ストーリーズ・イン・シークレット

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81 サプライズ



 アクシデントが起こったのはそれから後の事だった。結婚式が終わり、披露宴と呼ぶにはささやかな祝宴を開いた私達。触れ合うフルートグラスに弾けるシャンペンの泡、慎み深い笑い声。内々の席だから特に改まった事なんかない。職場の人からの祝辞もなければ友人達の余興もない。でも
「宴もたけなわではございますが、ここで皆様」
デザートが運ばれもうすぐ終わりに近づいたその時、レストランの係の人がマイクを片手ににこやかに話を切り出した。これは勝利との打ち合わせにはないプログラム。彼は
“何?”
ってな顔で動揺し、私の顔を見た。
「新婦のお子様達から新郎にご挨拶の言葉がございます」
普通は花嫁が両親に今まで育ててくれたお礼を言うのが定番。でも私達の場合、その予定は無かった。その代わり私は勝利には内緒のサプライズを用意した。
「それでは新郎新婦、こちらへ」
訳が分からないって顔の勝利を引っ張り、私達は前へと出て行く。
 言い出したのは天仁。そして言葉を考えたのはもっぱら摩利。二人はこの日のために
『何を話すかは結婚式まで内緒』
と言いながら自分達の部屋で聞こえるくらい大きな声で何回も練習し、意気込んでいた。最初にこの計画を聞いた時、私は反対したものだった。子供がするスピーチだから、迂闊な事を話され大事がおこっちゃいけないって。でも二人の熱意に負け、私は親戚一同に怒られる事覚悟で
「仕方ないわね。でもその代わり、絶対勝利おじちゃんに恥じかかせる事言っちゃ駄目だよ」
と念を押し、こっそりホテルの担当者に連絡をしたのだった。
 そして今日、緊張の面持ちの二人は、声を揃えながら大きな声でその手紙を読み出した。
「大好きな勝利へ」
と。微かなざわめきが、大の大人の男性を呼び捨てにする子供って、母親はどういう躾をしているんだろうって伝えていた。でも私は構わない。ちょっと不安そうにこっちを見る二人の目に向かって
“しっかり!”
のサインでにっこりと笑う。
「僕たちが初めて勝利と会ったのは去年の五月でしたね」
「あの大きな公園で、車に轢かれそうになった僕を助けてくれた勝利」
そして
「ありがとう」
がはもる。
「あの時、僕たちは運命の出会いをしたんだと思います」
真顔で話す二人に会場からはクスクスと笑う声が漏れるけど、読む事に集中し始めた息子達には分からない。それからどんどん先を続け、ついに
「僕たちは勝利が大好きで、お父さんになって欲しいって言ったけど、勝利は
『嫌だ』
って言いましたね。その時僕たちはとてもがっかりしました」
の言葉まで乗り切った。
「でも勝利はその後、こういいましたよね。
『僕たちの理想のお父さんにはなれない』
って。その意味が、僕たちよりもママの事がもっと大切だって事なのはよく分りました」
ここで摩利は読んでいた紙からスッと目を上げ、勝利の方を見つめた。アドリブが入ったってピンと来た。
「でも、僕は構いません。なぜならママは勝利が大好きだからです。ママは勝利が帰った後、いつもこう言うからです。
『楽しかった? 良かったね』
そう言うときのママの顔が一番楽しそうでした。だから勝利はママを幸せにしてくれます」
その言葉に驚いた。でもきっとそうだったんだって思った。私は知らないうちに子供達に本心を打ち明けていたんだって。びっくりしている私をよそに、その後を天仁が続ける。
「だから」
と。
「だからママを幸せにしてくれる勝利の事を、僕たちはこれから
『お父さん』
って勝手に呼ぼうと思います」
二人は息をつき、大きく頷く様に呼吸を合わせた。
「ママ、お父さん。これからも僕たちと沢山遊んでね。それからお父さんは約束通りママを世界で一番幸せにしてあげてください。僕たちからの絶対のお願いです」」
限りなく真剣な二人。そして私の隣にいる勝利はフルフルと肩を揺らしたかと思うと手で口を押さえ、小さな嗚咽を漏らし泣き出してしまった。
 彼の涙目はそれからしばらく続いていた。もう、子供達に
「ありがとう、絶対に幸せにするからね」
って返事をするのに何回も息継ぎをし、沢山のビデオが勝利のその瞬間をばっちりと捕らえ、眩しいくらいのフラッシュが瞬いた。彼はさすがに恥ずかしそうに顔を隠す仕草をほのめかせ、でも主賓だから顔を上げていないといけなくて、小刻みに鼻をすすり上げ
「ありがとう」
その言葉をとぎれとぎれに言いながら子供達の体を抱きしめた。私ももらい泣きしそうになり、慌てて奥歯を噛んでそれを堪えた。
 最後に彼がするはずだった挨拶は、うさぎ目の勝利がようやっと言えた
「皆様の祝福を受け、私達家族は幸せになりたいと思います。今日はありがとうございました」
の言葉だけ。
 それでも私の中には素直な子供達を自慢する思いと、限りなく純粋な心を持った勝利を誇らしく思う気持ちで満ちあふれていた。

