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ストーリーズ・イン・シークレット

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16  恋人ごっこ

 この日の彼は少し体調が悪いらしく、小さな咳を何度か繰り返していた。
「喘息っぽくない?」
彼は疲れると昔の病気が出て来たりする。それに数ヶ月前から変な咳が続いている気がした。
「大丈夫だよ、ありがとね~。」
その声はいつもと変わらない。
「ここ2~3日体怠かったから、多分風邪引いてたんだと思う。でも今日はかなり調子いいし。平気~。」
「そう、ならいいけど。」
あたしはあまり気にしない事にした。それよりもこれから予定していた会食の事に気をとられ、彼の体調の事はすっぱりと忘れ去っていた。
 場所は六本木ヒルズの日本料理屋。馴染みのお店。予約されていた個室と、目の前には彼の叔母さま。あたしは心の中でため息付きながらにっこりと笑う。この人、相当面倒だから。
「ねぇ、あなた達。そろそろ身を固めても良いんじゃない?」
本当はそう思っていない、太ったシャネルスーツ。この伯母さんが着るとチャネルって感じでおかしい。
「今はお互いやりたい事が有るから、な、涼子?」
彼ははぐらかす。いつもの手だ。
「やりたい事って、いつもそればっかりで。いい加減にしなさいよ。」
目の前のグラスにはべっとり口紅が付いているのにちっとも剥げていない厚塗りの口元を見てると、まだ突き出しだって言うのにすでにげんなりしちゃう。でも、仕方が無いって言い聞かせた。あたしは自分から彼の為の
“偽の恋人”
かってでていたし。
 稔のポルシェはあたしの会社でも有名で、おかげでうざい男の誘いを断るのに相変わらず一役買っていた。
『友達クラスで、このクラス』
なんてね。それに、普段は出来ない贅沢もさせてもらえるし、金持ち青年は金に糸目を付けないから、あたしが楽しめば稔も素直に楽しくて、こっちも気を使わない、その関係は楽だった。
「でもね、伯母さん、リーマンショックで市場が落ちている今が買いなんです。」
彼はいわゆる
“青年実業家”
ってやつね。個人投資家で色々な所に投資をしているらしい。金を稼ぐのがめちゃ上手い。だからこのおばさんも引っ付いているんだ。
「アメリカもヨーロッパも軒並み落ちている。回復のメドも立たない。ドバイはみんなが投資していて利ざやが少ない。ご存知でしょう?それならアジアの安定した都市で、それでも一時的に連鎖で市場が落ちてしまった都市が買いなんです。そこは短期で市場が回復しますからね。さぁ、伯母さん。それはどこだと思います。」
「シンガポール?」
「それは月並みです。そこにはヨーロッパ資本がすでに投入されている。」
身を乗り出す稔に彼女もつられる。
「他の人には教えないでくださいよ。」
潜められた声。
「ダッカです。」
こんな時の彼の口調はプロのそれだ。さっきまでしていた咳すら一回も出てきやしない。だから大丈夫って思った。
「経済成長率がいい。それに、伸びシロもある。一番良いのはですね、投資する為の窓口が少ないって所です。」
彼は何となく要(かなめ)なんとかって俳優さんに似ている。整った顔立ちと、細い顎。ひょろっと高い身長に、少しいかり肩。その彼がもっともらしく話し始める。こういう人の常で
“話し方講座”
なんか受けているから、その魅力的な事ときたら。まさにおばさまキラーだ。いや、投資家キラー?あたしは騙されないけど、こいつは役者だ。そんな二人を見ながら、あたしはせっせと箸を動かした。なにげに稔も食べている。そしてタイムアウト。
「そろそろ時間ですかね。」
都合良く彼が咳き込み
「少し風邪気味で。」
なんて伝票を持って立ち上がる。伯母さんは
“結婚”
の話しをしたかったはずなのに、今回も彼に煙にまかれて、少しかわしそうだけど、嘘。ざまぁみろ、だ。この人が自分の娘と稔を結婚させたいって考えてる事ぐらい、まるっとお見通し。
「それでは、また。」
あたしも立ち上がり、品良く頭を下げた。
「今度実家に帰る折には、乃木様御本家にご挨拶に伺いますね。」
なんて、舌噛みそうな事を言ってみせ。さっき受け取ったばかりの指輪とお揃いの時計で時間を確かめた。
「そろそろ野む商の田中様とのお話し合いじゃなかったかしら?」
なんて、ここでも嘘。
「ありがとう、涼子。」
彼の作り笑い。嘘ばっか。

