ストーリーズ・イン・シークレット

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22 真昼のバンパイア

 着せ替えプランは3時からでまだまだ時間はあった。それにお昼にだって早すぎるから
「ねぇ、散歩しない?」
荷物を預け身軽になった彼の腕に指を絡ませ
「ここ、チャペルが有るみたい。見たいなぁ。」
おねだりポーズを決めてみる。無邪気にね。でも本当は少しだけ彼の反応が怖かった。なんだか結婚してくれって催促している様に聞こえそうで、その事で引かれたらやだなって。だから高い天井を見上げ気持ちをほぐし
「恋人ごっこ、ね?」
それから我ながら完璧な作り笑いを彼に見せていた。
「行こう?」
彼の目が
『分かったよ。』
って細く垂れたから、あたしはやっと自分の顔で笑えた。
「早く、ねぇ。」
って。
 それはばっちりのタイミングだった。今日は結婚式が有るんだろうなぁって思ってたけど、ビンゴ。石畳の階段が丘の上まで続いて、その両脇に並ぶブーケスタンドが全部ピンクのリボンでつながっていた。周りには二人を祝福するドレスの人達が列を作っていて、見学に来たあたし達みたいなカップルも沢山いた。
「あっ、見て!」
もう、めちゃキレイに着飾った花嫁さんがホテルの方から歩いて来る。ドレスは真っ白で長いドレープは5歳くらいかな?小さなピンクのドレス着た女の子達が持っていた。その手には大きなブーケ。白い薔薇にオレンジの薔薇。間に揺れる真珠の粒。
「あれ、プリザーブドフラワーだよ。」
最近よくショップの店先で見かける様になったそれはあたしの憧れだった。だってプリザーブドフラワーの飾りって、小さくても1個3000円とかしちゃうんだよ?
「知ってる?あのブーケすんごい高いんだから。」
それをさ、沢山。贅沢。いくらするんだろう。
「でもやっぱ綺麗。うらやましぃなぁ。」
こう見えてもあたしだって昔は女の子で、いつかは
“綺麗な花嫁さん”
ってのに憧れてた時期もある。そうだなぁ、あたしだったらどんなブーケにしよう。やっぱ丸いラウンド型が良いな。薔薇はピンク色でリボンは細くて長くってくるくるに巻かれてて
“似合わない”
って言われそうだけど、一生に一度だしね。そんな事考えながら見ていた。さりげなく立ち振る舞う花婿さんの胸にはお揃いの薔薇の花。これがまた花嫁さんに良くお似合いの背の高いイケメンで。そんな彼が凄く彼女の事大切にしていますって手つきで花嫁の腰に手を回しエスコートする。
「うらやましー。」
本気でそう思った。
「ねぇ、勝利もあたしにああいう事してくれる?」
それは思わず出た言葉だった。しまったって思ったさ。でもね、一度出ちゃった言葉は戻せない。あたしは
“えっ?”
ってな顔つきの勝利の腕を取り、
「ごっこ。」
そううつむいた。彼の動揺が嫌い。
「いやだぁ、何本気にしてんの。」
演技しないとって気張って顔を上げ
「忘れたの?恋人ごっこ。」
でもそれ以上彼の目は見れなくて、その腕に頬すりよせて誤摩化した。彼は何も言わず黙ったままで。
「こういうときはさぁ。」
声が震えそうになりながら
「『あれよりもっと大切にしてやるよ。』とか言うもんでしょう?」
教えてあげるけど、
「ああっ。」
