ストーリーズ・イン・シークレット

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52 鏡の外

 目の前の勝利は打ちひしがれていた。それはあたしが覚えているどんな勝利とも違って見え。ここに来て初めて彼の本当の姿を知ったんだって思った。あの安いホテルの一室で、彼の本心を直視するのが怖くって、いつだって彼を鏡越しに見ていた。そして鏡の中の視線があたしという女に向いている事を確認して安心ていた気がする。その上本物じゃない彼の事を
“いつだって普通の人間”
って。格好よくって、程よくエロくって、
“わきまえている男だ”
って見て、どこかほっとしていたんだと思う。そう、あたし達は臆病で、ずっと鏡を通してしかお互いを見る事しかできなかったんだって気がついた。だから本当の姿を知る事が出来なくてお互いの演技を真に受けていたんだって。
 寂しい。凄く寂しかった。あれからずっと勝利の事考えない様にしていたし、思い出さなくもなっていた。だから今更こいつの気持ちなんかどうでも良いって思ってた。最低な過去は捨てるに限る。それが今日、彼だって苦しんだんだった事、気づかいた。本当はここ
“復讐”
が果たされたって、あたしだけが幸せになれたって喜びどころかもしれない。でもそんな事よりもっと、すれ違ってしまった過去が悲しかった。あたし達は
“悪くなる”
事が怖くって
“最悪”
な方向に突き進んだ。本当、臆病者。
 あたしは苦しんだ。この数ヶ月の間に一生分苦しんだと思う。あの子供を中絶しようって決めて過ごした日々はあたしの中から無くなる事なんかないし、むしろ稔と過ごしている幸せな瞬間にこそ蘇り、あたしがどれほど馬鹿な女だったかを思い知らせてくれる。時折思い出した様に襲って来る後悔をあたしは必至で振り払い、稔との生活を守ろうとしているんだから、どう考えたってあたしの方が勝利より何倍も辛かった。これからだってきっとそうだ。だからやっぱり謝ったからって許せない。むしろ悔しい。それなのにその
『許す気なんか無い。』
の一言をなぜか言えずにいた。それにもし勝利を傷つけたいって思ったら
『あんたの事は二度と思い出したくないから。完全に忘れるつもり。』
ってのが一番残酷だって今のあたしは感じていたけれど、その言葉はあたしのお腹の底でぐるぐるとくだを巻いていて、口から出て来る事はなかった。悔しいけど、憎いけど、あたしはお互いがこれ以上不幸になんかなりたくなかった。本当は、幸せになりたいんだ。過去のあたし達は幼く愚かで、だからこそ今救いを求めている、そんな気がした。
 あたしは唇を噛んで行き場のない感情を抱え込んでいた。もしかしたら勝利を助けられる一言を言えるかもしれない、そんな事を考えながら、でもそれは言いたくないっても思ってた。その重苦しい沈黙を破ったのは勝利の方だった。
「あの頃の俺は」
彼はそれがまるで遠い遠い昔話しの様に話した。
「涼子と一緒になれる夢、見てた。」
と。
「みんなが知ってる様なホテルのチャペルで結婚式挙げて、花吹雪の中歩いて。ハネムーンには俺が出張で行ったイタリアの小さな街案内してあげたかった。平凡だけど最初は小さなマンション借りてさ、笑われるかもしれないけど、涼子がエプロンつけて俺の帰り待っててくれて。たまに花とかケーキ買って帰って、週末は友達が遊びにきてくれてさ。いつか子供が産まれて、家族みんなでキャンプしたりして。本当、馬鹿みたいだろう?」
彼は右手をふっとタバコの入っているポケットに伸ばし、その手を引っ込めた。
「涼子見る度、夢見てた。もう、ほとんど妄想?」
笑い声は乾いていて笑えない。それは彼も気がついている。
