ストーリーズ・イン・シークレット

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44 鹿威し(ししおどし)の庭

 出がけ1時間前、あたしは典子に電話をしていた。プチ行方不明者になりかけたけど、稔に結婚して子供産むって約束した後からまた付き合い戻し始めてて、結婚が決まったのメールに彼女は
『喜んでやろうじゃないの。おめでとう!ついでだから幸せ分けてくれ~!』
の返信をくれてた。だから今日は
「今から結納だよ~。」
って電話した。
「むちゃ緊張する。」
つい三ヶ月前はマジ友達で、大事な友達だったからこそ余計距離置いていた。これまでの経緯(いきさつ)を詳しく話せるほどあたしは落ち着いてはいないけど、出来てしまった隙間を取り戻したい、その事は強く感じてて。そして今日みたいな日には友達の声を聞きたくなる。やっぱあたしも女だったんだぁって感じ。
『涼子に限って大丈夫だって~。』
電話の向こうで彼女が笑い
『あんたの偉大さを見せつけておやんなさい。』
なんて馬鹿な事を言ってくれる。そこへ
『え~なに、中川さん?』
聞き覚えの有る男の声。
『結婚するんだって?おめでとう~。』
青山だ。どうやら典子は青山とつき合い始めたらしい。
「そうだよ~。ありがとね~。」
割り込みやがってって思ったけど、まぁ仕方ない。そう思った瞬間
『勝利もね、元気にやってるからこっちの心配はしなくても良いよ~。』
だなんて。思わず携帯ぐっとに握ったあたしに
『この、馬鹿っ!!』
典子が叫び、一発食らわした音がした。
『涼子、ゴメン、要らない事聞かせちゃった。』
「ん、良いよ。」
そう言いながら
“青山なんかと別かれちまえ!”
って思った。空気の読めない男は嫌い。必至で動揺隠すあたしに
『でも折角だから教えとく。未練残さないためにね。あいつ、今久美子とつき合ってるよ。もう高校生レベルのラブラブだよ。笑っちゃう位。マジ馬鹿っぽいの。でさ、あいつはあいつでやってるし、涼子は涼子で頑張った方が良いと思う。だから勝利の事はすっぱり忘れなよ。みんな上手く収まったから、今度は本気出して幸せになりなよね。』
って。
「ありがとう。」
そうだよねって言い聞かせた。勝利に振り回された過去は過ぎたんだって。恨んでたら前に進めないよって。あいつと久美子。ある意味お似合いだよ、きっと。久美子だったらどんな勝利にだって喜んでついて行く気がして、思わず飼い主にしっぽ振る犬を思い浮かべ苦笑した。みんな馬鹿犬ぞろいじゃない?
「じゃ、そろそろ行くから。」
携帯切るあたしに
『お土産、忘れないでね~。』
彼女はおどけた口調で言いながら最後は申し訳無さそうに発音を濁した。
 料亭の入り口は思ったより小さかった。それでもそのちんまりした造りから
“特別な人にだけ許された”
店だって事が伺えた。きょろきょろする千尋を母さんがたしなめ、父さんは妙に仲居さんにお辞儀を繰り返す。90度で何度も曲がる長い廊下、坪庭。いきなり開ける日本庭園。鹿威し(ししおどし)のカコーンって音がこだまして。丁度目の前で振り向いた稔の姿を発見し
「お早う。」
って声かけた。彼は濃紺にピンストライプの細身のスーツ。
「あいかわらず格好良いね~。」
なんて。
「涼子こそ、今日もあいかわらず美人じゃん。そのワンピース、雰囲気良いよ。」
それはベビーピンクの超似合わないお母さんセレクト。
「まぁね。」
肩すくめてたら
「稔。」
たしなめる男性の声が部屋の奥から聞こえた。
「父さん。」
稔ははっとして体を強張らせた。覗いた襖の上座に座るのは、いかにも
“御当主”
と言った風情の、ポンポンのついた羽織を和服の上に着た撫付け髪の男の人。まるで時代劇に出て来る
“越後屋”
だ。その隣りには真っ黒な頭をカツラみたいにかちかちに固めた色留袖。多分お母さんだ。
「始めまして。」
あたしは立ったままちょこんと頭を下げた。付き合いは長いのにこうやってご両親ときちんと会うのは初めてだ。きっとこんな風にシビアな事になるのが嫌で二人とも逃げていた部分有るんだけどね。だから初対面で失礼が無い様にって態度で示したと思ってたはずが、なぜか父さんがあわててあたしの肩に手をかけて、
「ご挨拶はきちんとしませんか?」
部屋の奥からPTA会長みたいな声がした。
 上座には昆布だとか訳の分からないものが熨斗紙の上に並べられ、ふかふか過ぎて座り心地の悪い座布団の上、取り合えずって感じであたしは両親が頭を下げるタイミングで頭を下げ続けた。長く続く堅苦し向上。しゃべってるのはもっぱら稔の父さんだ。その上
「折角家族になるのだから、砕けていきましょう。」
とか言いながら
「中川さんのご実家は確か以前農業をやっていたとか。」
そんな事を口にする。調べたのかよって少しムカつく。それ以上に、あたし達のおばぁちゃん達の世代、日本人のほとんどが農家やってたっていうのに何偉そうに言ってんだよ、この糞オヤジって思った。それでも稔の父さんだから我慢した。
