ストーリーズ・イン・シークレット

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78 保護者


 その夜、パーティーのお開きは早かった。昨日サンタさんから届いた
“今年の乃木一家”
のDVDをみんなで見ていて一区切りついたその瞬間、まだ8時を少し過ぎたばかりだというのに
「ほら、ガキ共、寝る時間だぞ」
ソファで足を組んでいたジョージがいきなり何を思ったのか子供達を急かし始め
「これからは大人の時間だから、歯磨きして風呂入って来い」
とまるで父親みたいに大きな声で命令をしたのだ。リビングにいた子供達はしゃきっと立ち上がりプレゼントを抱えひとまとめにしたあと、洗面所へとダッシュした。ジョージはちょっとやり過ぎだと思ったし、あまりにも素直に言う事をきいた子供達も解せない。まるでこの家の主がジョージみたな成り行きに私は少しむっとした。
「そんな事言わなくても良かったのに、ジョージ。今晩は特別だから」
静かな部屋にクリスマスソング。大人だけが取り残された部屋に重たい沈黙が流れた。困った様な顔を不器用に隠して笑ってみせている勝利と、妙にしたり顔のジョージ。これってなんだよって感じ。何となく私が悪者? って空気だけど、この家は私の家。子供達だって私の子供だ。いくらジョージでも勝手はさせたくなかった。それに私はジョージと卓ちゃんの関係を応援こそすれ、邪魔したりした事なんか無かったし、私と勝利の関係にジョージが割り込んで来るのって、子供じゃないんだから止めて欲しいって思う。それに、子供達をダシに勝利を威嚇するくらいだったら、私や勝利に単刀直入に言うべきじゃない?
「ねぇ、ジョージ。今私が何考えているか、分かる?」
私は床に座りながら彼を見上げた。こうやって見下ろされていると何だか分が悪い感じがするけど仕方ない。
「少しだけど怒ってるのって、分かってくれる?」
自分が一番上なんだぞって感じの態度が気に食わないって気持ちをのぞかせながら言った私に、
「まぁそんなに苛つくなって。しわ、増えてババァになるぞ」
彼は口の先で笑った。
「コイツが何でここに来たのか、ぼちぼち大人同士ではっきりさせたいなって思った訳だ」
その太々しい態度は私を、というよりも勝利を困らせようとしている態度だって思った。
「とりあえずだな、どうして俺がこの家に出入りしているかって事だ」
彼の目はにやついた口元とは裏腹に細く鋭く光り、嬲(なぶ)る様に勝利を見据えた。勝利はさっきまで見せていた困惑を取り繕う様な表情をぬぐい去り、ゆっくりと顎を引き締め
「あなたが来ているって事は、乃木さんのご実家との縁ですか?」
低く落ち着いた声でそう言った。
『あっ』
って、そんな言葉が漏れそうになり、あわててそれを呑み込んだ。私はジョージがいる日常に慣れ過ぎていて、実家とジョージにそんな思惑が有るだろうって現実をすっかり忘れていたのだ。
「涼子の事だからあまり話題にしないだろうと思うけど」
ジョージはもったいぶった前置きをした。
「コイツの旦那の稔が跡を継ぐはずだった乃木の本家は資産家でね。例え稔が親よりも先に死んだって言っても、結局稔の両親は二人の孫に全てを相続させたいって思っている」
それは私や稔の両親が一度も口に出した事の無い話題だった。彼らが双子の父親が稔じゃないって事ぐらい気がついているって知っていた。それに私達には不釣り合いな程巨額の遺産を受け取るなん気が引けるから、むしろお金の話しからは逃げいてたってのが本当の所。だから当然、遺産の相続から私の子供はすっぱり外してくれているとばかり思っていたのだ。それなのに……。
「稔の親にしても、俺にとっても、乃木の直系は摩利と天仁だと思っている」
彼は
“直系”
の言葉をはっきりと発音し、勝利の反応を見極めようとしているかの様だ。
「だからその大切な子供達と、その子供達が引き継ぐ財産を俺は守らなきゃいけないって思ってる訳だよね」
その財産というのがどれだけのものなのか。実家の山林も含め、東京にもいくつかマンションを持っていて。ちょっと常識じゃ考えられない金持ちだったから。お金が無いとお金持ちに憧れるけど、実際に金を持って管理する生活って、考えるよりも楽じゃない。彼が残してくれたシドの権利や幾つかの財産を管理しているだけであっぷあっぷの私は、これ以上責任を負いきれないって思ってた。だから財産を譲りたいって思ってくれている義理の両親に
