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ストーリーズ・イン・シークレット

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41 復讐

 はっきりとした答えを出せないまま稔のマンションで数日を過ごした。彼は
「行ってくるね。」
とだけ言って家を出てあたしに時間をくれる。3LDKのマンションの一室で時間だけがぼんやり過ぎていく。こう言っちゃなんだけど、稔の手を取れば良い、それで全ては解決するって分かってた。あたしは金持ちでイケてる優しい男と結婚し、一生不安もなく暮らしていけるって。稔はきっと素敵なパパになる。この子達を自分の子供みたいに可愛がって。あたしはきっとそれを見て
『あたしは本当の親なんだから、稔に負けない位この子達を可愛がってあげなくちゃ。』
なんて思ったりできる様になる。時々夢の中に現れる勝利の影もいつしか薄れ、あたしの人生はきっとバラ色に塗り替えられる。でもね。大きくなった子供達を愛せなくなる、その瞬間が来てしまいそうで怖かった。子供達の顔とか体とか、ふとした仕草の中に勝利の姿を見つけてしまったら?きっとあたしはその小さな手を払いのけ
『ヤメて!』
そう叫ぶに違いないって思う。そう、今のあたしには自分に自信がなかった。産まれて来る子供を心の底から愛していく自信ってヤツが。まるで迷路に迷い込んだ気分だ。でも、タイムリミットは近い。
『食べないといけない。』
そう言って稔が買って来てくれたクロワッサンがリビングに置いてあり、奇妙な空腹感を覚えてその袋を開けた。シドには気を利かせた稔が連絡をしてくれていて
「丁度新しいバイトが見つかったらしくって大丈夫だって話しだよ。」
そう先日教えてもらってた。それから今朝お店の様子を見に行ってくれ
「女の子は働いていなかったけど、小柄な男の子とガタイの良いおじさん、それから眼鏡の男性が働いていたよ。」
って教えてくれた。一人増えていてほっとする。きっとこれで紫乃ちゃんも安心してるだろうなって思える。同じ妊婦なのにね、違うね。
「はぁっ。」
あたしはペットボトルのやけに甘ったるい紅茶を一口啜った。同じ妊婦なのにって。紫乃ちゃんはいつも青白い顔に浮腫んだ足をしていた。華奢で守ってあげたくなる様なあたしとは正反対の女の子。そのくせ、とっても頑固な一面を持ってるって事も知っている。詳しくは知らないけど紫乃ちゃんには紫乃ちゃんの複雑な事情が有るらしい。もともと両親がいない家庭で育った上に、彼氏の海外出張が決まった直後に出来ちゃって、仕方が無いから彼氏の従兄弟の所で暮らしてて。そんな紫乃ちゃんはどんな気分で過ごしているんだろう。妊娠中毒症は落ち着いたかなってちょっと心配になった。産まれて欲しくないあたしがピンシャンしていて、望んでいるはずの彼女が病気で苦しんでいるなんて。シドの店長の心配そうな顔が頭をよぎって、やっぱり人生って平等じゃないって思う。あたしが幸せになっていい訳、ないじゃない。
 そんな事考えながらうるさいだけのテレビのスイッチを消した。稔にはこれ以上迷惑かけたくないのに、でも体が動かない。横になって寝ていれば足の辛さも忘れられるし、何よりも考えなくて済んだ。産むとか産まない、そんな事すらも今は思い出したくもなかった。ただきっと、まだ中絶してもいなければ子供が産まれてもいない今は、生涯最後の幸せな時間になりそうな気がした。シドのクロワッサンは最高。ぱりぱりと綺麗に剥がれる皮を剥ぎバターたっぷりの生地を口の中に入れると
「美味しい。」
あたしは久しぶりに食べる物を美味しいなって感じていた。同時にあたしの赤ちゃんはそんな体験する事なくこの世を去るのかって思った。
「ご免ね。」
気持ち的には食欲無いって言うのに、体が食べたいって言っていて。あたしは3つ目のそれに手を伸ばしていた。罪悪感が迸る。あたしばっかり良い思いして、美味しいもの食べて。
 そんな夕方、
『涼子、今外出れる?』
稔から電話がかかって来た。
「ん、大丈夫。」
と言っても着ていたのは上下ともスエット。しかも稔の。毎日お風呂入ってる間に洗濯して、乾燥機の中から取り出したのをまたすぐ着てた。だからぼろ雑巾みたいな格好。そのくせ
「みっともないけど大丈夫。」
今のあたしは他人の目にどう映っても平気だった。
『じゃぁすぐ下に来て。』
え~って言いそうになったけど、その前に電話は切れてしまい
「何だよ~。」
って思いながらあたしは立ち上がった。髪の毛はぼさぼさ。どこかで流行った山姥みたい。でももうそれを気にするほどあたしは女じゃない。
 面倒だなって思いながらエレベーターでホールまで降りて行く。でも、どこにも稔はいない。
「まったく、どこいるのよ。人のこと呼んどいて。」
仕方ないからこの格好で外に出てやったけど、道の端に黒いワンボックスが止まっているだけ。しかもそのベンツ、誰に向かってなのか知らないけど、ちかちかって5回ブレーキランプを点滅させていて。それはあたしに古い歌を思いださせた。
“愛シテルノサイン”
