FC2ブログ

ストーリーズ・イン・シークレット

恋愛小説置いてます。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

 
 

Information

Date:--/--/--

34 ずれた歯車

 あたしは結局影を無くす様に会社を辞め、いつしかベーカリーシドで午前中いっぱい働く様になっていた。
 朝は当然キツいけどその分夜に早く寝る様になって肌だけはかなり調子がいい。就活の方はぼちぼちで、今度面接を受けさせてくれるって言う会社も二つ見つかった。稔とはすれ違いでなかなか会えなくって、指輪のお礼も言っていなければ実のところ会社辞めた話しすらしていなかった。電話で話せる事じゃ無い。もういい加減彼にだけは教えなきゃいけないかなって思ったから、シドのクロワッサンと大奮発のシャンペンと少しは自信のある田舎の手料理を用意して彼を部屋に招待した。あれだけ高い指輪を買わせておいたんだ。理由を知る権利が彼にはある。久々にあたしの部屋に入った稔は緊張しているあたしに
「相変わらすキレイにしてるね~。女の子の部屋って感じがする。」
なんて言うから気がそげて
「女の子の部屋になんか入った事無いくせに何言ってんだよ~。」
なんてからかってやる。稔は市場が暴落して以来阿呆みたいに忙しいらしく、シンガポールと日本の間を毎日の様に行き交っていて、ニューヨークが休みになる明日は久々に休めるって唸った。
「酒飲むのも何日ぶりだろう。」
かなり頬がこけ痩せたなって感じの稔は疲れた様子を取り繕う様にグラスに注いだシャンペンを一気に飲み干し、花の様な笑顔でにっこりと笑った。自分の事で頭が一杯のあたしでさえも今日の彼はいつになくおかしいって思った。多分彼もあたしと同じ。彼がこんな風になるのはいつだってジョージ絡みだったから。
「ほら、飲め。」
綺麗なピンンク色の渦を彼のフルートグラスに注ぎ込む。
「サンキュー。」
彼が空騒ぎみたいな返事をする。これは相当ヤバいって思った。だから
「俺も別れたんだ。」
って言われやっぱりって思った。
「あたし達、一緒だね。」
なんてついでみたいに言ってみて。
「二人、寂しいねぇ。」
「寂しいねぇ。」
結局彼は直接ボトルに口を付け派手な仕草でシャンペンを飲み、最後に小さくむせ込むと
「寂しいよ、涼子。」
不意に背中を丸めうなだれた。
「あたしもだよ。」
二人のため息が狭い部屋にこだました。
「俺さ、ジョージの事愛し過ぎちゃって、今だってどうして良いか分からないんだよ。」
その肩を抱き寄せ
「でもさ、ジョージだってあんたの事愛してるはずだよ?」
今まで感じてた通りに彼を説得した。稔の事は本気で大切だったから。もし後戻りする事で取り返せる人生だったら彼にだけは幸せになって欲しい。
「稔はさ、もう少しジョージの事信じてやっても良いんじゃない?あんたに足りなかったのは愛されてる自信だよ。」
なのに彼ははぐらかし
「久々に涼子の糠漬けが食べたい。」
なんて言い出した。
「それ、無理だから。」
あたしは一気に落ち込んでた。
「もう1ヶ月前に糠床腐らせちゃったよ。」
耳の底にはゴミになったポリ袋が道路に落ちるあの瞬間の
“べちゃっ”
って音が今でもこびりついている。
「そっかぁ。」
彼はそんなあたしに気がつかず今度はウイスキーのボトルを開けた。
「話した事無かったっけ。涼子の糠漬けって、涼子の家の近くに小寺さんって人がいて、そこのバァちゃんの糠漬けと同じ味なんだよね。子供の頃よく食ったからだからすんげぇ懐かしくってさ。」
それってあたしが糠床もらったおばぁちゃんじゃん。
「小寺のおばぁちゃん知ってんだぁ。」
確かに同じ町で暮らしてたけど、稔があたしのご近所さんの事まで知ってるのには驚きだった。
「そうだよ。俺のバァちゃんの女学校時代の親友なんだって。だから昔はしょっちゅう遊びに行っててさ、漬け物と手作りのまんじゅう食ってたさ。」
それからひとしきり昔話に花が咲いた。高校の頃よく一緒に歩いた土手の桜が綺麗だったとか、高校の頃の恩師が離婚してすぐに再婚しただとか。校門を出た角に有る甘味処で一緒に食べたお汁粉の話しだとか。
「稔、いきなりアイス最中注文して汁粉に突っ込んで食べたよね。あれって凄美味かったよね。」
「おうよ。あれからそれをメニューで出す様になったって知ってる?」
「え~!」
なんて。
「何だかこうしてると田舎に帰りたくなる時って無いか?」
しみじみ言われるから
「うん。」
あたしはぽろっと本音をこぼしてた。
「東京、疲れたよ。」
それから勝利との事、全部話した。あたし達は二人とも気が弱くなっていて、ある意味不幸比べ?
「レイプまがいだよ。」
肩すくめながら
“本当はレイプだった”
って思ったけど、そこまで言っちゃうと稔に重すぎるから誤摩化して。
「会社でヤラれちゃった~。」
軽く言い放つ。
「そんなんで何もかも嫌になって会社も辞めちゃったんだ。」