ってそれっきり。彼の返事は無かった。
 その結婚式は
“偽物”
だった。チャペルが出来たばっかりで、
“模擬挙式”
ってヤツでプロモーションをしていたんだって。どうりで周りにあたし達みたいなカップルが沢山いた訳だ。
「こちらへどうぞ。」
スタッフの人に促されあたし達はチャペルの中へ入っていった。
「ご宿泊の方でご見学頂いた方には、特別にメインレストランでのランチクーポンを差し上げております。」
なんてチケットをもらって
「後で行こうね。」
ちょっと得した気分。
 偽物のカップルのはずなのに二人は限りなく本物っぽくって。誓いのキスも本当にキスしてた。あれって良いのって思う位、あつあつだった。きっとこの二人、リアルでもつき合ってるよねって感じ。二人で目を閉じて抱き合い、溶け合うシルエット、そっと離れる唇。ステンドグラスが煌めいていて夢見ているみたいに綺麗だった。
 それからブーケトス。外に出た階段の一番下の所で
「お客様。」
ホテルのスタッフが声をかける。
「皆様もご参加ください。」
そう言われ、沢山の女の子達が
「きゃぁきゃぁっ。」
ってざわめき出す。意外な事に
「行っておいでよ。」
勝利が背中を押してくれ
「うん。」
あたしはコロンをたっぷりつけた気合いデートの女の子達の後ろの方にまぎれた。それから
「きゃぁっ!」
なんて両手を広げ、例え来ないって分かっていても精一杯腕を伸ばした。見上げた空が眩しかった。
 式が終わってホテルまで戻る途中はとっても静か。もう一度鳴り出した鐘は遥か遠くで聞こえていて、さっきの結婚式が終わってしまった映画みたいに遠ざかっていく。だから自然にあたしはゆっくり歩いていた。そしてその回廊の片隅で
「ねぇ。」
誰もいない所を見計らって立ち止まった。体の中にさっき見たキスの残像が残っているから。
「キス、したいなぁ。」
って。ロマンティクなさ、愛を確かめてますって感じのキス。すると手をつないでいた勝利が振り向いて、少し躊躇ってから目を閉じかけていたあたしに触れるだけのキスをした。
「もっと。」
好きだって言ってくれてる、そんなキスが欲しかった。
「キス、して。」
彼にしがみつきながらその唇をそっと開いた。息飲む音が聞こえ、あたしは抱きしめられ
「勝利。」
その声が彼の喉の奥へと吸い込まれる。大きく開いた唇にあたしの唇はすっぽり覆われて。彼に囚われ堕ちてくみたいだった。唇の内側と内側が擦れ合う甘いキス。時々ぶつかってカチカチって鳴る歯と、あたしの耳の奥で緩やかに鳴る彼の舌の音。
「んっ・・・・。」
この時のあたしには何も見えない、感じない。勝利。それだけが存在の中心で。
「涼子が欲しい。」
そう囁かれ、危うく頷く所だった。
『あたしも。』
って。
 躯を満たす体臭も、押し付けられてる硬さも。腰に回った手に力を入れたくて、でも堪えている腕の強さも。分かってる。彼の欲望があたしを焦がす。それでも
「後で。」
あたしは荒い息の彼の胸に手を当て、軽く押し退けた。
「今日は特別。」
お日様の下じゃなきゃ出来ない事がしたかった。今日のあたし達は怖い物知らずのバンパイヤだ。
「夜まで待っててね。」
すると、瞳を落とし
「分かったよ。」
って落ち着こうとする勝利の唇は、しばらくあたしの首筋のラインを彷徨っていた。

