ストーリーズ・イン・シークレット

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31 悪夢

  注意!!
   引き続き合意の上ではない表現があります。
   また感情的にも残酷なので苦手な方は回避されてください。


  
 あたしは感情が抜け落ちたみたいだった。もう痛みなんか感じない。手足が痺れて抵抗する事すら思い浮かばなかった。早く終わらせて欲しい、ただそれだけ。自分の中で時計の秒針がこっちこっち音を立てながら
“まだかな、まだかな”
って時間の鈍さを呪っている。機械仕掛けの人形みたいな勝利ののど仏が目の前で上下に動いていて、なんだか浅草寺の脇にある金剛力士像を思い浮かべていた。彼は何度も
「畜生!」
を繰り返し、最後まで鬼みたいな顔つきで。そしてやっと事が終わった後、あたしの横にぺたんと腰を下ろし後ろ手にスカートを直してくれた。それからティッシュを取り出す音と、ジッパーをあげる音。ため息。丸まってる彼の背中が一言呟きのろのろと立ち上がると、一片たりとも振り向かず沈黙を残して立ち去った。その足を引きずる様な後ろ姿をぼんやりと目で追いながら戦争映画の負傷兵を思い出していた。時計の針は12時丁度。あたしの世界はたった20分で変わってしまっていた。ふと横に目を向けると、何でなのか小さなポケットティシュと男物のタオルハンカチが置いてあってご愛嬌。それを見たあたしの口元が勝手に笑ってた。
 頭働かなくて、ただぼんやりして身動きも取れず。なんとかしないとって考えを巡らしても、典子に助けを求める訳にもいかないし、なんて中途半端にネガティブな事ばっかり思い浮かび結局体は動かない。そして気がついた。下着だけ。残りの服はちゃんと着ている。髪さえ戻せばいつものあたしに戻れるんだ。力の入らない体を起こし、やっと立ち上がる。とにかく、髪。いつものパターンでくるくる巻いてピンでとめた。多分これで大丈夫。部屋の隅にある洗面台の鏡の所まで行きチェックする。何だか顔色悪いけど、いつものあたし。ずれたストッキングを直すけど、それは上手くいかなくて。それでもスカートの中にそれなりに収まった。どこか服が破れた気がしたけど気のせいだったらしく、おかしい所は見つからない。あたしの下半身は傷みの所為で感覚失ってて、それがラッキーって感じ。何だかべたべたしていたけど、忘れようと思えば忘れられる、そんな気がした。その時だ。どこからともなく
「あはは。」
あたしを笑う女の声が聞こえてきた。
「あはははは。」
って。鏡の向こうで女が笑ってた。
「あはははは。」
その人は何だかネズミの国のアニメに出て来る魔女みたい。
「あはははは。」
上手く作ったはずの髪が再び落ちて来てサイドを隠す。鏡の中の狂気があたしを見返していた。その瞬間、激しい吐き気がこみ上げ一気にもどしていた。
「・・・・!」
それは食べ物じゃなくて胃液だけだったのだけれど。口の中いっぱいに広がる悪臭が、もう一度私に発作を起こさせた。
「ぐっ・・・・!」
吐きたいのに吐けない、むしろそれが辛い。じっとして発作が収まるのをまった。少し落ち着いたあたしは列を乱したテーブルまで戻り、自分が持って来ていたお茶を飲み干した。胃が痛かった。もう一度来た発作はたいした事は無く、嘔吐いた(えずいた)だけで終わり。あたしは手の甲で口元を拭いた。
 お昼休みでごった返す通路を歩いた。嫌だったけど、誰かに気づかれるかもって思ったけど、このままあそこでくたばるのは嫌だった。居続けたらミイラになって死んでしまう予感が有ったから。
「体調悪いんで。」
あたしはまだデスクにいた上司に一言だけ言った。
「帰らせて、下さい。」
 それからどうやって帰ったか覚えていなかった。気がついた時にはベッドの中で時計の針は夜の7時を指していた。
「嘘・・・・。」
悪い夢、見たみたいだった。そう、全部が夢だ。今いるのは学生の頃から暮らしてる馴染みのある自分の部屋で、あたしはぐっすり寝ていたんだ。ゆっくり起き上がり回りを見渡し変化がない事を確認した。その時、軽い痛みがお腹に走り、
