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ストーリーズ・イン・シークレット

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6 ヤドリギ

「あっ、俺、マジでヤバいかも」
冗談半分、でも残りの半分は本気。夜十時、俺にしてみればもう深夜という時間に、最近ハマっている芋焼酎を片手にソファに寝そべりながら、一人携帯に向かって笑った。
「こんなに気になる子、今までいなかったし」
すると電話の向こうからも笑い声が聞こえ
「会ってみたいね~、あんたの事そんな風にするその子に」
多分同じく酒を飲んでいるだろう友人の声。
「滅茶苦茶、そのぅ」
言っても良いかなって躊躇って、ぐいっともう一口飲んで言う。
「可愛いよ」
でも言葉にしてから待てよってブレーキがかかる。マリリン、これは今電話している友人の名前だけど、マリリンが彼女に会ったとき、俺と同じ感覚で
“可愛い”
って思ってくれるかちょっと不安になる。
「まぁ、一般的なギャルって意味じゃないし、どっかのモデル崩れみたいな可愛いでもないけどね、でも、可愛いよ。そう、よく女の子が使うじゃん? 『なんとかちゃんね、見た感じは普通かもしれないけど、中身が可愛いんだよ、中身が』みたいな。そんな感じの可愛い? あっ、でも普通に可愛いし、ああ、褒め言葉、褒め言葉」
俺、絶対馬鹿なこと言っているって分かっていて、酔いが回った頭が勝手にしゃべっている。
「会ってみれば分かるって」
マリリンの本名は真里子。専門学校時代からの友人で、都内の有名なホテルに勤めて将来を有望視されているパティシエだ。彼女だって普通に可愛い、というか美人の部類に入るだろう。でも変わっているのは、マリリンというあだ名とは正反対に、限りなく女の匂いのしない女だってこと。それはまるで宝塚のトップスターの様に華やかで中世的。その彼女相手に俺はなんだか訳の分からない話をしていた。
「まぁ、まだ気になっているってだけだよ? そんな、好きかどうかって所まではまだ煮詰まってないし。ただマリリンにはいつもお世話になっているから、今回はちっとはまともな話題を提供しようかなぁと、そんなとこ」
 荒川ちゃんが働き始め、一ヶ月ちょっと過ぎていた。
「田舎から出てきたコマネズミみたいによく働くよ」
あっちにちょこちょこ、こっちにちょこちょこ。よく気がつくし、じっとしていない。しかも150センチちょっとしかない身長の所為で、製パンルームの上の棚にはつま先立ちにならないと手が届かない。時々人には見られてないと思い、じたばたやって、でも結局上手くいかずに諦めて脚立を使っている。本来だったら俺がとってあげれば済む事なのに、その様子がおかしくて、俺は笑いを堪えながら黙って見ていた。
 しかも思っていた以上に、彼女はパンを作る工程を熟知していた。他のスタッフは口々に
「彼女、使える」
と褒めそやし、何でだか俺は誇らしい気分になって、お母さんの手伝いをしたことが有るの話を話半分で聞いていた、なんて事はおくびにも出さず、
「そりゃ、兄さんのお墨付きで来た子だから当然だろ?」
みたいな事を澄ました顔で言ってみる。こういうの、物凄くできるのに謙遜しているのって、彼女らしいと思った。そして、最初は雑用をしてもらおうとしか考えていなかったけれど、製パンルームでの仕事をしっかり覚えてみないか、と、みんなの前で誘ってみる事にした。すると荒川ちゃんは最初
「大丈夫でしょうか?」
不安そうに周りを見渡した。でも
「大丈夫だって」
親指を立てる川越さんと、中西さんの
「才能有りそうだよ」
の声に励まされ、
「じゃぁ、やらせて頂きます。はい。やりたいです」
なんて小さなガッツポーズを見せ、素直な歓びを現した。
「私、本当はパンを作りたかったんです。でも、プロの人達の中に混じってそう簡単にやらせてもらえ無いだろうなって、諦めていたんですよ」
いつもの彼女とは違う、他の人がいなかったら抱きついてくるんじゃないかって位はしゃいだ姿。よっぽどやりたくて、でも言い出せずにいたんだろうなって思った。