「馬鹿かよ。」
ベタすぎ。何だかむっとして待っていると、その車の窓がすうっと降りて
「涼子。」
その窓から稔が笑顔をのぞかせた。
「どうよ。いいでしょう?一目惚れしてさ、買っちゃった~」
唖然とするあたしに彼はおいでおいでをした。
「赤ちゃんが産まれるって言ったら、やっぱファミリーカーでしょう?」
それは普通にファミリーカーって言うのとはかなり違うと思うけど、それ以前に
「信じられない。」
あたしはまだ答えを出せていないっていうのに彼が答えを決めている。皮肉まみれで
「前のポルシェはどうしたの?」
今時流行らないバブリーなお気に入りを彼がどうしたのか。
「ん~。」
稔は頭をぽりぽり掻きながら
「欲しいってヤツがいたから高く売ってやった。あれ、プレミアついてるんだってよ~。どうせ義理で買ったヤツだったし、メンテナンス面倒臭かったし。それよりこっちは良いよ、DVD も見れるし、空調も良いし。シートも柔らかい。第一、ワンボックスの方が家族大事にしているっぽいでしょ?」
「でも・・・・。」
呆れて声が出ない。
「これでもね、ブルガリの指輪と値段変わんないってんだから変だよね。こっちの方が実用的なのに。」
「馬鹿ね。」
あたしは子供みたいにニコニコ笑っている稔に素直に感謝する気持ちになっていた。彼が迷ってるあたしの事、男らしく引っ張ってくれてるって。あたしと子供の為に生活を変える気だって事を証明してくれて、あたし達を幸せにしてやるよって言っているみたいだ。
「ねぇ稔。ヤメときなよ。あたし、我がままだよ。」
優しい稔。ここに来て始めてあたしは自分の人生を受け入れてみようかなって、ちょっとだけだけど思ってみた。これって
“流される”
そんな感じなのかもしれないけど、あたしの人生、これで結構迷わずに生きて行ければ幸せかもしれないって。ある意味人ごとみたいに考えた。
「そんな事とうの昔から知ってるし。それより、早く乗ってよ。」
彼に急かされ車に乗り込んだ。
「じゃぁさ、ドライブ!ドライブ行こう。ルーフ無いから飛ばしちゃって!」
偽物の空元気が沸いて来た。彼はそんなあたしの不細工な格好を見て
「そうだ!」
って叫んだ。
「プリティウーマンごっこしよう。」
それはスウェットにパンプス引っ掛けたあたしを都内のサロンに連れて行こうって言う暴挙で。
「この人をレディにしてください。」
って言葉から始まって、
「お世辞は彼女に。」
まで飛び出した。
「超馬鹿みたい。」
あたし達は本当に馬鹿みたいだった。
 プリティ・ウーマン。あたしはこの映画が大嫌いだ。みんなは良いって言うけどね、忘れてない?彼女、ストリート・ガールだったんだよ。普通に売春婦。体を1回5000 円程度の金額で売って
『コンドームは何が良い?いろんな色が有るわよ。でもつけないといけないの、ルールだから。』
なんてさ。有り得ないって。結局バックにいるやくざみたいなのにお金巻き上げられて、エイズになるかなんかで人生終わるんだ。
 それでも彼の遊びは楽しかった。
“嫌いだ”
そう言いながら友達とみんなで彼の実家の大画面のテレビで何回も映画見ていた事を覚えてる。だから妙に細かい所も知っていて。彼女の下品な歩き方をまねては
「似てる!」
彼が笑い、経緯を知らない店員さんがきょとんとしながら作り笑いを浮かべた。それまるでジュリア・ロバーツが最初に訪れた高級店の高飛車な店員さんが、2度目に訪れた彼女に作り笑いを見せる、そんな感じだった。
 その帰り道、ショップの袋で一杯に詰まった車を走らせながら
「涼子、アノ映画嫌いだったよね。」
稔はさりげなく言って来た。
「でも僕は好きだった。それでよく高校の時にやり合ったよね。」
よくそんな昔の事を覚えているなって感心した。
「でもやっぱり僕はあの映画、好きだよ。だってさ、ジュリア・ロバーツは娼婦だったかも知れないけど、彼女がいたからリチャード・ギアは救われたんだ。もし彼女じゃなかったら、彼はお金以外の人生を失っていたんだよ。だからさ、
“終わりよければ全て良し”
って言うじゃない?」
家路を辿るベンツが最後のカーブを曲がった。
「涼子が僕を幸せにしてくれる。それが全てなんだよ。」
 その夜は二人で台所に立った。料理を作るのなんて何週間ぶりだろうってくらい久しぶり。隣りで彼が包丁を握り、あたしは野菜を洗う。
「こうしていると、幸せだ。」
適当なグラスに注いだビールを飲みながら彼が言う。
「こうやって二人幸せになって、ささやかな復讐、してやらないか?」
そこに彼の本心をちらって垣間みた気がした。
「僕さ、涼子と子供達と人が羨む様な幸せな家庭作って、ジョージに見せつけてやりたいんだよね~。」
なんて。それはきっとあたしの中にもある同じ様な欲望。あいつにこんな目に遭わされて、でもそれがきっかけであいつが一生手に入れる事が出来ないような幸せな家庭を築いて。それはささやかな復讐。蜜の味。
“勝利がつかめない幸せをつかむ事。”
自分の子供達とその家族。笑いさざめく食卓に、日差し一杯のリビング。
「人生、一度きりだもんね。」
あたしは自分の子供達に将来ってヤツをあげたくなっていた。



