ストーリーズ・イン・シークレット

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50 砂の城

 通い始めた国立病院の人達はみんな親切だった。
「一緒に話しを聞きたい。」
って受診に立ち会おうとするあたしに
「もっともですよ。」
先生はそう言って椅子を勧めてくれた。
 先生の言葉の端には
“死の匂い”
がしたけど、でも稔の言葉で想像していた程はひどくはなかった事も確か。何とか抗体って言うHIVの目安になる検査のグラフを見せられて、彼がエイズを発症していたのは分かったけど、カボジ肉腫って言う皮膚病は
「検査の結果それは完全に否定されました。おめでとうございます。」
って言ってもらえた。その意味にピンと来ないあたしだったけど、稔が唇噛んで苦しそうな表情で頷くから余計、物凄く助かったって事は分かった。
 でもレントゲンには肺炎の小さな影が残っているって言われた。
「聞いた事が有るかもしれませんが、日和見感染と言われる類いの肺炎を起こしていた可能性があります。」
それは健康な人だったら感染しない様なたいした事のない病原体が体の中に入り込み大きな病気を引き起こしてしまうという話し。
「乃木さんは小児ぜんそくの既往が有って、どうしても肺の組織そのものが弱いんですよ。そのためどうしても、ね。」
って。
“ね。”
って言われて、頷くしか無いあたし達。納得できるはずなんか無いのに、納得しなきゃいけないなんて。それでも
“生きる”
為に戦わなくちゃいけない。
「それってどういう意味ですか?」
って。先生は面倒くさがらずに詳しく教えてくれた。思い当たる限り稔のウィークポイントは肺だって事や、普通の生活をする事がどれだけ大切かって事。
「これからどれ位生きれますか?」
それから
「どんな治療をするんですか?」
本当は知りたくもない答えだった。それでも尋ねなきゃいけない。あたし達の未来の為に。
 稔はすぐに薬を飲み始めた。これ以上HIVウイルスを体の中で増やさない為の薬。でも生活は特に今までと変わる事もなく、ただストレスの無い生活をしなさいってだけ言われ、受診は月に1回で大丈夫だって話しだった。
「こんなにあっけないんだね。」
引っ越し先も引っ越しの業者さんも稔がさくっと手配を済ませあっという間に終わってしまい、4週間前とあんまり変わらない生活をしているあたし達が不思議。うがいをして手洗いをして、
“免疫力を落とさない為に”
毎日10時には寝て。稔は
『毒にならない程度に。』
酒を飲み。
 それからと言うものあたしはすっかり丸くなっていた。顔も丸くなったし、体型もそう。稔との毎日を楽しく過ごそうって決めたから、食欲が無いとか言わずに彼と一緒に美味しい物を沢山食べた。そうしていたらいつの間にか体重も増えてきて。さすがに双子のせいか6ヶ月に入ってからのお腹はぐんぐん大きくなった。靴を履くのにも最近はお腹がどっこらょって感じ。誰が見てもマタニティなふんわりドレスに、この際だって買ったパッチワークのキルトバッグも何だか板についてきた。まさかこんな格好出来るなんて思ってもいなかったドリーミーなコスプレだ。
 2月14日。そこかしこで甘いチョコレートの香りが漂うデパートの中、あたし達は売り場を間違えてエレベーターを下りた。パステルカラーのリボンが目の前に踊っていて、
“ベビー用品クリアランスセール”
の文字を見つけ思わずそそられちゃう。あたしはもともと庶民だし、彼がするみたいに定価で高い物をじゃんじゃん買う感覚にはずれが有るよなって思ってて。それよりだったらバーゲンで燃える方が好きだから。あんまセンスには自信ないけど、可愛い服はやっぱ大好き。そんなあたしに
「ついでだから見ていく?」
まだ元気な彼が言う。
「早いよ。」
って笑うあたしに
「そうかぁ~。」
って、一瞬あたしの向こう側を見る様な目つきをした。あっ、て。彼が自分の中のタイムリミットを刻んでいる気がした。だから
「少しだよ。予約してるレストランに遅れるの、嫌だからね。」
そう言いながら一歩先を歩いた。彼は売り場をうろうろと歩き、恐る恐る手に取った新生児用のボディスーツを
「嘘だろう?ちっちぇ~。」
なんて言いながらぐいって横に引っ張ってた。
「型くずれしちゃうよ。売り物だからやめなよ。」
って顔しかめるあたしを無視し
「へ~~~。」
を何度も繰り返し、そのくせあたしの目立つ様になったお腹をちらっちらって見るから
「何よ。」
「いや、別に~。」
彼はにやつく。
「言いなさいよ。」
すると彼は
「不思議だな~。」
って言った。
「涼子の中に赤ちゃんいるなんて不思議。でさ、生きてんだよね。小さいけど、心臓動いててさ。でさ、この大きさで産まれて来る訳?すんげぇ、不思議。」
そうだね。
「不思議だね。」
