FC2ブログ

ストーリーズ・イン・シークレット

恋愛小説置いてます。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

 
 

Information

Date:--/--/--

79 ホリー・ナイト


 彼の視線が私の唇を見ている。その眼差しには見覚えが有って、彼が私を欲しがっている時の瞳の色だって思い出す。まるで熱に浮かされた少年みたいに熱くって、それでいて純粋で、真っ直ぐ。どうして私は彼のこの気持ちを
“体だけ”
なんて誤解し、割り切る事が出来たんだろう。勝利が見ているのはこの私だ。その彼の唇が、
「良いの?」
なんて動いた。それって、キスしたいって事だよね? ああ、キスなんて、何年ぶりだろう。子供にチュゥは毎日してるけど、男と最後に交わしたのは、遠い昔。ポテトチップスみたいな名前のやたらと器用な男だった事をはっきりと覚えている。あの時、勝利を諦め他に慰めを求めて失敗したんだっけなって。結局、勝利の唇が恋しくて、観念したって感じだった。それなのにあんな事が起こり、私達は別れた。あれから七年が経つ。稔とは男と女のキスを一度もした事が無かったから、キスって七年ぶりだ。って、どうしよう。何だか私はすっかりやり方を忘れている。ああ、こんな時どうすれば良い? 彼の事だから、頬に可愛らしいキスをくれるかもしれない。それともそっと頭をずらし、遠慮がちに首筋にキスを落とす? 正当派に唇だけを触れ合わせる様なキスをするのかな? でももしかしたら大胆に舌を入れて来るって事、なくわないよなって思う。でもそうしたら困る。私はどんな風に応えれば良い? 彼に合わせて舌を絡める? それともうぶな感じで身を引いちゃう? その時彼に抱きしめられて、なすがまま? 記憶の底であの焼け付く様な彼のキスがちりちりと音を立てて焦げ出す。きっと全身に電気が走った様に痺れて、
『もう、好きにして』
って気持ちになるんだって思った。彼は半眼で私を見下ろし、頭の後ろを支えてくれて、私がキスを返しやすい様にしてくれるに違いない。それからあの暖かい唇で私の事を被い尽くすんだ。その快感を思い出し身震いしそうになるのをじっと堪え、冷静なフリで
「うん、良いよ」
答える私。でも躊躇いがちな彼、じれったい。キスする気じゃなかったの? 私だけが期待しているの? これって女の私からしてってせがむのってどうよって思う。そりゃ、もういい加減おばさんだし、今までする事はして来たからここで恥ずかしがるのってどうよって思う。でもやっぱり勝利から先に動いて欲しいなってそんな事を思いながら、乾いてきた唇をそっと舐めた。すると彼の視線が軽くぶれ、その先を追う。やだこれって、完全に誘ってるって感じ? 慌てて視線を落としてしまい、今感じている恥ずかしさを誤摩化す様にそっと唇を噛んだ。勝利の指先はまどろっこしく、頬に戻ったかと思うと手の甲で私を撫でる。凄く、気持ち良い。でも同時に、早くしてって感じ。結局私は微笑んでいる彼を見上げ、唇で愛して欲しいと目で訴える。ねぇ、お願い。そして彼の指先が私の顎を僅かに引き上げる様に動き、彼に向かって思わず瞳閉じた。見えない中で勝利が体を僅かに動かし、足の先がこつんと私の足に当たる。ちょっと体を引きそうな気配の後、それを止め。密やかな吐息が耳元で響き、彼と触れている顎とその足先がじんわりと暖かくなり、緊張する。不意に勝利の肌の香りに包まれて、私は思わず顔を右側にかしげていた。そう、これは私達の古い癖。二人とも右側に頭をずらす、クロスキス。私の頬にはらりとかかった、彼の前髪。
「涼子」
唇が触れようとする寸前、彼はうっすらと開いた私の唇に向かって囁いた。
「愛してる」
クリスマスの奇跡って有るのかもしれないって思った。
 とその時
「ママ、風呂あがったよ!」
「早く来て~!」
子供達の弾ける様な声がお風呂場からこだました。私達はあわててぱっと離れ、子供達に気づかれないって知ってても、思わず何事も無かったかの様な距離を置く。漂っていた甘い空気は雲の様にかき消され、勝利はばつが悪そうに頭を少し下げた。私は物凄く期待してたから、もうちょっとだったのにって思う分、何だか恥ずかしくって照れ笑いを浮かべてしまい、そんな私を見て彼も表情を弛めた。
「早く来てってば~!」
と叫ぶ子供達。彼は
「呼んでるね」
って、こんな邪魔が入ったって言うのに微笑んで。
「タオルとってよ~」
「体拭いて~」
子供達は容赦がない。
「は~い、今行くから」
私は勝利に目配せをしながらお風呂場へと急ぐ。
「やだ、何! 体びしょびしょじゃない!」
案の定二人は濡れた体のままバスマットの上で押し合いへし合いをしていた。洗面所には湯気がもうもうと立ちこめ、その蒸気が鏡を曇らせている。明るい照明の下、子供達の姿は鏡にうつる事無く真っ直ぐ私を見つめ、キャッキャと笑っていた。血の巡りの良くなった健康的な肌の上を、朝露の様な水の玉が滑り落る。そこに息づく命の迸り(ほとばしり)に、私は子供を産んで育てるチャンスをくれた神様に感謝した。諦めなくて良かったって。だから
「ほら、ちゃんと拭かないと駄目じゃない」
私は二枚のバスタオルを取り上げ、一枚をドア近くでここにいても良いのかなって迷いを見せている勝利に手渡した。彼にもこの子達の素晴らしさを味わう権利が有るって、そう思えたから。
「もう、中にある小さなタオルできちんと拭いて出て来なさいよ」
先にお兄ちゃんの摩利をバスタオルですっぽりと包み込み、
「自動乾燥機。ガ~~~~~」
私はいつもの調子で子供の体を拭く。それからいつもと違うのは