   
    戻る    鏡 TOP      続く

                        あとがき





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Date:2009/02/02
Trackback:0
Comment:4
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

*

思っていた以上に更新が早くてびっくりしました!
涼子はついに子供を産む決意をしましたね。
あれだけ「私には産めない。こんな世界に生まれない方がいい」と言っていた涼子に産む決意をさせた稔はすごいです。確かに、稔といると絶対幸せにしてくれそうな気がしますしね。本当にいいパパになりそう♪
2009/02/13 【みどり】 URL #- [編集]

* 苦しいかも・・

ほんとに早い更新で嬉しい♪
でもでも、読んでいて苦しかったです。。。
二人とも無理してるんじゃ・・
泣きたくなるくらい、辛いかも。。。
人それぞれ受け取り方がありますが、
私の感想です。

次も楽しみにしていますね♪
2009/02/13 【tomo】 URL #- [編集]

* みどり様へ

稔はね~良いパパになると思いますよ♡
まったく、うちの旦那にもそのエッセンス分けて欲しいっす! ← 愚痴
折角のコンテスト期間なのでちょっと頑張って更新してみました。
結構息上がってますけど、頑張りますね~。
2009/02/13 【廣瀬】 URL #- [編集]

* tomo 様へ♪

ふっふっふっ ♬
リアルな世界じゃこの手の苦痛は物凄く平凡で
小説以上に日常の世界に溢れている、そんな気がします。
それでも時間は過ぎていって、
妥協しながら前に進むしか無いと言う。
という事で、
涼子達にとっても重圧なのですが、
彼らの時間も進みます♬

次話では涼子ちゃんの事、もう一声応援してみます。
(と言ってもかなり叱咤!の方だけど。おほほ ♪ )
2009/02/13 【廣瀬】 URL #- [編集]

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