結局この日は妙に伸びた気がしないでもないボディスーツとロンパースを二組と、赤ちゃんと同じサイズだって言う真っ白い熊のぬいぐるみを2つも買った。透明なショップのバックにその子達を入れて歩くあたし達はかなり目立っていた気がする。以前は目立つの嫌だな~って感じだったけど、何でだろう。今はそんな事どうでも良い気がした。その帰り道稔が
「ぬいぐるみの名前はテディちゃんとベァちゃんにしよう。」
なんてヒドい事を言い始め
「ヤメてよ。」
って怒った。
「いい加減につけたら可哀相だよ。」
ぬいぐるみにだって名前は一生物だ。
「じゃぁ何てつける?」
そう言われてもすぐには思いつかなくて
「可愛い名前。」
なんとか誤摩化す。にやって笑った稔と手をつなぎ
「ご飯食べながら一緒に考えようね。」
そんなひとときが幸せだった。そして毎晩稔はあたしの部屋で浮腫みかけた足を揉んでくれ、
「今日も疲れたね~。」
って身重のあたしを労(ねぎら)ってくれる。
「そんな事無いよ~。」
あたしはソファの上でふんぞり返りながら針を持ってママバックを縫っている。そうしていると赤ちゃん達がぽこぽこって蹴り始め
「あっ、動いてる。」
手を休めたあたしのお腹に稔は待ってましたとばかりにすり寄って
「赤ちゃんだぁ~。」
なんて蕩ける様な声で言いながらそっとあたしのお腹に手を伸ばす。
「パパですよ~。」
「あはははは。」
彼の温かい掌を感じながら稔の頭をわんこの頭を撫でる様にくしゃくしゃって撫でて。あかちゃん達の活動が落ち着いたら
「じゃあね。お休み。」
彼は部屋を後にする。
 他の人達から見たらあたし達は
“スーパーバカップル”
なのかもしれない。何だか幸せ演じちゃって、絶対に崩れ去るって分かっている砂のお城を作っているみたい。でもね。例え波にさらわれる運命でもあたし達の思い出は残る。記憶の中のあたし達のお城は永遠だ。
 その日は3月も近い土曜日だった。ぽかぽか陽気が気持ち良いから絶対外にお散歩に行かなきゃって天気。だから早速張り切って日焼け止めを圧塗りし稔を外に誘う。でも肝心の稔は
「仕事が有るんだよね~。」
って言って机に向かっている。彼は今までの顧客との契約を打ち切って、自分の持っている財産も全部整理しているらしかった。
「こういうのは後が面倒いからね。」
そう言われ
「あたしの事はいいから遊びに行こう。」
可愛い振りして誘ってみたけど彼は首を振ってくれない。
「だったらさ、お昼にシドのバゲットが食べたい。それにアンチョビの入ったスクランブルエッグ。とろんとしたの。」
って追い出された。あたしの事がきっかけで稔はベーカリーシドに共同出資を始めていて
「せっかくお金有るんだから気に入ったお店に投資するのが一番でしょう?」
なんて笑った。挙げ句に
「涼子は経理の経験が有るから、あそこの監査、よろしくね。」
そんなんで時々帳簿を見せてもらう様になっていた。志努青年は別に会計士を雇ってたけど、それでも嫌がる事もなく
「助かるよ。」
って言ってくれるから
「仕方がないわね。」
憎まれ口たたきながら帳簿の整理を手伝った。その上最近ではシドの名前入りエコバックの作製に協力したり、微妙なラインでアドバイザーしていて。平凡な毎日で誰かに必要にされているっていいなって思った。そして今日は稔リクエストのバケッドの他に新製品の試作品も沢山もらって、両手にパンを抱えながら
「後で辛口の感想、メールするね。」
自信満々の志努青年をからかいながら店を出た。そして昔の癖で思わず駅の方へと向かってしまい。
「間違えた。」
誰にバレたって事は無いんだけど恥ずかしいなって思いながら道を引き返す。この日は何とか一人で運転する練習にって車で来ていたから。普通に道走るのだったら何とかなるレベルまで来たけど、あのワゴンをバックで駐車場に止めるのは超苦手。だから絶対に安全な駐車場が有る所にしかまだいけない身の上で、シドに来るときは少し外れにあるコインパーキングに止める様にしていた。時間はまだ11時。
「典子、いるかな。」
大体土曜日の彼女はこの時間に起き出す。もらったパンは今日中に食べれる量じゃないから帰り道彼女の所に寄ってみようかな~って思いながらシドの前をこっそり通り過ぎる。お店の中は沢山の人。女性に交じって男性の後ろ姿も有り、繁盛しているのがいい感じ。じろじろ見るのもアレだなって思いながらご機嫌で通り過ぎる。それなのに。女だったら誰でもいやだなって思っちゃうひたひたって足音が後ろから聞こえた。まるで後をついて来るみたいなリズム。思わず振り返りそうになり、今は真っ昼間でここは普通の道だから怖い事無いよって、自意識過剰になりそうな自分を抑えた。迫って来る足音に、先に行ってもらった方が落ち着くよなって脇によけた瞬間、その足音は立ち止まり
「涼子。」
その声があたしを呼んだ。
「涼子、だよな。」
振り向いたそこには見覚えの有る顔が有った。