「ハイ終わり、仕上げに勝利おじちゃんにも拭いてもらいなさい」
その後の摩利を勝利に任せた事。
「きゃぁっ!」
摩利は悲鳴みたいな歓声で心の準備の出来ていないって感じの勝利の胸の中に飛び込んだ。
「うは~、くすぐったい!」
勝利は恐る恐る体を拭くから、どこを拭いているのか分からない。でもそこが子供には良いらしい。完全に遊んでる。
「ママ、僕も早く!」
天仁に言われ
「はいはい」
ハッと気がつて
「自動乾燥機、ガ~」
を繰り返し、まだ拭き上がっていない摩利の次に天仁を並ばせる。摩利は最後くねくねと体をくねらせ
「くすぐった~」
とタオルの隙間から抜け出した。
「僕も!」
それに続いた天仁は、お兄ちゃん以上に大はしゃぎだった。
 その夜、子供達はあっという間にベッドに潜り込んだ。
「お待たせ」
勝利を待たせていたリビングに戻るまで、たった五分。いつもだったら三十分もかかるのに。
「ダディがさ、ママと勝利にゆっくり話しをさせる時間が必要だって言うんだよ」
「そんなの分かっているって言ってんだけどね」
「ね~」
「でも約束だから、今晩は早く寝るんだ」
「もしかしたらもう一つ、プレゼントもらえるかもしれないから、ね~」
「ね~」
二人は思わせぶりにくすくすと笑い、
「お休み!」
と布団を被り
「早く電気消して!」
滅多に聞く事の無い言葉を口にした。
 そして二人きりの夜が来た。
 住み慣れたリビングにBGMのクリスマスソングはもう止まっていて静か。私はみんなの前では渡せずにいたプレゼントを手の中に抱え、彼の腰掛けている三人がけのソファの端に腰を下ろした。
 先に口を開いたのは勝利。
「今日は呼んでくれてありがとう。その、本当に楽しかったし、本当に嬉しかったよ」
彼は女の子がやる仕草でもじもじと両方の指を組み合わせ、躊躇いがちに言葉を選んでいた。私達の距離は60センチ。
「どういたしまして」
ほんの少し腰をずらし、彼の方ににじり寄る。それに気がついた勝利が
「隣りに座っても良い?」
なんて聞いて来て。
「もちろん」
そう言いながら私は脇の空いているスペースを軽く撫で
『こっちに来てよ』
のサインを出す。軋むソファのスプリング、ちょっぴり濃い目のカスタードクリームみたいな空気。私達の距離は一気に5cmまで縮んだ。触れ合いそうで触れ合わない肩がもどかしい。でも今晩は聖夜。私はホリー・ナイトを楽しんでいる。
「あのね、陶器の置き物のプレゼント、ありがとう。実は私からもプレゼントが有ってね」
こんな夜、思いを伝えるプレゼントって必要だよね? ちょっと不器用なラッピングの施された四角い箱を取り出し彼の目の前に差し出す。勝利はそれを
「何かな?」
と両手で受け取った。
「開けて良い?」
もちろんって、私は頷く。中から出て来たのはDVDが七枚。
「これってもしかして?」
嬉しさと困惑の入り交じった瞳が私を見返した。
「急に思い立ってね、あの子達の今までのビデオの記録を、DVDに焼いてみたのよ。その、勝利が見たいかな~っと思って」
というか、見たいと思っていて欲しいなっていう、そんな感じ。肝心の勝利は、ある意味ニヤニヤって印象の笑いがを浮かべながら、たいして文字の書いていないその一枚一枚をまるで絵でも見るかの様に手に取って眺めた。そしてふと動きを止め、視線を落としたままDVD を持つ手に力を込めてこう言った。
「摩利君も天仁君も可愛いし。乃木さんは料理が上手で家庭的で、親戚の人も善い人で。この歳になってこんなにいいクリスマスを過ごせるなんて思ってもいなかった。ありがとう」
一瞬にして引き締まった彼の口元。彼の緊張がばんばん伝わって来る、そんな気がした。彼はゆっくりと私の方に向きを変え
「聞いて欲しい」
はっきりと、揺るがない声で私に語りかけた。
「君のいる家に
『ただいま』
って帰る、そんな関係になりたい」
と。
 なんて控えめなプロポーズ。でもその言葉を私は一生忘れないって思う。だって、彼の心が言わせて言葉だって、そう感じるから。
「今日は、その、最後まで返事を聞きたいって、そう思ってる」
彼はきっぱり最後まで言い切ると、私の目を見つめた。
「乃木さんの答えを知りたい」
こんな気の強い女だけど、でもやっぱり、好きな男の人には押して欲しいんだって、彼が強く私の事求めてくれているんだって思うと、彼の事を好きだって気持ちが前よりもっと膨れ上がる、そんな気がした。
「引っ越す時には、私があげたDVD 忘れずに持って来てね」
それは遠回しなイエス。
「このDVD 一枚づつしか作っていないから。そうじゃないと私も子供達も困るから」
彼の目が大きく見開かれ私の答えを喜んでいる。その笑顔が眩しくて照れてしまい、私はわざと彼から視線を反らし、頭をそっと彼の肩に預けた。
「それからね、子供の前では“涼子さん”から始めるってのは、どう?」
緊張している彼の手にそっと私の手を重ね、今私が感じている温かい気持ちを伝える。すると彼はもう片方の掌をゆっくりと私の手に重ねた。
「ありがとう」
って。
「きっと大事にするから。世界で一番幸せにするから」
それが私の事なのか子供の事なのか。ここでの突っ込みは無しだ。私はそんなに野暮じゃない。それなのに。
「涼子さんの事、世界で一番、愛しているから」
我が侭って感じもするけれど、私は本当に言って欲しいって思っている言葉をプレゼントしてもらった。
 静かな夜に、いつの間にかプラトニックな私達。私の頭の端に勝利の耳がちょこんと当たり、二人、服越しに触れ合いながら、全身で溶け合っている、そんな気分だった。