「つうっ・・・。」
夢が現実だったって思い知らされた。シャワー、浴びたかった。でも体が動かない。とにかく怠くって、何も出来ないから。
「助けて・・・・。」
あたしはもう一度枕を抱え込み、そのまま瞳を閉じた。
 浮いて沈む。あたしは海の妖精。プラナリア、プランクトン、水クラゲ。ゆらゆらゆら。光が差し込んで、闇が来る。ひらひらひら。でもね、何となく、乾くね。唇、痛いよ。もっと水が欲しいよ。部屋の中が水の中に有るみたい。全てがブルーで揺らめいて。喉乾いたなって立ち上がって覗いた冷蔵庫の中の光はアンコウの灯火。冷気が波になって部屋にとけ込む。寒いね。冷たいね。エビアン持つ手が二重に見えたよ。まるで水中眼鏡、かけてるみたい。
 朦朧とし、気がついたのはドアを叩く音がしたからだ。
「涼子、いるんでしょう?開けてよ!!」
その声は典子の声だ。周りを見渡すと暗くって、時計は7時を過ぎていた。でも何だか時間が変だった。
「今、開けるから。」
あたしはよよろよろと立ち上がりドアを開けた。
 話しによるとあたしはアレから2日間会社を休んだらしい。そう言えば体が熱っぽく、だるかった。
「覚えてないの?」
彼女は呆れた顔をした。昨日会社に来なかった私を気にした上司が、典子に電話をかけて欲しいって頼んだそうだ。その時あたしは携帯に出て、
『風邪引いたみたいで休みます。ご免ね。これからクスリのみますから。』
って答えたって言うけれど。あたしは何にも覚えてやいない。テーブルの上にちらばった食べかけのゼリーもいつ買ったのか、いつ食べたのか。
「意識無かったか~。もう大丈夫なの?」
「うん。」
今のあたしはふらふらするけどかなり普通に近い気がした。
「かなり大丈夫。」
「メールの返事も無いし、携帯もつながらないし、心配したよ~。」
典子がほっとした顔で笑った。反対にあたしの方は
「携帯?電源切れてるかも・・・・」
慌てて携帯開くと、案の定画面は真っ黒だった。
「あっちゃ~」
典子には悪いけど急いで充電差し込んだ。
「やっちゃったね~。」
「やっちゃったよ~。」
そう言いながら、電源を入れた。
「あたしの事良いから、メール確認しなよ。溜まってるぞ~。」
確かにそんな予感がした。
「サンキュー。」
何も考えずメールを開き心臓が止まるかと思った。大失敗だった。そこに連続して並んだMの文字。今のあたしには開く事なんか出来なくて。
「やっぱ後にする。」
言ったとたん、あたしは自分の体が半端ない臭い事に気がついた。
「ねぇ、あたし臭くない?」
「あっ、うん。か~なり臭い。」
典子が顔をしかめた。数えてみたら3日間風呂に入ってないって事になる。
「嫌だな・・・。シャワー浴びたい。」
「ねぇ、熱とか大丈夫な訳?」
そう言われて熱測っていないなって思った。
「今測ってみる。」
それは36.7 度を指していた。
「治ったかも。」
身体はだるいけど、反対にもの凄く頭は冴えている気がした。思わず笑い顔になってしまい、
「インフルエンザだったかもね~季節外れの。」
彼女に言われそんな気がした。そう、これは流行病ってヤツだ。何だかお腹がすいて来て、典子が買って来てくれた限定ものの激ウマプリンを食べた。これで結構食欲はあったから。それに嫌な事は思い出したくない。
「ラッキー。あたし抹茶好きなのよね。2個目もらい。」
なんて。
「良かったね~、病気治って。」
彼女はよしよしとあたしの頭を撫でてくれた。
「あっ、そうそう。たいした事じゃないけどMの事。多分知らないと思って。」
スプーンをくわえながら典子は唐突に話し始めた。
「あいつね、去年の暮れには元カノと別れてるらしいよ。結構もめてたらしくって、同期の青山にだけは愚痴ってたらしい。この前青山と飲んでて聞いたから間違いないと思う。あいつは別れたがってたのに、彼女の方がしつこくってさ。月に1回会えるかどうかって状況で、あいつの方が心代わりしちゃったのが原因らしいけどさ。でさ、思うんだけど、心変わりした相手って涼子じゃない?」