 そして二人だけの夜が来る。子供達は弟の子供と別の部屋でのお泊まり会。
「おやすみ」
の挨拶の後、私達はセミスイートの部屋に戻った。
「今日は疲れたね」
先に部屋に入った私の背中に
「うん、そうだね」
って言う勝利の返事、それから鍵のかかるカチッって音が響く。分かってる。部屋に鍵をかけるのは常識だって。それに私は勝利を
“怖い”
なんてみじんも思っていないし、むしろこの夜は
“楽しみ”
だった。それでも言葉にできない不安がお腹の底に有って
「喉、乾くよね」
無駄に緊張し喉がからからの私に
「屋内は乾燥してるから」
と彼が冷えたエビアンのボトルを開け手渡してくれ。こんなとっておきに日だって言うのに過去の自分を思い出し、少し落ち込む。これからの展開をどうすれば良いの分からない私は
「あの、疲れたから先にお風呂入って来るね」
といってバスルームに逃げ込んだ。
 バスタブに張った湯船のせいで鏡は完全に曇ってしまい、向き合っているはずの私の顔は見えない。
「そうだよね」
呟きながら鏡に石けんを擦り付けまっさらな表面を出し、こってりと化粧の塗られた顔を映した。見つめ返すこの顔はいつもの私の顔じゃない、作り物。華やかだけど嘘つきの顔。そう思いながら、結婚式の厚塗りメイクを二回のクレンジングでやっと落とす。拭き取ったコットンにはあの綺麗なメイクを作っているとは思えない、汚く濁った混じり過ぎた色の残骸。これって過去の私だって思った。だから私は過去の私を洗い流す。生まれ変われるとは思えないけど、でももう一度、綺麗な私を取り戻したいってそう願う。
 ピカピカに磨き過ぎた私は
「お先、ありがとう」
うつむきながらバスルームを出た。今の私は完全にスッピンで、明るいホテルの蛍光灯が眩しい。今更だけど、もう若くはない私の素顔を彼に見られるのが恥ずかしいって思う。
「じゃあ、俺も」
勝利が姿を消し、私は急いで持って来ていたSKのパックを取り出し顔にあてがった。それから匂いがこもるからバスルームでは出来なかったローションを体に塗る作業にとりかかる。滑らかなテクスチャーを肌にすり込みながら、今晩勝利は私の体を愛してくれるだろうかって、ちょっと心配になる。
“大事にしたい”
なんて理由ではぐらかされ、眠れない夜を過ごすかもしれないなんて、ちょっと不安。でも前向きに行かないとって思う。
 この夜、私は避妊具を使う事に決めていた。ま、当然と言えば当然だけど、彼とその相談をした事はないから、彼の意志ははっきりとは分からない。でも私は失敗を繰り返したこの人生の中で幾つか大事な教訓も得ていた。
『こんなはずじゃなかった』
なんて、後で言っても遅すぎる。結果は
“自分がした事”
について来る。否が応でも自分以外に責任を取る人はいない。だから私は
『今は妊娠はしたくない』
この事を勝利にきちんと告げるつもりでいた。
 バックの底に忍ばせたコンドーム。小さなアルミのフィルムの中に、子供を作るか作らないか、人生の大きな選択肢が潜んでいるなんて不思議。私はちょっと躊躇った後、そのうちの二つを引きちぎりそっと枕の下に忍ばせた。すると
「あれっ?」
指先に触れるもう一つの感触、
「やだ、これって……」
驚いて枕を持ち上げると、そこには三つに連なった同じ様なパッケージが有って。
「いやだ、これって……」
私は同じ言葉を繰り返しながらカッと顔を火照らせた。勝利が避妊をしてくれなかったのはたった一回だけ。そのダメージはかなり大きかったけど、私はやっぱり彼の事信じるべきだって思った。同時に何だかほっとした様なくすぐったい様な感覚の襲われ、思わず顔をほころばせていた。
 バスルームから出て来た勝利。彼は私と同じ様にうつむいている。人の心って分かんない。きっと不機嫌で無愛想に見えている今の勝利の中身は、私と同じ。尻込みって言うよりも滅茶苦茶緊張しているんだろうなって思った。もし私が土壇場で