 ランチもご機嫌だった。クーポンもらったからこのレストランに来ちゃったって感じだと思ったけど、エントランスで
「余田様ですね。」
って言われ、予約いれててくれたって事に気がついた。
「ありがとね。」
今日のあたしはかなり素直。
 ウエディング仕様だって言う織りの入ったナプキンに大きなカトラリー。彼は食前酒にシャンペンをオレンジジュースで割ったミモザを注文してくれ
「デートだね。」
小さく響く様にグラスあわせて、まるで二人だけのお祝いみたい。サーブされたのはキレイに盛りつけられた会席風フレンチの前菜に食べやすいメインデッシュ。外すと渋いだけでどちらかって言うと苦手な赤ワインも、勝利が
「若くて軽いとこを。」
って選んでくれ。
「飲みやすい。」
あれ、あたしの好み知ってるのって感じ。ほろ酔いの所に届いたデザートは5種類の盛り合わせ。うきうきしながら一口食べた。
「美味しい。」
手抜き無しの本物だ。
「食べさせてあげようか。」
クリームブレリュをスプーンに乗せ彼の前に突き出した。彼は少し戸惑って、
『嫌だ。』
って言おうとしたんだと思う。でもね、あたし達の隣りでさっきまで食べていたカップルはもっと凄かったんだから。彼もそれを思い出したみたいで、ほんの少し周りに目を配った。
「大丈夫だって。」
あたしは身を乗り出しスプーンを彼に差し出した。
「食べてよ。」
って。彼は少し躊躇った後、パクって口にくわえた。その顔は何だか子供みたいで。
「ねぇ、美味しいでしょう?」
上唇でスプーンを舐める勝利をじっと見つめた。もう一度差し出すと、今度は素直にくわえる。何だか赤ちゃんにご飯をあげてる気分だ。
「美味いね。」
その舌の先がゆっくりと輪郭をなでる様子を
「でっしょう~」
って笑いながら、この時間がいつまでも続いたら良いなって思って見ていた。なにしろ彼は美味しそうに食べる。もぐもぐってしっかり噛んで飲み込んだ後、その視線がスプーンの先にいっていて、いかにも
『もっと食べたい。』
そんな感じでおねだりしてる。そして
「涼子は?」
彼が言い、あたしは自分のお皿が空になるまで彼にあげていた事に気がついた。
「忘れてた・・・。」
何だか彼に食べさせるのに夢中だったから。
「じゃぁ。」
勝利が自分のフォークを持ち上げた。
「はい。」
目の前には大好きなチーズケーキ。だけど初めて気がついた。この歳で食べさせてもらうのって思いのほか恥ずかしい。にやって笑う彼にやられたな~って思いながら
「んもう。」
って笑い、恥ずかしけど口開けた。差し込まれるフォーク舐めながら、やだあたし、いやらしい顔していないよなって気になって、上目使いに彼を見上げる。彼は今日の日差しみたいに笑ってて。あ~こんな本当にデートって感じのデートは産まれてから初めてかもって思った。あたし、今までセックスだけじゃなく他の事も乾いてたかもって。彼に餌ずけされ、何だかとっても幸せだった。
 まったりランチを食べて紅茶で酔いを冷まし、気がついたのは2時半過ぎ。
「そろそろ行かないと。」
伝票つかんで立ち上がる彼に
「また来たい?」
そう聞かれ、
「もちろん。」
って答える。言ってもらえた事が嬉しかった。
 会計はワイン代だけだから大丈夫だよなって踏んで、支払いを彼に任せた。だから取り出されたカードとサインする背中に
「御馳走様、稔。」
ってお礼をする。それから
「凄く美味しかったよ。また、連れてきてよね。」
レシートしまってる彼の腕に腕絡ませ、
「“はい、いいですよ”は?」
生意気な事を言ってみせる。こんなんだから女王様って言われるって分かってるけどね。でも今日は本当に甘えたい気分だった。だからこんな我がままなあたしを
“受け止めて欲しい”
って思った。
「ああ、また来ような。」
少し遅い返事の温度差が少し悲しいけど
「絶対だよ。」
今の幸せな気持ちが逃げない様に、精一杯自分に言い聞かせていた。この次はクリスマスの頃に来てみたいな、なんてね。
 時間が時間だった。だからあたし達は部屋に入るのは後にして衣装ルームのあるフロアへと向かうことにした。彼の手はしっかりあたしの手を握っていて、人気の無い階段の踊り場でしたキスはチョコレートの味がした。



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Date:2009/02/26
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Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

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