ストーリーズ・イン・シークレット

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18  緑のランプ

『一応教えとく。あの時の噂、回ってるから』
そのメールが来たのは夜の9時過ぎ。相手は典子だ。昼の天笠の事を言っているらしい。
「どうでも良いよ、そんなの。」
今始まった事じゃないし。
 あたしは自分が美人だなんて思っちゃいない。むしろこの顔は嫌い。でもそう言う目、つまり
「少しばかり目立つからって生意気なのよ。」
って見られてる事に慣れてるし、女のひがみがねちっこい事も知っている。それに丁度勝利に約束した
“ゴシップ”
ぴったりじゃない?だから
『教えてくれてありがとね~』
ってメール打って、でもそれ以上はいいやって感じ。典子には感謝。でもどこかブルー。女って、嫌い。嫉妬って見苦しい。そう言えばあたしと勝利が初めて寝たときもこんなタイミングだったなぁなんて思い出してみた。
 それは去年の同期同士の飲み会での事だった。7月に入り忙しいながらも時間がとれて
“暑気払い”
ってみんなで繰り出した。もちろん典子もいれば勝利もいて。ついでに嫌なヤツもいた。その女はその前からことあるごとにあたしに絡んで来た不細工な女。いや、顔がってんじゃないよ、性格がね。この日も散々酔っぱらって、最後なんか
『涼子ちゃんって、睫毛長いよね。マッチ棒何本乗るの?』
なんて言い出して。みんながあおるからしかたなく乗っけてやったさ。
「まだ乗る?すげっ!」
典子が乗せたあと、マッチが無くなり。みんなそれで終わりだと思ったその時、
「まだまだいけるよね~」
って、彼女が差し出したのはさっきまで火のついていた燃えさし。
「はぁ?」
いくら何でもあんた、それを乗せろって言うの?あたしは驚いたけど、もっと驚いたのはほとんどみんながそれをあたしに期待していたって事。何それ。あたしはどうなってもいいって?どうせ消えたマッチだから我慢しろって?彼女が身を乗り出しあたしはその手を払おうと身をよじった。ぱらぱらと落ちるマッチ棒。その時、あたしよりも早く彼女を止めたヤツがいた。
「ひどくない?」
って。
 勝利は日頃あまり話さない。それでもその時の彼はよくしゃべった覚えが有る。
「さっきからずっと思ってたけど、お前さぁ、こいつの事嫌いなの?度が過ぎてるように見えるんだけど。もしそうじゃ無くても、俺は見ていてイヤだ。こんな事、お前がされたらどんな気分だよ。」
って。一瞬周りの空気が止まった。さすがのあたしもどう返していいか分かんなくって言葉に詰まり、典子がそこを助けてくれた。
「まぁまぁ。」
って。
「別に悪気無かったんだよ、ね?」
渋々頷く彼女に典子が火のついたタバコの乗っている灰皿を差し出し
「はい、今度はあんたの番。」
もっと雰囲気悪くなったけどね。でも結局その女は
『悪酔いしちゃったみたい。ご免ね~。』
って立ち上がり上手い事逃げた。そんな夜だからてんでバラバラにみんなが散って。気がついたらあたし達は二人きりで下北沢を抜け、何にもしゃべんないまま渋谷の街を目指して歩いた。
 小さくくねる小道。緩やかに降りて行く坂道に、暗がり、引き込む様なネオン、誘蛾灯。目のやり場に困る彼。
「終電、まだ間に合うから。」
って呟く声に
「あたし、余田(よだ)とだったらとそんな関係になっても良いよぉ。」
なんて、そっと囁いて背広の袖をつかんでみせた。この夜に限って彼の事をもの凄く男っぽいなぁって思ったから。それまでの印象は、仕事は熱心だけど融通が利かなくて、シャレのわかんないつまんない男って感じだった。だからなんで他の女がこんな男にきゃぁきゃぁ言ってんのか分からなかった。でも、これかぁって。不器用だけど、善いヤツだなって。一緒にいたら絶対守ってくれるって、ほんの少し心が揺らいだ。こんな男とシタら、もしかしたら幸せになれるかもしれないな~なんてね。
 彼は一瞬立ち止まったかと思うと、あたしから顔を背ける様に足を速め、指先は彼から離れてしまった。
 どうせ期待はちっちゃかった。あたしにはろくな噂が無い。そして彼は彼女持ちの堅物。だから駄目もと。ため息まじりに早足の彼のあとについて行く。
“空き”
の緑のランプの数が減っていき、代わりに満室の
“赤”
が目立ち始める。もういいやって思いかけたその時、目の端で赤が緑に変わって
「俺で良いのかよ。」
いきなり彼が立ち止まりうつむいたままそう言った。嘘だって思った。だから思わずその腕を引いた。
「勝利が良いの。」
もちろん彼を名前で呼ぶなんて初めてで。その事に彼が少し驚いた事も伝わった。
 自分で言った
“そう言う関係”