その言葉を聞いたのがもう少し早かったらあたしの運命変わってたかもって思った。
「この二日間、用もないのに経理の周りをうろうろしてて、不審者みたいだったよ。多分アレって涼子の事気にしてて探していたんだと思うんだけど。」
それから典子は他に誰もいないのに声を潜めた。
「気をつけなよ。しつこいようだけど、あいつ、本気だと思うんだよね。ああいう真面目な男って、思い詰めると何するか分かんないから。いい加減涼子もあいつの事、本気で考えてあげた方がいいよ。あたし思うんだけど、ヤバい気がする。」
それが当たってたなんて、言えないし、今のあたしには考えたくもなかった。
 彼女が帰った後、あたしはすぐにシャワーを浴びた。ありったけのボディソープ使って、ずっとシャワー流し続けて。ふと肩の痛みに気がついてみて見ると、鏡に映ったあたしの両肩にはくっきりと紫色の痣が残っていて。そう、それには覚えが有った。勝利はいつもあたしのそこを押さえるから。そのくせいつだって最後の一撃を加えない様にいつだって堪えてた。分かってる。でも今回は違ったらしい。スポンジじゃ落ちないって分かってるけど、あたしは必死で擦り落とそうとした。
 嫌な事が続く。あたしはもう一度布団に包まりながら充電済みの携帯を手に取った。いっそこの携帯が無くなってしまえばいいのに。
「ふうっ。」
ため息がでる。だらだらとそれを弄びながら時間を過ごした。
「買い替えよう。」
そうしよう。やっと決心がついたのは10時を過ぎてからだった。週末、買い替えにいこう。もう1年以上使ってるからいいや。水に落としたって思えばそんなもんだ。データは移して、アドレスとかは代えよう。だから最後。勇気出して中身確認しなきゃって。
 彼は絵文字なんか使わない。いつだってそう。それに短い。
“ゴメン”
って。それは何となく覚えている。あの時彼が最後に口にした、そう聞こえた言葉。
“謝りたい”
血の通っていない液晶に
“許してくれ”
って文字が繰り返す。
“傷つけたくなんか無かったんだ。”
そればっかり。
「嘘つき。」
あたしは誰に聞かせるでも無くそう言っていた。挙げ句に
“死なないでくれ”
だなんて。おっかしいの。
「何であたしが死ななきゃいけないの?」
本当は死にたかった。だからこう書かれ、絶対それを認めてなんかやるもんかって思った。被害者はあたしだ。でも彼のメールが必死すぎて、あたしが傷つけたみたいに思えて、
「なんで?」
そんな在言葉が迸る。
「最低。」
誰がとか、何にだとかは無し。全てが最低だった。
 翌日は曇っていた。疲れが微妙に残っているから外出は止めた。それよりも三日もあると家事が溜まるからやらないわけにはいかないと腰を上げる。ああ、まるで何事も無かったみたいね、そんな事を思いながら。洗濯物アイロンかけながら見ていたテレビから天気予報が流れ出しお天気おねぇさんが
『この3日間の猛暑もいくぶん弱まって、』
なんて言うじゃない。
「しまった。もしかして・・・・。」
この時になってはって気がついた。もしかしてって言うより、もう駄目だって言う確信は有ったけど。慌ててキッチンに走り
「やっぱ傷んでる。」
あれほど大事にしていた糠床は痛んで水っぽくなり、かき混ぜるとグチャグチャと音をたて、鼻につく酸っぱい匂いがキッチンを覆い尽くした。


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Date:2009/02/15
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Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

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