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ストーリーズ・イン・シークレット

恋愛小説置いてます。

54 最高の男


注意!  怪我を描写するシーンが中盤であります。苦手な方はご注意ください。

 帰り道、車を運転しながらともすればハイになったみたいで変だった。多分
“躁鬱”

“躁”
ってこんな気分なのかもって位、飛んでいた。嬉しいとか喜んでいるとかそんな感覚に似ているけど、でも違う。頭が膨らんでいる感じ。具体的に何がこんなに影響及ぼしてるのか分かんないけど、きっと勝利に会えた事は良い事だったんだと思う。あたしはお互いにケジメをつけられたって思っているし、自分の気持ちに気づけた事に嬉しいし。それにきっと勝利だって元気なあたしを見て踏ん切りがついたはずだ。あいつの気持ちがわからない訳じゃないから。だって勝利って男はどちらかっていうと生真面目で、あんなことしてのうのうとしていられるヤツじゃない。後悔して苦しんでいたんだと思う。だからあたしに謝りたくて、でも取り返しのつかない事したからどうやって責任とれば良いのか分からずにいて。だからあたしが幸せに暮らしている事で勝利の気持ちは少しは救われたかなって、そんな事考えていた。大きなお腹にシートベルト、ちょっとキツい。でもその辛さは幸せの辛さだ。でもってちょっと考えた。
“幸”
って漢字から1本線引くと
“辛”
になるけど、
“辛”
に1本付け足せば
“幸”
になる。不思議だね、気がつくと単純だ。その意外な発見に思わず笑いながら黄色に変わりかけた右折信号でハンドル切った。とその時、
「えっ!!」
それはまさかの展開だった。小さな人影、追いかける人影。見開かれた瞳。心臓が止まるかと思った。

「ただいま。」
あたしはどっぷり疲れていて家に辿り着いた時は動けない感じだった。しばらく車の中で休んでそれからやっと降りられたって位最低で。だから今稔と会って話しをするのもキツいなって思ってて、部屋で寝ている彼を見て何となくほっとした。
 彼が起き出したのは午後2時を過ぎていて、その間にあたしは自分を取り戻しつつ有った。
「お帰り、涼子。戻ってたんだったら声かけてくれても良かったのに。」
目を擦りながら小さなあくびをする。その視線はあたしのお腹に向けられていて
「何事も無かった?」
でもあたしはそんな彼の言葉を
「大丈夫。それより」
ってそっとかわし、
「最近、疲れやすくなってるでしょう?」
昼寝の時間が少しずつ長くなっていることを暗示した。
「ああっ、そうだね。」
彼はうつむき
「涼子は全てお見通しだから。」
寂しそうな笑顔を見せ
「でもお腹は普通に空いてるよ。」
その
“偽物の笑顔”
を本物にすり替えシドのエコバックの中を漁った。
「お~新製品じゃん。」
なんて。だから
「今オムレツとコーヒー作るから待ってて。」
あたしも元気を装って立ち上がる。彼が食欲の有るうちに美味しいもの沢山食べて欲しいから。
 帰り道で起きた事は彼に話せなかった。話した所でどうなる訳じゃない。無駄な心配かけるくらいだったら心に仕舞っておこうって。それより勝利と会った事を話すかどうか、それだけは迷っていた。有り得ないって分かってるけど、もし勝利があたしの前に再び現れる様な事が会った時、稔を動揺させたくなかった。お腹触らせた事に罪悪感ちょっとあったし、すっかりパパ気分の稔の気持ちを踏みにじっちゃうかもって思うと怖かった。
 その日の夕ご飯はシドのバゲットとビーフシュー。蕪を切りながら今日何度目かになる
“稔に言うべきか言わないべきか”
って事を考えていた。とその時、
「あっ!」
思わず手が滑り包丁があたしの親指に刺さっていた。
「どうしよう。」
それは
“切った”
って代物じゃなく、ほんの少しだけど刺さっていて、そのくせ痛みも何もない。
「どうしよう・・・・。」
抜くしかないって分かってて、でもどうすれば良いのかあたふたしていた。
「涼子、どうした?」
声を聞いて駆けつけた稔は
「そのままで待ってて。」
そういうと素早く絆創膏を持って来くると
「見ない方が良いよ。自分の傷って痛々しいから。」
あっという間に包丁を抜いて、血の出ている傷口に何枚も絆創膏を重ねた。
「とりあえずこれで応急処置。すぐ病院に行こうね。」
それから血の出て来たあたしの手をタオルでくるみ駐車場まで急がせた。ステアリング握る彼は少し緊張の面持ちで、でもその不安そうな気持ちを見せる事はなく
「大丈夫だからね。」
じんじんと痛み、絆創膏に広がる血に滅入りそうになるあたしを元気づけてくれる。
「以前救急法のレクチャー受けた事が有ってさ。顔と指は血管が発達しているから血が出やすくて大きな怪我に見えやすいんだって。それからしっかり冷やせば痛みも軽くなるから。頑張って。」
そう言われあてがっていた保冷剤をぎゅって傷に押し付けた。
「うん、頑張るから。」
それからふと思い出し
「だって子供産むときはこんな痛みじゃないからね。」
後戻りが出来ないって事を笑った。
「確かに、そりゃそうだ。」