“どういう関係”
なのか分からない。でも、その時のあたしは彼との
“関係”
がとても重要なものに思えたから。

 こういう所のシステムを知っていて、タッチパネルで部屋を選ぶ彼の姿に少しほっとした。彼が
“キレイすぎたら”
やりきれなくて。エレベーターの中にある防犯カメラに目を向け意識する仕草も、部屋の前に点滅しているライトにすぐに気がついた事もあたしの罪悪感を和らげてくれた。何だか勝利が普通の男で良かったって、そう思った。
 部屋に入ってすぐ後ろから抱きしめられ、髪にキスをもらい。がっついちゃいないけど十分そそられてますってその態度が嬉しかった。回された腕に指を這わせながらもの凄くうっとりした気分だった。近くで嗅ぐ彼の匂いはとっても良い香り。唇が降りて来て首筋にキスの音を聴きながら、何だかとっても良い選択をした気がした。
 実のとこ、あたしはセカンドバージン2年目突入で、やり方を半分忘れてて。でも今までの経験で
“おとなしくしていれば”
何とかなるって知っていた。しょっぱながら
『またがれ』
とか
『くわえろ』
なんて男にはさすがに当たった事無いし、もしそれだったら別にいい加減で済ませていいやって。勝利だってやってみないと正体は分からないって、どこかで思っていたんだと思う。だから初めての今晩はマグロでいこうって決めて。って言っても、たいしたテクニックの持ち合わせはないけれど。というか、それ以前にあたしには問題が有ったから。
「先、シャワー浴びさせて。」
とにかくボディシャンプーをたっぷり泡立てた。きめ細かく、クリーミーに。それを躯になすり付け、ぬるぬるした滑り感で
“気持ち良い気分”
を自分の中から引き出した。
 誰にも内緒だけど、濡れづらかったから。最後にした頃には諦めかけた位、あたしは潤いが足りなかった。きっと体質だって思ってた。でも今晩、あたしから誘っておいてそれは無いよねって。少し頑張って気持ちを集中させ、自分の中にあるはずのえろさをかき立てた。
「お先に。」
安物のガウンを身に着け部屋に戻ると、彼はFMを聴きながら、ぼんやりしているようだった。ハンガーにはきちんとかけられたジャケット。もしかして
「眠いの?」
少し不安。勝利はどこか健康優良児っぽい所が有った。
「まさか。」
彼は大きく首を振り立ち上がった。それから
「水。」
そう言ってあたしエビアンのキャップを外し渡してくれた。
「この部屋、乾燥しているから。」
と。
「ありがとう。」
受け取りながら分かっちゃった。ああこれってって。いつも彼女にしているんだなぁって。あたしはこう見えて今まで他の人のものを取った事無い。そりゃ、二股かけられた事は有るよ。けどね、一応ポリシーってヤツ?だから今回は本当にイレギュラー。男運が無いんだか、男見る目が無いんだか、それともあたしに欠陥が有るのか分かんないけど、彼氏がいる事の幸せに堕ち込んだ事の無いあたしは寂しくて、彼の優しさに触れ、勝利の彼女が受け取ってる幸せをほんの少し分けてもらいたくなってしまった。つまり、弱虫ってこと。 
 この先、彼の
“彼女”
に罪悪感持っちゃうって分かってる。それでもあたしは自分の中にGO サインを出した。ほんの少し、幸せになりたかった。


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Date:2009/03/02
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Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

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