ストーリーズ・イン・シークレット

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28 リング

 
「なんか腹立つからここのランチ奢って。」
典子は箸先で湯葉のおひたしを突ついた。
「馬鹿言わないでよ。いざってなりゃ全部返すんだし。」
彼女はあたし達がただの友達で、時々バイトみたいに
“彼女のフリ”
をしてるって事を知っている。というかそれ以上の関係じゃないって話してた。
「何言ってんの、もったいない。」
確かにもったいないかもしれないけどもらうには値段が高すぎる。
「いざとなりゃ、体で払っちゃう?」
なんてふざけられ
「それって有りかもね。」
彼がゲイだって事はさすがに教えてなかった。典子は指輪とかの載ったパンフレットをしげしげと見ていて
「にしてもさぁ。やっぱ凄いよ。これじゃぁ普通のサラリーマン相手にする気、無くなるよね。」
なんて呟く。それはそれ、これはこれって思いながら頷いた。
「まぁね。」
「ライバルがこれだからMも涼子に踏み込めないんじゃない?」
最近典子はことあるごとに勝利の肩を持つ。嫌になる。でも、今日ばっかりは
「そうかもね。」
って自分を励ましてみた。彼があたしの事を好きだって気持ちに賭けたかったから。
「おっ、いつもと反応違うじゃん。」
彼女は頬杖を解いて目を大きく見開いた。
「なに、心境の変化?」
その大げさな物言いに
「まぁね。」
あたしはそんな自分に驚いていた。
「典子が言うみたいに、少しはMの事、本気で考えようかな~なんてね。」
そう言って、でもやっぱりそれ以上突っ込まれても困るから、
「ちょっと気の有るとこ見せたらさ、意外とMの方が強引にプロポーズして来るかもよ~。楽しみ~。」
の言葉を無視して
「デザートまだかな~」
って何気なく後ろを振り向いた。そのはずだった。
「あっ。」
あたしは思わず声を漏らしていた。どこから聞かれていただろう。動揺を隠すあたしに
「あっ、典子ちゃん。それに涼子ちゃんも。」
偶然を装う悪魔の声が聞こえた。
 さりげなくあたし達の座敷に上がり込んだ女二人組。そのうちの一人はあのクリスマスの夜あたしに燃えたマッチ棒を差し出した女だった。この久美子って女は勝利狙いで、あの夜以来あたしへの恨みがスパークしている、そうとしか思えない嫌がらせに何度も有ってきた。
『あいつって天笠よりタチ悪い。』
愚痴るたびに
『いつかぎゃふんって言わせなきゃ!』
典子に言われたものだ。その女が
「なにそれ、凄い。」
良いとも言われていないのにちゃっかり典子の隣りに座って指輪のカタログを取り上げていた。
「凄っ、高そう。何、また買ってもらうの?羨ましい。私もパトロンが欲しいなぁ。」
最悪。
「別に。欲しいって物じゃないし。」
あたしは早くデザートが来ないかなってイライラしてた。それなのに典子がよりによってこの女をからかい始めた。
「凄いよね、この余裕。好きなの選んでって渡されたんだって。」
あたしは男よけ目的で
『金持ちの男友達がいて不自由なんかしていない。』
って日頃から言ってるから、彼女もそれ手伝ってくれてるのは分かるけどね。
「でもいくらするの、これ。」
囁く二人。
「絶対高いよ。もの凄くごてごてしてるもの。」
勝手に言ってろ。
「何百万するの?」
「え~これ値段書いてないし。」
パンフ裏返しながら騒ぐ彼女達に典子が
「当たり前じゃん。だってそれセミオーダーだもん。」
あたしが以前教えた事を口にして、別に有るプライスリストをひらひらと振ってみせた。
「ほら、石は0.3 カラットからって書いてるでしょう?注文して値段が決まったらそれを払うの。いくらですかって聞いて買うものじゃないから。」
それに向かって二人は
「ふ~ん。」
って言って黙った。でもそれからの切り返しがいかにも久美子って感じだった。
 一応マナーってやつで、稔と会う時には稔からもらったアクセサリーをする。でもって昨日はこの前もらったブルガリの時計。あたしは今もそれをつけていた。仕事中にはNG だって分かってるけど、指輪みたいにネックレスにする訳にも行かないから。なくすの怖さにずっとつけてた。彼女はそれを見つけた。
「涼子ちゃんの彼氏って、ブルガリが好きなの?その時計でも3個目だよね。」
何であんたがそんな事知ってんのよって思った。この女、気味が悪いよ。
「それともブルガリしか知らないの?」
この言葉に隣りの典子が呆れた様に口を開けた。
 丁度そのタイミングであたし達のデザートが運ばれてきて
「はい、こっちね。」
あたしは茶巾に包まれたお菓子を受け取った。それから自分たちの注文をする二人を見ながら典子に目配せをする。
『こいつら、馬鹿だから。』
オーダーを済ませた久美子はもう一度あたしの方に向き直って。つまりは続きを聞かせろって事ね。それを
「ブルガリって、予約してから見にいくって聞いた事有るけどそれ本当?」
典子がかわしてくれた。