 幸いな事に傷は軽くって縫う必要はなかった。それでも化膿する可能性はあるらしく、1週間は通ってもらう事になるって穏やかに話す先生に向かって
「よろしくお願いします。」
稔があたしより先に頭を下げた。そんな彼の事を照れくさいなって思いながらあたしも頭を下げる。
「よろしくお願いします。」
何だかバカップルっぽくもないけど、妙な所であたし達は夫婦なんだって思った。だから会計を待つ間おもむろに口を開き
「帰って来てからの涼子、いつもと違うよ。」
そう問いかけて来た彼に今日の出来事を話そうって思った。
「実はね、勝利と会ったから。」
って。稔は目を丸くし
「大丈夫だった?」
心配そうな声でそう聞いた。
「ま、ぼちぼちね。最初は嫌だったけど、それなりにすっきりしたよ。」
あたしは嘘をつけないから。それについても上手じゃないし、稔には全て話しておきたかった。
「偶然じゃないよ。あいつ、あたしの事探していたんだから。」
それはある意味ストーカー的でかなり怖い事だと思う。それでも彼の口にした
『二度と会わない。』
の言葉をあたしは信じる事にした話しや、彼も子供を産んで欲しいって思っていた話し。それからかなり反省していて復縁を望んでいたらしいって事も。それから一番大切な
“きっぱり断った”
事も。でもそんな話しをしていて
「あいつね、やつれてた。何だか凄く不幸せそうだった。あたしとは正反対って位。」
知らず知らずにため息が出て来てしまい
『幸せが逃げるよ。』
って苦笑いしてしまった。100歩譲ってレイプした事は置いておいても、コンドーム無しでヤレば子供が出来るって事分かってて押し通したあいつは馬鹿だと思う。せめて中で出さないって手も有ったはずなのに、それが正しい避妊じゃないとかそう言う事じゃ無く、あいつがあたしを傷つけたかった意図はまる分かり。そんな彼のした事を庇う気なんか無いけど、
「あいつの酷い姿見て
『ざまぁみろ』
っては思わなかったよ。」
稔はあたしの大丈夫な方の手をそっと握ってくれた。
「それよりも、あいつのした事、許す気になれてあたしは開放された気がする。それに、こう言っちゃなんだけど、あいつと稔の事比べちゃった。でね、今のあたしがどれだけ稔の事愛しているのか凄く分かっちゃって、その実感がね、あたしの事をとっても幸せにしてくれてた。」
素直に、理由とかそんな事どうでも良くって、稔にありがとうって気分だった。それから勝利にもらったお守りを見せた。
「もし稔が嫌じゃなかったら持っておきたい。」
恐る恐るその事を口にし、差し出された彼の掌にそれを乗せた。稔はお守りをしげしげと見つめ
「ねぇ、涼子。勝利君って人は凄いよね。」
不意にあたしの肩を引き寄せた。
「えっ?何が?」
その意味が分からずこんがらがるあたしに彼は
「彼はずっと涼子の事信じてたんだよ。」
お守りの袋があたしの肩でかさかさ鳴っていて
「涼子が妊娠してからずっと心配していたの、分かる。涼子と子供の事ずっと追いかけていたって。」
それは知っているつもりだった。だからお守り買って来てくれたんだって。でもそんなあたしに向かって稔が放った言葉は衝撃的だった。
「彼はね、涼子が赤ちゃんを中絶しないって信じ続けていたんだよ。」
って
「その強さはあの時の僕には無かった事だから。」
少し前屈みになってあたしの耳元で囁いた。
「だから凄いと思う。この僕は90%の確率で涼子が中絶に踏み切るって思ってた。あの時の僕は、今している事は無駄な努力だって思いながら、それでも涼子の為に頑張ってるつもりだった。それなのに、ほら。彼は純粋に涼子の事信じていたじゃないか。涼子がどんなに苦しんでも出す結論は産む方だって、疑う事無く信じ続けていたじゃないか。だからこそ涼子の事探してたんだ。涼子の事心配して、力になりたくて。その気持ちがこのお守りから伝わって来る。」
その意味の深さに唖然とした。
「あ、あたし、そんな善い人間じゃないよ・・・・。」
言葉につまりもうなんて言えば良いのか分からなくて。
「あたしが強く在れたのは、稔がついていてくれたからだもん。」
あたしはそんなに強くない、あたしはそんなに強くない。だって本気で堕ろそうって思ってた。この人がいなかったら絶対にそうだ。勝利が信じてくれたあたしは偽物だ。こんな
“子供を平気で堕ろそうとする様な女”
を信じるあいつは大馬鹿ものだ。有り得ないよ。こぼれそうな涙を
「乃木さん、乃木涼子さん。」
ナイスなタイミングで名前を呼ばれ、さも
“傷が痛いんです”
って泣き顔に見せかけた。こんな時に泣くなんて。あたしには泣く資格なんか無いって言うのに。あたしは最低な女だったんだから。


