を煮やしたのはあたし。するとジョージは思いっきり開き直ってこう言った。
「お前さ、一人で稔の面倒見るのが大変だって言ってなかったか? 今はまだ大丈夫だとして、将来子供産まれた時、大変だって言ったてよな? だったら俺が助けてやるよ」
その発想にはびっくりだ。思わず稔と顔見合わせて二人できょとんとしてしまったけど、ジョージの顔つきは真剣そのものだった。
「従兄弟として、稔の事助けたいって言うんだから、いいだろう? お前らの子供産まれて生活落ち着いたら俺は出て行くし」
その太々しさ(ふてぶてしさ)に
「ま、まぁ稔さえ良ければいいんじゃない?」
完全に気圧されたって感じで思わず頷いてしまい
「まぁ、涼子がそれでいいんだったら、僕はどうでも構わないよ」
稔も思わず言っちゃったって感じだった。
 こうしてあたし達の奇妙な同居生活が始まった。


   戻る     鏡 TOP     つづく


  ♪ 応援頂けると ↓ 励みになります!! ♪

            にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
  ▲(1回/1日)    ▲(1回/1日)  ▲(1回/1日)


  オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび    ネット小説ランキングに投票!    エッチ小説ランキング
  ▲(1回/1日)       ▲(1回/1月)      ▲(1回/日)


     





スポンサーサイト

 
 

Information

Date:2009/05/15
Trackback:0
Comment:4
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

*

ほんと、奇妙な関係だね~。
でも、3人が笑っていられる生活なら
いいけど・・涼子、ちょっと心配かな。
2009/05/16 【tomo】 URL #- [編集]

* > tomo ちゃんへ

本当に奇妙です。
これからこの三人の要素にもう一つ(二つ?)
変化が加わります。
もうすぐなのでお楽しみに ♪
2009/05/16 【廣瀬 】 URL #- [編集]

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2009/05/21 【】  # [編集]

* > 5/21鍵コメ様

やっぱそう思うでしょう? 優先順位って“大切なもの”から順番についていくと思いますから。でもって私は孫の顔を見るまで死ねません! ←年寄りかって? 
2009/05/22 【廣瀬 】 URL #- [編集]

コメントの投稿







 ブログ管理者以外には秘密にする
  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。