「水臭い事言わないで、最初から言ってくれてたら良かったのに」
まるで彼女が悪い、みたいな言い方をしてしまったのは、荒川ちゃんを侮(あなど)っていた自分が恥ずかしいから。
「それから、もし荒川ちゃんがお店で出したいって思うパンが有ったら作ってみてよ」
この店の他のスタッフのうち、川越さんと中西さんは製パン工場のラインをリタイアしたパン職人で、残り二人、加藤君と佐藤君は専門学校を出て二年目のルーキーだ。作るパンのメニューは俺が決めるのが原則だけど、みんなパンが好きでこの仕事をしている。だから月に二回、それぞれがオリジナルのパンを焼いては食べあって、これはイケる、みたいな物が有れば、基本のパンを焼くスケージールに組み込んで店頭に並べる事にしていた。
「すぐにオリジナルは無理でも、お母さんの味を再現したいって考えているんだったら、その路線で練習してみたら? きっと楽しいし、手伝うよ」
彼女のお母さんの味だったら、ほっこりと甘いパンになって、食べる人に幸せを与えてくれるんだろうなって思った。でも
「いや、ちょっとそれは……」
と口ごもり、彼女は表情を曇らせたかの様に見えた。
「?」
俺は何か失言をしてしまったのだろうか? しかし
「そんな、簡単にはいきませんよ。だって、私のママの焼いたパンは世界で一番美味しいんですから」
まるで少女の様な笑顔を浮かべ胸を張る彼女に、それは思い過ごしだと思った。
 そしてクリスマスを二週間後に控えた今日、以前から約束の有ったウェブ・コラムのライターが取材に来た。彼女は店に入ってすぐ入り口近くにかかっているクリスマスリースを見て
「ヤドリギのリースだ、ヤドリギのリースだ」
を連呼した。
「これってヤドリギのリースですよね?」
まぁ、そうだと答えると、それの真下で俺の斜め四十五度の写真をとりたいと言い出した。
「だって、ヤドリギの下でキスすると幸せなカップルになるって言われているんですよ。クリスマスにヤドリギの下、超イケメンの志努さんが、思わせぶりにこっちを見ている。
カモン・ベビィー、って、もう、この組み合わせ、最高! 今回のテーマは
“今買うべきイケメンのいるベーカリー”
ですから、もう、カンペキ! 絶対に受けます。やりましょう!」
買うのはイケメンなのかパンなのかよく分らないタイトルだけど、広告のためならしょうがないと思い、俺はそのうち
“ついでに私とキスもしましょう!”
とまで言い出しそうな勢いのライターさんに思わせぶりな笑顔を送った。そしてそんな俺を、みんなが笑いを堪え見ていた。
 大体物書きの女ってのはけたたましいって相場は決まっている。分かっていて受けた取材だから、俺は素直にそれにしたがい、自称
“キラキラキラースマイル”
をカメラに向けた。すると
「違う、違う、そうじゃない」
彼女曰く、今欲しい絵は、誘ったら堕としてくれそうな男の顔だと言う事で、ちょっと瞼を落し、唇を柔らかく開けと言われた。訳分かんなくて、適当にポーズ、
「オッケー、それが良いんです」
と言われ、自分絶対、モデルとかアイドルにはなれなかったなって思う。てか、パンの取材に来たんだから、そっちの写真を撮れ。
 もちろん、これだけだと自意識過剰な馬鹿男曝しただけって感じだから、スタッフ全員での写真も必ず載せる様にお願いもし。
「今日も疲れたね」
四時の閉店を迎えた。
 最後に残ったスタッフは俺と荒川ちゃんだけ。二人でトングや皿を片付け、シャッターを下ろし、鍵をかける。
「はい、でもおもしろかったです、色々と」
俺達は丁度ヤドリギの下にいて。だから俺は、ふざけて聞こえる様にこう言ってみた。
「ねぇ、荒川ちゃん、ここで俺とキスしてみない?」

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Date:2010/12/07
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Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

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