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                     本文と一緒に書いていた あとがき



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Information

Date:2009/04/10
Trackback:0
Comment:4
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

* 更新ありがとぉございます☆

今回のお話で、普段、何故か忘れてしまったり、稀薄に感じている、人と人との繋がりが、とても尊い事を思い出させられました。
完璧、最高な人なんて在り得ないけれど…接している誰かの中では、本人が把握している以上、またはそれ以外の存在感なんかが存在しているんですね。

日々、悲しいニュースが目立ちますよね。
何が、人に、そんな事をさせてしまうのだろうかと考える事もあります。
けれど、どんな人でも、きっと誰かの中では輝いた存在でいるのでしょう…

廣瀬さんの言葉達に、また教わりました。
ありがとぉございます!
2009/04/11 【コト子】 URL #3un.pJ2M [編集]

* > コト子ちゃんへ

こちらこそコメントありがとうです。

自分より他人の方が自分の事をよく知っているとか
状況を分かっているって事、結構有ると思うんです。
なおかつ、愛情を持った目で見ていると
その読み取り方ってかなり変わるから。
まぁ出来たら私も稔みたいな目線で他の人のことを見れる様になりたいなって
願望持ちながら書いてました。

次話ではまた違った波乱が起こります。お楽しみに♪
2009/04/12 【廣瀬 流が留】 URL #- [編集]

* ご無沙汰していました。雪です。

やらなければならない事があって、しばらくこちらに来れない間に、イタ~くお話が進んでいて、勝利君びいきの私にとってイタタタです。

当然、涼子ちゃんと私とでは、性格が違うので、私だったら、別の生き方をしているとは思うのですが、涼子ちゃんの生き方も涼子ちゃんらしいと思っています。

私自身、普通の結婚ではなくて、他所からみたら理解できない結婚だったと思うし・・・。幸せな生き方は人それぞれってことで・・・。

稔君は見直しました。男です。

勝利君はひどいことをしてしまったので、仕方ないのですが、勝利君びいきの私は彼の幸せを願ってしまいます。
2009/04/14 【】 URL #3v9IlUEY [編集]

* > 雪様へ

お久しぶりです♪昼メロみたいにお話が進行していますよ~。
人の生き方ってそれぞれだと思うんです。
それにその時その時の行動って他人には軽はずみに見えても
その人にとってはそれなりに考えて出した結論だったりすると思えるんです。
涼子ちゃんの性格を通して彼女なりに必至に考えて悩んでいるって
読んでもらえると嬉しいです。
雪さんもお忙しいみたいだけど頑張って!
また是非遊びにいらして下さいね~。
2009/04/15 【廣瀬 】 URL #- [編集]

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