 それは料理が運ばれて来ても続いていて、遠くから聞こえる鹿威しのリズムで責め立てる。
『寄るな、近づくな。ここはお前のテリトリーじゃない。』
あたし達は野生の害獣じゃない。
「それにしても稔、結婚は早まったんじゃないのか?というか、ほら、子供が産まれて落ち着いてからのほうが良いんじゃないか?」
その険のある言い方が胃の底にどすんって落ちて来る。まるで子供が産まれなければ良いような口ぶり。それにもっともらしい顔で
「お父さん、言い過ぎですよ。」
助け舟を出す振りで義理の母になる人が言う。
「稔は責任感の強い男の子なんですから。稔の事ばかり責めないで下さい。」
その口調はまるであたしが稔を騙した様な言い方だ。だから
『そうか』
って身に沁みた。この人達にとってあたしは関わるのも嫌な身分制度の底辺で、もしかしたら子供だって堕ろして欲しいって思ってるんだって。思わず唇噛んで堪えたその時に、稔の穏やかな声が割り込んで来た。
「やだなぁ父さん母さんも。」
彼の手には鉄瓶に入った祝い酒。持ち手に飾った水引で作られた鶴がふざけた顔でこっちを見てる。
「涼子が妊娠したから僕と結婚してくれる気になったんじゃないですか。」
それはある意味的を得ていて。
「やっとこの僕が結婚までこぎ着けたんだから、そっちを祝福して下さい。もしかしたら僕は一生独り身だったかもしれないんですからね~。」
って。彼はこの厳しい夫婦の間に育っていて、だからこそ柔らかい空気を作り出せる様に努力して来たんだなって感じた。そして肝心のあたしはずっと
“現実”
の海を泳いでいる気分だった。かなり気が立ってぴりぴりしていて、そのくせどこか感覚がずれてる。乃木の人間と結婚するって事はこういう事だって覚悟はしてたけど、でも波が高くって荒れた海原に酔いそうだ。
 この
“喜び”
の場所で、あたしはうかうかと喜んでなんていられないし、今までみたいに人生を悲しんでいる場合でもないって肌に刻まれた気がした。だから演技だけは続けないとって、並べられた懐石料理を食欲は無くてもにっこり笑いながらばくばく食べた。何が何でも元気な所を見せてやらないといけない気がした。あたしの為に、稔の為に、それから祝福されて産まれて来るはずの子供達の為に。いつ全てが暴露され、何もかも高波にさらわれる瞬間が来るか分からない。その時に逃げ延びる、これは準備だ。
 本日は快晴、秋晴れなり。緊張しながら、隙見せない様に笑顔を続けた。意識が生き霊みたいに抜け出しそうになるからあわてて自分を引き止めて。ふいに
「涼子、体辛くないか?」
稔が助けのブイを投げてくれる。
「僕たちの子供に何か有ったら良くないし、座ってばかりだと体に悪いから。少し散歩してこよう。」
彼はそう言ってすっと立ち上がった。
「あっ・・・ありがとう。」
すごく嬉しかったけど
「ゴメン、足、痺れちゃってて・・・。」
慣れない正座の所為できりきりと体の奥が痛い気がした。
「ほら、無理してるからだよ。」
そう言いながら彼は堂々とあたしの足を真横に伸ばさせた。
「痛いかもしれないけど我慢して。」
もう痛いも何も感じない足を彼の大きな手が擦る。
「こうすると早く痺れが取れるから。」
みんなの視線があたしの足に集中し針のむしろにいるみたいだった。
「無理しないでね~。」
いつもの稔の口調があたしの心を和らげてくれた。
「涼子と子供達に何か有るなんて事、嫌だからさ。」
彼はそう言いながら周りを牽制し、あたしを立ち上がらせてくれ
「体に触るといけないから、若いものは若い者同士って事で、彼女の事は任せてね。」
ってあたしをこの場所から連れ出してくれた。
「ここなら大丈夫。」
座らせてもらったのは庭の片隅、丁度死角になる場所に鎮座する竹で編んだベンチ。隣りに稔が座り、あたしの足を持ち上げサンダルを脱がせるとそっと足を揉んでくれた。
「少し浮腫んでるね。」
「うん。」
それから
「あんな親でゴメンね。それからありがとう、我慢しててくれて。」
って謝った。でも
「あれでも僕の親なんだ。不思議だね。彼らのやってる事、嫌いだけど、でもやっぱり自分の親だって。庇いたくなるんだよ。」
「うん、それも分かるよ。」
きっとそれは親になろうとしている今だから理解できる気持ちだと思う。あたしはいつか子供達に
“殺そうとした事実”
を伝えないといけない日が来るかもしれないから。言い訳なんて出来ないけど、それでも言葉だけじゃ割り切れない感情があるって事、知ってるから。
「父さんも母さんも僕を守る事で必至だから周りが見えないんだよ。陳腐かもしれないけど、アレはアレで二人の愛情なんだ。」
瞳を伏せる彼をカッコいいって思った。人の醜い所も含めて好きだって、なかなか言えないじゃない?
「ねぇ、稔。」
「ん?」
「あたし本気であんたの事、好きだよ。」
強い所も、弱い所も、きっとね。

