ストーリーズ・イン・シークレット

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3 プレリュード

 キスなんか簡単だ。
「君みたいに綺麗な人に会うのは初めてだ」
言葉になんか、意味は無い。
「君の事を独り占めできる男って、幸せだね」
名前だって、そう。
「佐織は兄さんのどんな所が好きなの?」
お互いゲームと分かって楽しんで。
「こうやって会うの、兄さんには絶対内緒だよ」
暗がりの中の熱視線。その俺の眼差しがどこからどこまでが本心かなんて、きっと彼女には分からない。月並みな優しさ
「この席、寒くない?」
カウンターに並んで座り、抱き寄せる肩。触れ合う額と額。
「本当はさ、俺じゃなくって兄さんと過ごしたいんじゃない?」
必要な飴と鞭。
「君の本心を教えてくれなきゃ、俺だって本気になれないじゃないか」
持ち上げた顎、熱い吐息、唇、舌の先。
 いつもと同じ結末が見え隠れした瞬間、俺は投了(とうりょう:囲碁などで勝負が見えた段階で試合を止める事)したい気分でいっぱいになる。別にこの女と寝なくったっていい。このまま、つかず離れずでズルズルと関係していれば十分だろう。
 つまらない。いや、それ以前に
“兄さん、また馬鹿な女捕まえたね”
と思う気持ちの底に、人の善い兄さんを上辺の綺麗さで騙している女という生き物に嫌悪を覚える。きっと俺はそんな彼女達と同じ生き物だと分かっている。それでも俺は、兄さんを傷つける人間を牽制する。
「折角だから、君の美人な所を写真に撮ってもいい?」
俺が向けた携帯のレンズに応え、テーブルに肩肘をついて髪をかきあげるポーズ。それから
「じゃあ今度は、潤と一緒に撮ってあげるね」
彼女は自分のカメラで俺達を写す。
「もしかして、友達に自慢しちゃう?」
俺はわざとらしく彼女の首筋に唇を這わせ、かなりいい感じで写真に写る様にアングルを作る。
「内緒」
「じゃあいいけど。それより、今撮った写真、俺にも送ってよ」
携帯のフォルダには、彼女が送ってくる不義のデータが無駄に増え。いい加減疲れて、無理矢理飲ませたアルコールは68%“天国への階段”
「これぇ、強ぃお酒ぇ?」
もたつく舌の動きを確かめ、チェックを催促し、財布を出す。
「奢ってもらわなくってもいいのにぃ」
そう言いながら、彼女の手はバックの持ち手を握って放さない。下りる階段の途中、女は俺の腕に縋りつく。でも俺はわざと彼女を引きずり、速度を速めた。
「きゃぁっ!」
一瞬で彼女は足をくじいた。でも多分、痛みなんか感じていない。その足が腫れて、ヤバい事になっているって気がつくのはきっとこれから数時間後だろう。
「酔っちゃった?」
俺は彼女を両手に抱きかかえ大通りへと歩き出し、繁華街の注目を浴びる。冷やかすヤジと口笛と、こっちを見てきゃぁきゃぁと騒ぐ女の子の声。案の定ロエベは俺の首に両手を巻き付け、性悪な微笑みでプリンセスを気取る。俺の顔には、スマイル。そして、
「このままオオカミになりたいけど、今晩は我慢しておくよ」
丁度客待ちのタクシーの中に、彼女を押し込んだ。
「やっぱり、兄さんが怖いからね」
さぁ、酔いが醒めたあと、自分がなにをしたか振り返り、首根っこ押さえられたって気がつくんだな。
 だから次の日は、半分は気分最悪で、半分は復讐を遂げたヒーローの気分で迎えた。
 兄さんが紹介してくれたパートの人は、午後の二時過ぎに来るという。それまで俺はいつもの様に黙々と働き、いつもの様に愛想を振りまきパンを売り、昨日を忘れいつもの日常へと戻る。兄さんにつながる人を見て、またやってしまった罪悪感を思い出す事が無いように。空は曇り。今にも泣き出しそうな朝だった。
 結局正午を過ぎた頃からぱらぱらと雨は降り始め、お昼休みが終わる時間帯には土砂降りになっていた。それにも関わらずこの日に限って客足が絶える事がなく、テラス席は濡れたまま放置され、やっと取り込めるほどの時間ができたのは、一時半を回ってからの事だった。いつものルーチンワークでテーブルを出してしまった事を悔やみながら、俺は傘を片手に外に出た。
「マジで降ってんなぁ」
この調子で降り続くなら、製パンルームの空調の設定を少し変えないといけない。なんて事を考えながらふと店の脇に目をやると、隣の建物との隙間に藍色の傘が揺れている事に気がついた。
「?」
最初、ゴミ出しでもしているのかと思った。でもそうじゃなさそうだ。覗き込んでみると、歳の頃二十代なかばの女性が一人、傘の柄を抱きしめ佇んでいた。ここは普通の道で、特別なアイコンはなく誰かとの待ち合わせとは思えない。しかも隅に引っ込んでいる所を見ると、何か訳ありげな様子だった。彼女の足下は雨に濡れ、仕草は見るからに寒そうだ。俺は声をかけるべきかどうか迷った。すると視線を感じたのか、彼女はハッと瞳を揺らし傘を持ち替えると、こっちに向かって軽く頷いた。どうやら知り合いらしいと感じながら、誰だったのか思い出せない俺に、彼女は躊躇いがちに数歩前に進み出た。
「あの、今お忙しくないですか?」
おずおずとした言葉遣い。俺は一瞬勘違いをし
「はっ?」
ってな返事をしてしまった。なにしろ、街で歩いていて逆ナンされる事もよく有って、そんな感じで声をかけられたのかと思ったんだ。でも、彼女はそんな自分から男に声かけていくタイプじゃなかった。大判のノルディック柄のフードに、膝丈のスカートとレギンス。ヒールの無い靴に布製のバッグ。ゆるく束ねた栗色の髪は、多分染めていない。何よりも化粧っ気のない透明な肌は、誘われる事は有っても自分から責めるタイプじゃない。俺の不躾な眼差しに彼女はさっと顔を赤らめた。
「あのう、私、志努さんのご紹介で参りました。荒川です」
鈴の響く様な澄んだ声、はにかむ様な眼差し。
「えっ? あっ、君があの?」
ここでようやく気がついた。彼女はこの雨の中、面接の約束時間まで、他の通行人の邪魔にならないよう道の脇で待っているつもりだったのだ。俺はなんだか異世界の人に巡り会ってしまったかの様な気分になった。
「はじめまして、俺は、志努、潤です」
それが俺達の出会いだった。




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                         ちょこっと あとがき



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Date:2010/11/25
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Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

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