   戻る    鏡 TOP    続く


                  あとがき


お気に召して頂きましたらクリックしていってね♪
     ↓ ↓ ↓          
   

   ♪ こちらも応援頂けると励みになります ♪

      にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
  ▲(1回/1日)    ▲(1回/1日)  


  オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび      エッチ小説ランキング
  ▲(1回/1日)       ▲(1回/1月)      



スポンサーサイト

 
 

Information

Date:2009/11/13
Trackback:0
Comment:4
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

* わー、長かった!

初めて感想を書かせていただきます!
いつも楽しみに読ませていただいてます。
やきもきしました。自業自得はおいといて、勝利の執念(良い意味で)はすごいですね。よく頑張った!

あとは涼子がいつ、はっきり「好き」と勝利に言うのかを待つつもりです。
大人の、子持ちの女の「好き」発言は色々重いですよね。
それとも勝利、一生お預けかも。ありえそうです。 
2009/11/14 【ナオ】 URL #- [編集]

*

にやけながら読んでました(^^)
幸せをありがとう♪
2009/11/14 【tomo】 URL #- [編集]

* > ナオ様 はじめまして♪

勝利の執念! 確かに凄いですよね~。
男ってこういう未練の強い生き物って気がします。
意外と女性の方がさらっとしていたりして。

涼子の『好き』はねぇ……。お楽しみに♪

コメントありがとうございました。
2009/11/14 【廣瀬 】 URL #- [編集]

* > tomo ちゃんへ

最初の涼子の
『どうしよう! どうしよう!』
可愛いでしょう♪
妙に初々しくって♡
それから勝利もプロポーズできたし、涼子はあいかわらずツンデレで。

さて、この次キスする時、勝利はどんなキスをするんでしょうかね~。
書くのが楽しみです。
2009/11/14 【廣瀬 】 URL #- [編集]

コメントの投稿







 ブログ管理者以外には秘密にする
  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。