「いつ好きだって言えば良いのか迷ってた。でもそれ言ったら二人の関係が終わってしまうかもしれないって思うと言えなくて。いつまでもこのままじゃいられないって分かってるから、いっそ涼子が妊娠でもしてくれないかってすら思ってた。」
それは皮肉にも現実になったけど。顔歪めたあたしに
「ゴメン。」
彼はそう言いうつむいた。
「いいから。続けて。」
今の彼は醜い。自分がやった事にさも正当性があった様な口調で、過ぎた事の言い訳をだらだらと繰り返し。でも本当は、あたしが半年以上前に絶対に知っておかないといけなかったはずの
“人間としての勝利”
だったんだって感じた。誰でも持っているはずの格好の悪さや矛盾から目を背けたことがあたしの大失敗。だから今目の前の彼から逃げ出す事なんか出来なくて。唯頷く。
「涼子との生活が欲しかった。いつでも目の端に涼子がいて、エビアンとクロワッサンが好きだとか、でも洋食より和食党だとか、涼子が持ってたボディソープがどこのブランドかってのも知ってて、全部組み立てながら一緒に暮らす日を夢見てた。」
それはあたしが初めて見る饒舌な勝利。
「それが壊されたって思った。」
古池の事を言っているって気づいたのは少ししてからだった。
「噂の有った金持ちの友達とは出来てないって確信は有った。だって俺、いつも涼子の体に印つけてたから。」
何言ってるのか分からないあたしに
「キスマーク。」
彼はその言葉を口にし、視線があたしの太腿の上に投げかけられてそらされて。
「涼子と過ごした夜、俺、かならず涼子には気づかれない様にキスマークつけてた。俺の印にって。他の誰にも触らせない様にって。卑怯だって分かってて、そうやって俺の存在示してた。」
「あっ!」
あたしの中でつじつまがあった。と同時に卑怯だよって、本当にそれは卑怯だって思った。惨い(むごい)って。もしあたしに本命ができたりマジ彼がいたらとんでもない事になってたんだから。それでもきっとこれも合わせ鏡だったんだって事に気がついていた。彼が完璧だったのは外側の殻の部分だけ。内側は嫉妬深い嫌なヤツ。でもそれはあたしも同じ。あたしだって勝利の事、独り占めにしたかったんだから。そんな事を考えてるとこに
「それが横から現れた男にかっ攫われた。」
彼は続けた。
「それまでにもう俺、おかしくなってたから。あの古池ってヤツがしゃしゃり出てきた時、トリガー引かれた気分だった。頭の中で何かが爆発した感じで。涼子の事、壊した。」
あの日の事は
「忘れたいから。」
思わずうつむきお腹を撫でた。あの2流の鬼畜系AVみたいな馬鹿げた出来事は忘れたいんだって。あんな犯罪じみた行為の所為で今のあたしの幸せがあるなんて、どう考えてもおかしい。痴漢にあって、そいつを警察に引き渡している時に電車が事故起こして
『俺が助けてやったんだ、ありがたく思え。』
って言われる様な不条理だ。そんなあたしの感情を読み取ったのか
「ゴメン。」
彼は短く言って、より一層背中丸めた。
「涼子の事めちゃくちゃにした後、俺、本当におかしくなっちまったんだよ。朝起きて頭痛くって吐きそうで。最初頭の中で出血起こったのかもって位酷くてさ。脳外科受診した。そしたら
“ストレス”
って言われて、仕方ないから痛み止め飲んで毎日出社してた。営業も馬鹿みたいにテンション上げてやらないと体保たなくて、変に成績上がったりしてさ。そんな頭で道歩いてて、涼子そっくりの後ろ姿見かけると思わずなんにも考えずに追っかけて声かけてた。何話せば良いのかまるで分からないのに、何でも良いから声かけないとって。必至で追いかけて捕まえて。でも捕まえてみるとその人は涼子じゃないんだよ。幻見てるみたいだった。俺、不審者みたいに何度こもれ繰り返してて、ある時気がついたんだ。涼子はもう
“死んでいる”
って。」
彼の声は涙で曇っているみたいだった。
「俺が殺したんだって。」
その手ひらを広げ、彼は不思議そうな仕草でぼんやりと見つめた。