   戻る    鏡 TOP    つづく


                         あとがき

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Date:2009/01/24
Trackback:0
Comment:13
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

*

おぉ???
もしや・・?
その声は???
(聞こえないのにねっ!ははっ!)
2009/03/13 【tomo】 URL #- [編集]

* ぎゃー!!!!!

とうとう来たか?
ヤツかそれとも友カレか?
フンーコーフンしてきたぞお(鼻荒)
2009/03/13 【fura】 URL #- [編集]

* 更新お疲れ様ですv

続きだぁ~☆って喜んで読みました。

男女の関係って、ホント割り切れないですね。
最後に声のみ登場の人物に予想が付いてしまって、なんかなぁ~と。

勝手な話、涼子には幸せになって欲しいです。

けど、それ以上に、稔に幸せに包まれて時間を過ごして欲しい。。。

あ~、最後はハッピーエンドって判っていても、人生、避けようのない事態はあります。

歯がゆい~(」゜□゜)」
2009/03/14 【コト子】 URL #- [編集]

* >tomo 様へ

涼子ちゃんを『涼子』って呼ぶ男性は二人しかいませんからね~♪
2009/03/14 【廣瀬】 URL #- [編集]

* > fura 様へ

とうとう来ましたよ♪
このシーン、書きたかったんだぁ!
2009/03/14 【廣瀬】 URL #- [編集]

* >コト子様へ

声だけの登場人物、予想がつくでしょう。
でもって
『何であんたがこんな所に来る訳??』
でしょう?
その 何で ってのが、やっぱ
“恋愛”
だよね~って感じで、次話に続きます。
お待ちくださいね ♪
2009/03/14 【廣瀬】 URL #- [編集]

*

ついに『彼』の登場ですね♪(ニヤニヤ)

廣瀬様はいつも切るところがうまいです!!!
続きが気になって仕方がないっ!
果たして涼子は『彼』とちゃんと話すことができるのでしょうか?

題名の「砂の城」っていうのがまた涼子と稔らしくていいですよね^^
2009/03/14 【みどり】 URL #- [編集]

* > みどり様へ

題名、良いでしょう ♪

どこまでも青い海と快晴の砂浜。
何気なくハマってしまった砂の城。
戯れて遊ぶ穏やかな夏の午後。
でも潮が満ちて来るリミットが波と共にやって来る。
崩れ去るって分かっていて
それでも素敵なお城を造りたくって夢中になってしまい、
そして遠くで雷鳴が轟く。

な~んてね ♪

さて、彼はどう出て来るでしょうか ♡
2009/03/14 【廣瀬】 URL #- [編集]

* 更新ありがとぉございます!!

ついに来たカンジ。。。

今回、ラストに声を掛けてきた人物。 アタシの予想通りなら…

『アンタ、まだ引っ込んでて(怒)』

…な気持ちです。


でも、涼子ならきっと、やせ我慢でも、見た目はサラリ、乗り越えて行けるよね!と願わずにいられません。

アタシも頑張るから、涼子も頑張って!
2009/03/15 【コト子】 URL #3un.pJ2M [編集]

* うぁぁ~

また、やってしまいました。

コメント打ってぇ~、投稿文を見直してたら…廣瀬さんからアタシへのコメ返しが!? 遡ってコメ見たら、アタシ、書いてる!?

呑んでません!が、覚えが在るようで記憶に無い自分のコメ。。。

2度美味しかったことにさせて下さい!
2009/03/15 【コト子】 URL #- [編集]

* Re: 更新ありがとぉございます!!

これが恋愛です ♡ な~んて展開の予定です。
未練でさ、
相手の事を想ってるんだか
自分の気持ちを大事にしたいだけなのか分からない。
考えるよりも思うままに動くしか無い感じ。

さて、彼女はどういう態度に出るでしょうか ♪
2009/03/15 【廣瀬】 URL #- [編集]

* あ…♪

廣瀬さんと同時にinしてる?

ニマァ~☆

ってしちゃいました(笑)
2009/03/15 【コト子】 URL #- [編集]

* > コト子様へ

なかなか珍しいですよね!
後でコメント読ませて頂いて、不思議な気分でした。
2009/03/17 【廣瀬】 URL #- [編集]

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