「多分ね。あたし達が店の前に立つとすぐ気がついてドア開けてくれるし担当の人は決まってるから、分かってんじゃないかな。」
こんな日は大好きな葛まんじゅうの甘夏の香りも死んでしまう。がつがつ口の放り込んで、さっさと店を出るに限る。こんな女相手にしてたら不愉快ってやつ。それを見ていて逃げようって思ってるのを感づいたらしくって
「そのお友達って年収いくらぐらいなんですか?噂じゃ億だって。」
久美子が喰い付く。
「さぁ、知らない。」
「給料3ヶ月分で500 万の指輪買えるとしたら、3000 万ってとこですかぁ?」
「だからさぁ。」
本当に疲れる女。
「別にあたしお金と結婚する気ないから。もっと大事な事って有るんやないの?」
そう
「あたしにはこれでも良い位だもの。」
って茶巾についていた金色のモールを取りあげ薬指に巻き付けてやった。キラキラきらってね、光り反射して。少し薄暗い居酒屋の中で、それは輝きを放っていた。
「うん、これで良いや。」
その時あたしの中に何かが落ちるものがあった。なに見栄張ってんだろうって。どうせあたしはたいした女じゃない。それなのにふられるの怖さに何びくびくしてたんだろうって。浮気して、大失敗やらかしたけどそれだってあたしだ。あたしはあたしなんだ。それに稔からもらうブルガリより、勝利が買ってくれるんだったら夜店の玩具でも宝物になるってそう思ったら妙ににやけてしまった。あたしは勝利が好きなんだ。そんなあたしを6個の目が不思議そうに見ているから。
「欲しかったらあげる。」
真っ白いパッケージごとカタログ差し出してあたしは立ち上がった。
 勝利が帰国してから3日が経ってた。その間、
『会って話しをしたい』
って何度もメールが来たけど決心がつかなくて今まで延ばしてた。
『ゴメン、忙しいから』
って誤摩化して。もやもやとした感情があたしを覆ってて、訳も無く泣き出してしまいそうな気分だったから。でもここに来てやっと決心がついたあたしは会社に帰る道の途中で
『いつ会える?』
それだけ打ち込んでメールした。凄くすっきりした。あたしだって肝心な事は会って話しをしたかった。すぐに届いた彼からの返信は
『今朝から明後日まで営業の打ち合わせで大阪にいる。金曜だったら絶対にあいてる。』
だから
『金曜日。8時。』
場所を打ち込みメールする。
『絶対に行くから。』
その返事にほっとした。彼が会いたがっているのは今でもあたしの事気になるからだって思っていたかった。
 それなのに。木曜の昼くらいからあたしの体調は崩れてて。
「だるっ。」
仕事中もぼんやりしていて胃がムカムカしていた。今朝のテレビで言ってた
『本日の最悪ちゃん』
が当たったって思った。
「お昼食べないの?」
なんて同僚に言われ
「何だか気持ち悪くって。」
って返した。
「風邪かもよ。お大事に。」
もしかしたら稔から風邪うつされたのかな~なんて思ったりもした。だから終業と当時に帰ってクスリ飲んで早く寝て、次の日は爽快!の予定だった。そのはずが。
「頭痛っ。」
思いのほか治りは悪かった。でも今日はどうしても会社に行きたかったから、しかたない。体引きずって行ったさ。ここまで来て決心が鈍るのが嫌だった。明日に伸ばしたら一生言えなくなる気がした。あの時稔は2~3日で良くなったって言ってたから大丈夫ってたかくくってた。
 全部が悪い方向で回って行く時って有るよね。その日のあたしが正にそれ。更衣室出てもふらふらするからトイレで少し休もうかって思った。ほら、そう言う事って無い?特に何ってんじゃないけど狭いとこで座ってると落ち着く、見たいな。そこで腰掛けて休んじゃったのが運のつき。
「あの話し、聞いた?」
薄いドア越しに聞こえて来たのはゴシップ天笠の声だった。
「経理の中川さん、知ってる?」
最初あたしの事を言ってるなんて思いもしなかった。
「ええ、知ってますよ。あの方、スタイル良いですよね。」
それは確か営業の子。綺麗なしゃべり方するから覚えてた。少し頭が遅れて反応し、サンキューなんて思ったその時だ。
「彼女、妊娠しているらしいよ。」
耳疑った。頭の中ががんがん鳴って、聞いている事が嘘みたいに思えた。
 天笠の話しによるとこういう事みたいだ。
『経理の中川涼子は妊娠したらしい。相手は誰か分からないけど、それを理由に今まで噂の有った金持ち男(ここではポルシェの男って呼んでいた)改め“M”に結婚の約束させるのに大成功。』
元ネタがなんなのかよく分んないけど、あたしは血の気が引いて体中が冷たくなるのが分かった。


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Date:2009/02/18
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Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

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