「俺のした事が、涼子の命、奪ったって感じた。だから反対に絶対お前の事見つけなきゃって決めた。取り戻したかったしやり直したかった。でもそれ以上に涼子の幸せってなんだろうってずっと考えてた。自分がしでかした事なのに、今のお前が傷ついていないかなって。苦しんでいないかなって。生きてるのかなって。もし助けられるんだったら、本当に馬鹿だけど、もし助けられるんだったら血の1滴でも残らず涼子にやりたかった。目の前に悪魔が現れた時、魂売り渡す心の準備、してた。『涼子を幸せにしてくれ。』って。俺、自分が壊したものがこんなに大事なものだったのかって、後から気がついたんだよな。壊してから初めて、取り返しのつかない事したんだって。何で大事に出来なかったんだろうって。本当に大切なのは涼子なのに。だからどうしても涼子に会って、殺してしまった涼子の心を取り戻してあげたかった。」
それはきっと
“当事者”
じゃないと分からない感情。
「俺が偉そうにこんな事言うのは間違ってるって思ってる。でも言わせてくれ。涼子に会って俺の事罵ってもらおうと思った。俺は最低な男だって。罵倒して、殴ってでも、石投げてでも、涼子の中にある憎しみを吐き出して欲しかった。あの時感じた恐怖だとか全部。そして俺がこんなつまらない、力だけ振り回して男である事を誇示しなきゃいけない、とるに足らない存在だったんだって涼子に感じて欲しかった。そうやって、あの時涼子が感じた絶望感を乗り越えて欲しいって。涼子の中に植え付けてしまった恐怖はもう過去の事だって思って欲しかった。男がみんな俺みたいに最低なヤツばっかじゃないし、結局本当に強いのは涼子自身の意志なんだって。涼子だけが、涼子の人生を決める事が出来るたった一人の人間なんだって。涼子に取り戻して欲しかった。」
彼は大きくため息をつき
「馬鹿だよな、俺って。でも、これ以外、償える方法、思い浮かばなかったんだよ。こんな風にしか、謝れないんだよ。」
そして訪再び沈黙が訪れた。彼は一度パンパンに膨らんでから空気が抜けた風船みたいにしなびてて。丸く小さくなった背中の中に見えた
“希望”
はあたしみたいに光に満ちた希望じゃなく。貧困に喘ぐ子供が木の根や泥を食べてでも生きている事に感謝する、そんな喜びのない希望だ。だから
「もう良いよ。」
うなだれている勝利を見下ろしながらそう言っていた。
「今のあたしはあんたとの事乗り越えて幸せだから。」
すると彼はぴくんと体動かして
「本当に?」
その恐る恐るの声に
「そうだよ。」
あたしは胸を張って答える。
「こんなあたしの事受け入れてくれる人を人生のパートナーに出来たんだから。」
それはまるで自分自身に言い聞かせている言葉の様だった。
「正直言ってあたしはあんたが想い描いていた様な完璧な女じゃない。ってか、むしろ勝利と中身は変わらない気がする。でもそんなあたしでも良いよって稔は言ってくれるから。あたしが繰り返して来た間違いを全部ひっくるめて愛してくれてる、優しくて寛大でパーフェクトな人だよ。」
そう、稔の価値は計り知れないから。するとこっちに顔を向けた彼の口元が
“嬉しい”
そうほころんで、少し垂れ気味の目元をもう少し弛めた。つられてあたしもほんの少し笑えて。
「あんたに煮え湯飲まされて、男なんて最低だって思ったけど、でも稔がそんなあたしの事救ってくれた。」
もちろん赤ちゃんも。
「だから幸せ。」
その言葉があたしの中で花を咲かせているみたいだった。
「あんたのおかげで今のあたしは最高に幸せ。」
例えそれが期限付きだっていっても、今のあたしの人生はキラキラに輝いてる。そんなあたしに
「俺、土下座して頭踏まれる覚悟もしていたのにな。」
なんて冗談とも本気ともつかない事を言いながら勝利はゆっくりと頭を上げ、あたし達は逸らす事なくお互いの目を見つめ合った。