『ノー』
を言ったらどうしようって。その彼が私に向かって面を上げ、戸惑いの表情で微笑んだ。
「折角シャンペン有るんだから、開けてよ」
私は女王様みたいにベッドの上から彼を手招く。
「あ、うん」
サイドテーブルにはホテルが用意してくれていた冷えたボトル。彼は私が寝そべるベッドの横に立ったまま、ちょっと手間どいながらそれを開ける。
「ありがとう」
受け取って、どこに座ろうか迷っている勝利のために
「ここ」
ベッドにスペースを空け、シーツをポンポンと叩いた。
 私達は軽くグラスを合わせ
「幸せになろうね」
の言葉で乾杯した。
「うん」
彼も頷き、グラスを口にする。一機に飲み干した私は、ベッドボードに背中をもたれさせている勝利の胸の中にころりと顔を埋めた。彼の素肌からはホテルのアメニティーのフランス製の石けんの香り。彼もせっせと体を洗って身ぎれいにしたんだなって想像してちょっと嬉しい。
「良い香り」
そんな誘いかける様な私の態度に彼は驚いたらしく、
「涼子」
私の名前を呼びながら、のど仏を動かし唾を飲んだ。私はグラスをベッドの棚に置き、両手で彼にしがみつく。
「今度こそ、本当に幸せになろうね」
勝利の体はあの頃よりも少し胸板が厚くなった感じで頼もしい。そして頬を擦り付けると、石けんの香りの合間にあの懐かしい彼の香りが顔をのぞかせ、私を興奮させる。それは彼も同じの様だった。見上げた勝利は熱に浮かされた様な表情をしていて、躊躇いがちに私の顎のライン指先でなぞり、その唇が
「愛している」
と呟いた。
「私もよ」
二人でお互いの瞳を見つめ合った。彼の瞳は鏡のように煌めき、私の顔が映っている。でも彼は今現実の私を見ている。そして私も現実の彼を見つめていた。
 そっと触れられる唇。お風呂上がりの彼の唇はしっとりしていて
「気持ち良い」
思わず言葉が漏れる。
「涼子はもっと気持ち良い」
彼は温かいため息を漏らしながら私を抱きしめた。
「涼子は俺の女神だよ」
と。何だかものすごい褒め殺しみたいなセリフに私は笑い
「本気だよ」
の声を聞く。
「初めて会ったときから、涼子は俺の女神だった」
あまりにも真剣すぎて疑う事の出来ないセリフ。
「ありがとう」
私はただ彼に感謝し、唇で彼に応えた。



   戻る   鏡 TOP へ     最終話へ続く   


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Date:2009/12/04
Trackback:0
Comment:4
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

* お願い

 不躾なお願いをいたします。

7 ラテンな女   

 の様なお話 心と体 供にあるお話をお願いしたいのです。 
2009/12/04 【rom】 URL #mQop/nM. [編集]

*

ドキドキしながら毎回一気読み!
あと一回かぁ・・
寂しいなぁ。。。

勝利、かっこいいねぇ♪欲しい!!
2009/12/05 【tomo】 URL #- [編集]

* > rom ちゃんへ

さて、どうなるでしょう???

うふふふふっ。
2009/12/05 【廣瀬 】 URL #- [編集]

* > tomo ちゃんへ

勝利はあげません! きっぱり♪
だって
『私 ← 作者 のものだも~ん』
 
しっかし、こんな男らしくない主人公って珍しいかもね♪
でも、そこが良いのよね~。あはははは。
2009/12/05 【廣瀬 】 URL #- [編集]

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