彼は黙って聞いていた。それが無茶苦茶嬉しかった。あたし、男運は悪いけど友達運は多分最高だ。
「でもってね、稔からもらった指輪、ありがたかったよ。最後の最後であたしも見栄張りたくなっちゃってさ。毎日それつけて会社行ってた。ご免ね、稔。こんな事に巻き込んで。」
「そっか。」
彼はいらない事を聞いて来る事は無くって、ただ
「これからも俺の事、頼っていいよ。」
そう言ってくれた。
 その夜は思いつくままに沢山話した。はずれくじ引いた男の話しで
「だから男って嫌い。」
唇を突き出したあたしに
「確かにね~。」
って稔は頷いてくれ、友達の典子に心配かけてる事も
「気持ちが落ち着いたら連絡した方がいいよ。じゃないと後で後悔するからさ。」
酔っぱらいの割にはまともに答えてくれた。それからバイトを始めたベーカリー姉弟の不思議な関係も話した。
「きっと彼、紫乃ちゃんの事好きなんだよ。もう、絶対!」
「女の直感?」
そう、正にそれ。
「間違いないから。」
あたしは自分の事を忘れてうわさ話にのめり込んでいった。稔に話す事でまた思い出してしまった勝利との事を、そうする事で忘れようとしていたんだと思う。
 そしてその事に気がついたのは明け方。最近早起きの習慣がついたせいかゆっくり寝ていられる休みの日でも5時になると目が覚めていて、ぱちっと見開いた目をめがけて昨日の夜の言葉が隕石みたいに急降下で落ちてきた。
「1ヶ月。」
あの糠床を捨ててから明日で丁度4週間になる。
「まさかね。有り得ないよ」
あたしは自分に無理矢理言い聞かせていた。月のモノが遅れている。でもつわりだったら知っている。紫乃ちゃん見ていればよく分るから。朝起きれなくって、吐き気がして、貧血でふらふらしてて。ご飯が食べれないからダイエットしてる訳でもないのにどんどん痩せてって。でもあたしはそんな事無い。確かにこの1ヶ月、体調は悪いかなっては思ってた。でも朝に足が怠いだけで、吐き気なんか無いし、最近の朝ご飯はベーカリーのパンを食べ放題状態だから、痩せるどころか心持ち顔も丸くなって来ている。ただ朝に食べ過ぎる分だけ、昼と夜は食べれなくはなっていたけどね。そう、だから大丈夫。あたしは自分に言い聞かせた。今のあたしはいつもと変わらないんだって。
 横で寝ている稔の事を気にしながら、手首とか足首を摘んでみた。気持ち足が浮腫んでいる気がするけど、紫乃ちゃんの象足を思い出し、こんなの浮腫のうちに入らないよってほっとした。それから息を目一杯吐いてお腹をぺちゃんこに凹ませてみる。ほら大丈夫。水が溜まりそうな位あたしのお腹はぺっちゃんこ。ああ、それから。考え出すと止まらなかった。この夜あたしはシャンペンをグラス1杯も飲めなかった。何だか受け付けなくって、稔が無理言わない性格なの知ってるからボルビック飲んでた。そう、水。あたしはずっとエビアンだったのに、最近めちゃ苦いって思う様になってた。漬け物も。以前は毎日食べなきゃ落ち着かなかったのに、それが今じゃ全然食べたいって思わなくなっている。季節が変わったせいだと思ってた。それからおっぱいの先が痛いって思う事が増えて来て、多分ブラのレースが擦れてるんだと思って昔使ってたスポーツブラを取り出して使う様になっていた。
「有り得ないって・・・・・。」
いてもたってもいられなくなり、こっそりと起き出し隣りの部屋で手帳を開らく。
「7 8 9 10・・・・・。」
あたしの生理はぴったり2週間遅れてた。何かの間違いだと思いたかった。怖くって、でも今は何もできないから、布団被って稔の横で丸くなった。
「ん・・・涼子、どうした?」
寝ぼけて聞いて来る彼に
「何でも無いから。」
って答える。何でも無い、なんて。大有りだって言うのに。彼にバレるのも怖くって、稔が小さな寝息を立て始めるまで息を殺して待っていた。あの時あたしは最低な風邪を引いていた。体調が悪い時って妊娠しにくいってどこかでどこかに書いてあった事を覚えてる。そう、だからきっと大丈夫。そう自分に言い聞かせ。それに高校の頃は病気をするといつだって2週間位平気で遅れてきていたものだった。大丈夫、平気。今回はそれだ。必死で自分を騙した。最悪なパターンから自分を引き剥がそうとした。でも結局は本当に妊娠してるってヤツに行き着いて。産む?まさか。想像しただけで体が震えた。いままでずっと気をつけてた。病気も怖いから最初っからゴム有りが鉄則で。あれほどまで注意していたはずが、今回に限ってスッパリ忘れていた事が悔しい。産む?まさか。その堂々巡りの中、すがれるのは神様しかいなかった。


   戻る   鏡 目次   サイトTOP   続く







      


スポンサーサイト

 
 

Information

Date:2009/02/11
Trackback:0
Comment:0
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。