 あたし達は彼の車で都心を抜けた。彼はオープンカーにして走らせるのが好きだけど、あたしは嫌い。
「日焼けするから。屋根にある車にしてよ。」
こんな事を言うから
“生意気だ”
って言われるんだろうけどね、かまわない。あたしはあたしだ。
「それにあんた、風邪引いてんでしょう?大事にしなさいよ。」
「はいはい。」
彼は軽く受け流してくれる。
 流れて行く風景を見ながら、どこか静かな所にいきたいなって思った。
 午前中にセットした縦ロールの髪が揺れる。ふわふわ。今晩洗っちゃえば元の髪に戻る。何だかもったいない。稔が用意したワンピースはエトロ。あたしの趣味じゃな無いけど、さすがこいつはセンス良いやって関心するぐらい、似合っていると思う。部屋のクローゼットにはこうやって
“偽恋人”
演じるたびに彼がそろえてくれる服やらバックがいっぱい。どれもみんなきれい。あたしはみんなが言って来るほど自分がキレイだっては思えなくって、どこが
“男好きする”
のか分かんない。だから結局自信の無い自分がいる。でもね。おしゃれしてると自信ってヤツは出て来るから。だから今度、痴漢よけの服着た会社帰りの疲れている姿じゃない、ピカピカなあたしを勝利に見て欲しいなって思う時が有る。彼の為に装いました、みたいなね。してから12時間経過してて、必死こいて直したメイクじゃなくて。それからいつもの
“ケバく見えない、地味目な”
タイプとはちょっと違う、ピンクにシルバーで
“若くない?”
って突っ込まれそうなくらい、無理しちゃったメイクもしてみたい。香水もアリュールなんかで清楚な感じに。あっ、でもいっその事、サブリナパンツにドライビングシューズってのも有りかも。そうしたらこんな巻き髪より、ポニーテール?トミーヒルフィガーのポロシャツ着て、アイブローも濃い目にしちゃったりしてさ。いや、さすがに似合わないなぁ、それは。
「涼子。」
そんな空想を稔が破った。
「今、彼氏の事考えてたでしょう。」
「別にぃ。」
図星で顔が赤くなる。
「どうせ彼氏ってほどの間じゃない事ぐらい、知ってるでしょう?」
ヤリ友だってば。
「嘘つけ~」
彼が喉の奥で笑った。こいつの癖だ。
「傍から見ていて、かなり来てたよ、二人とも。」
「何がよ。そんないちゃこいたりしてないし。」
「だからそこがさぁ、分かんないかなぁ。」
稔は言葉を切った。
「どこがどうだって言うのよ。」
あたしは思わずむっとした。
「言っても良い?」
「言ってよ。」
「悲壮だよ、二人とも。」
意味分かんない。
「別れ際がさ、二人とも暗いの。希望が無くてうつむいてて。楽しい夜過ごしたって感じじゃないから。」
「そんな事無いし。あいつ、おとなしそうな顔しててやるときはやるよ。」
あたしは夜の勝利を思い出し、にやって笑った。あいつは十分楽しんだはずだから。
「涼子さぁ、あいつと別れた後、後ろ振り向いた事、有る?」
「無い。」
だからそんな未練がましい事、しちゃ駄目だってば。ちらって運転席の彼を見ると、さも嫌そうに肩をすくめた。
「あのさ、間違ってもあいつに俺の事“本命”とか言うなよな~。俺、まだ死にたくないし。」
「ばっかじゃないの。」
さすがにこれには笑えた。勝利に限ってそれは無い。そんな事よりも
「稔の方こそどうなのよ。」
こいつの恋愛の方がかなりハードだ。
「そろそろ帰ってくるんでしょう?」
それは彼の恋人の話し。1ヶ月の出張で来週頭にニューヨークから帰ってくる美青年。あたし達より2歳年上のかなりイケ面。名前はジョージ。ついさっき会ったおばちゃんの長男だ。
  



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Date:2009/03/04
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Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

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