     
   戻る     鏡 TOP     続く


                      あとがき
                    

       


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Date:2009/01/30
Trackback:0
Comment:6
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

* えーーーーー!!!

久美子だとー!!!
勝利はいったい何をやってるんだあ!!
まったくう  <`~´>

稔クンがあまりにも上等すぎて
ほんと悲しくなってしまうよ。
しっかりしろよー 頼むよお
2009/02/24 【fura】 URL #- [編集]

* > fura 様へ

> 久美子だとー!!!
> 勝利はいったい何をやってるんだあ!!

でしょう?ほら、彼、荒れてるから♪

でもでもでも、勝利は最後まで勝利なんです。
それが最後に生きてきますから。おほほほほ。
2009/02/25 【廣瀬】 URL #- [編集]

*

結婚をすると決めた理由はどうあれ、
稔って・・本当に優しい人ですよね。
男と女として、本当に愛し愛されたら
この世で一番幸せな二人なのにね。
私も好きだな♪
2009/02/25 【tomo】 URL #- [編集]

* > tomo 様へ

稔は本当に好い男だと思います。
優しくて色々な意味でバランスがとれていて。
多分私が書く話しの中でダントツ!です。
このままハッピーエンドって手も有りですが
そうは問屋が卸さないのです。・・・・・。
ご免なさい!!
詳しくは書けませんが、まだ大波乱が待ってます。
2009/02/25 【廣瀬】 URL #- [編集]

*

いくらなんでも勝利がこんなにも早く「次」を見つけるのは腹がたってしまいます<(`^´)>
荒れているのはわかるけど、あんたが発端でしょ!?、と思ってしまうのです。
あんたも幸せになるなんてずるいっ!!!!

次回の更新が待ちきれません!!!
2009/02/25 【みどり】 URL #- [編集]

* > みどり様へ

廣瀬が超!!意地悪だって事をお忘れなく♪
彼は今不幸のどん底ですよ♡
どんなふうに悲惨なのかは
後ほど彼の口から語って頂きましょう、うふふっ なのでした。
2009/02/25 【廣瀬】 URL #- [編集]

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