  戻る     鏡 TOP    つづく

                      あとがき



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Date:2009/03/27
Trackback:0
Comment:7
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

* 更新ありがとぉございます☆

本当は誰もが持ってる心の陰湿な部分…すごく感じられました。 それを文字で表現して魅せてくれる廣瀬さんに、なんて感謝したら良いんだろうと、思いました。
誰にでも在る闇なのに、根底まで堕ちて、受け入れられるても浮上するのは簡単じゃないですよね。
私も、そぉです。
浮上したい。
懺悔したい。
それくらいで赦されることばかりでは無いけれど…

それを乗り越えた勝利…すごく素敵です!

廣瀬さん、いつも、ありがとぉございます。

お忙しいようですが、お身体ご自愛なさって下さいね!
2009/03/27 【コト子】 URL #3un.pJ2M [編集]

*

勝利の辛さがひしひしと伝わってきます。
苦しんだんですね。
してしまった事は最低で良くないことだけど、
もし自分が涼子なら、やっぱりきつい事も
言えずに・・許してしまいます。
ぼろぼろになった勝利を見て・・
もしかしたら揺らぐかもしれないなぁ。
2009/03/27 【tomo】 URL #- [編集]

* > コト子ちゃんへ

そうそう、誰でも 負 の部分持っていると思うんです。
でも今の世の中、それが悪い事になり過ぎていると言うかなんというか。
その為 偽善者 にならざるをえなくって、本当の自分とのギャップに苦しむ
そんな状況な気がします。

負 の部分と 正 の部分が有るって事分かってて
そのバランスとりながら
『でもどちらかって言うと良い人間で有りたいな。』
って生きていければいいなって思ってます。

私なんか別サイトでSMライブ行った事を書いていますが
本来これって 負 だと思うんです。
SMに興味が有るって事がね。それでも、実際の話しを聞いて来て
さわりだけでもSMを知って、知ってからこそ
自分が 負 だと思い込んでいた事が
実際はたいしてそうでもなかったって今実感しています。

コト子ちゃんもきっと色々な事乗り越えられるから!
自分の事を“愛しいな♡”って思ってみていてあげて下さいね。

2009/03/27 【廣瀬】 URL #- [編集]

* > tomo 様へ

> 勝利の辛さがひしひしと伝わってきます。

って感じてもらえて良かった~♪
人って過ちを犯すものだと思います。
完全無欠って方がむしろ・・・ってね。
それに彼は生真面目で本来愛情が深いから
こんな事をしでかす程追い詰められてしまった訳で。
そんな部分も人間の面白い部分(当事者は大変だけどね)
かなって思いながら書いていました。

さて、涼子、ぐらってくると思います?うふふっ。

コメントありがとうございました!

2009/03/27 【廣瀬】 URL #- [編集]

* 最初から

厚塗りして斜に構えて始めた恋は、
途中で薄化粧路線には変更しにくいよね。
化粧崩ればかりが気になって。
お互いの素ッピンが見たいって
よっぽど強く思わないと。

でも、あの勝利クンに
ここまで饒舌に語られると、
イヤでも過去はそれなりに清算されていくね。

ここまでくるともう
お互い全くの別キャラで
最初の出会いからもう一度やり直さなきゃ
恋にはならないような気がするなあ。

でもね、アタシは最近
ミノルくんの"幸せ"ってヤツを考えちゃう。
どうなんだろ。
ねえ、廣瀬サマ?
2009/03/27 【fura】 URL #- [編集]

* > fura 様へ

化粧の例え『うわっ、凄い!そんな感じ!』
って感動しちゃいました。『うん、うん。』です。
何だか凄いリアル・・・・。

> ここまでくるともう
> お互い全くの別キャラで
> 最初の出会いからもう一度やり直さなきゃ
> 恋にはならないような気がするなあ。

うふふふふっ、うふふふふっ ♬
ネタバレになるから書かないでおこおっと ♪

稔の幸せはですね、とってもシンプルです。
これは私の価値観でもあるのですが、
稔も幸せになる予定があります。
恋愛小説としては異例ですけどね。
お楽しみに~。

2009/03/28 【廣瀬】 URL #- [編集]

* 鍵コメ拍手のN様へ

拍手ありがとうです ♪
ずんどこ!シリアスでしょう?うふふっ。
これ、廣瀬の作風でして。
リアル シリアス 三角関係 修羅場 泥沼!!基本です。
でももう1つ。
読み終わった後に嫌な気分が残らない事。
ポリシーです。
『最後まで読んでおいて良かった。』
ってお話、仕上げていきます。
これからもよろしくね ♬

2009/03/28 【廣瀬】 URL #DS51.JUo [編集]

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