“ありがたい”
って思うよりも前に、実家から逃れて東京で暮らしているって事が物凄く悪い事をしている気になり、思わずうつむいてしまっていた。
 ジョージはそんな私を無視して言葉を続ける。
「大人には大人の責任があるからね。途中で逃げ腰になってしまう様な男に、大事な子供達の人生を任せる事なんて出来ないだろう?」
それは暗に勝利が無責任にも逃げ出した、と言っていて。
“そういう事じゃ無い”
訳はもっと複雑だって言いたかったけど、今ここで全てを話すタイミングじゃないってそう思い、言葉を留める。遠くから耳に届く子供達のはしゃぐ声、お風呂場の水の音。そっと盗み見た勝利は、強張っていた頬をふと弛め
「全ての責任を負う覚悟が無くて、ここには来ませんから。そんな言葉なんかに負けませんよ」
からっとした声でそう答えた。
「財産だとか、家柄だとか、人間関係だとか。そう言う事に惑わされて、一番大切なものを見失う過ちを繰り返す気は有りません」
澄んだ目がジョージの事を正面から見つめ、彼はふわりとそこに佇んでいた。
「俺だって男ですから。どんなに重いと言われても、むしろ望んで引き受けたい責任というのはあるんです」
その言葉は真っ直ぐに私の心に響き、あの公園のベンチで聞いた彼の言葉を思い出させてくれた。勝利はずっと変わらない。ただ一度、道を踏み外しちゃったけどね。
「でも同時に、放棄しないといけない権利ってのも有るって考えています」
ふと過去の事を思い出しぼんやりしてしまった私。彼が何を言ったのか、気がついたのはほんの少し遅れてからだった。
「子供達のパパは、一生稔さんですから」
この時の勝利の顔は、まるで菩薩様みたいな顔をしているって、後から思った。彼の言葉は自分が本当の父親だって事、子供達には絶対に話さない、そう言っていた。
 しばらくの沈黙が流れ、先に動いたのはジョージの方だった。
「さてと」
彼はゆっくりと立ち上がり、
「お客様の人となりも分かった事だし」
とさっきとはまるで違う様に見える笑い顔を浮かべ
「そろそろ帰るとするか」
両方の太腿をポンッと叩いた。それは凄くすっきりとした顔つきだった。
 ジョージは子供達からもらったプレゼントの袋とコートを取り上げると
「また来年もこうして集まれるかな?」
誰に言うとでも無しにそう呟いた。その言葉の深い意味を知っているのはジョージと私と卓ちゃんと。それから彼の担当医だけ。卓ちゃんは一瞬顔を曇らせ、ジョージはか細い視線を勝利に投げた。
「それじゃあ、また来年」
何も知らない勝利はあの素直で優しい笑顔を浮かべ
「来年もよろしくお願いします」
屈託なくそう答えた。
 ジョージは帰りしな、まだお風呂場にいる子供達に声をかける。
「ダディはもう帰るからな!」
相変わらずでかい声。
「約束通り、今晩は早く寝ろよ! じゃあ、お休み。また来年」
すると子供達が元気に答える。
「分かってるよ~」
「お休み」
「また来年」
「一緒に遊ぼうね~」
二人はダディが大好きだ。
 そして玄関で。靴を履いたジョージはいきなり卓ちゃんの腕に自分の腕を絡め、掌と掌を合わせぎゅっと握りしめた。私達の目の前でジョージの大きな手が卓ちゃんの若々しくてしなやかな手を包み込み、指先が柔らかく絡み合い、
『俺達は恋人同士です』
と告げていて。一瞬ジョージの穏やかな表情の下には、最後の思惑が有るのかもって疑った。これって勝利の事を試しているって。でもそれは違うと、私はすぐに打ち消した。
 彼らはマイノリティだから、人前で露骨な愛情表現なんかしない。その上ジョージは愛情表現がまるで下手だ。いつだったか二人で飲んでいて彼に向かってこう言った事がある。
「あんたって、思っている気持ちと行動にギャップ有るんじゃない?」
思っているだけで気持ちが伝わるなんて無いんだから。
「男ってそう言う事が分かってないよね。言葉とかはっきり分かる態度で気持ちを示してあげないと。女には、目に見えない“内面の気持ち”なんて伝わらないんだから」
って。すると彼はゲラゲラと笑い
「女心ってヤツ?」
と馬鹿にするから、
「だってあんたが“男役”で、卓ちゃんが“女役”なんでしょう?」
思いっきりやり返してやった。あの時のジョージは持っていたウイスキーグラスの動きをぴたりと止め、
「なっ、なっ、お前、いきなりなんて話しをし出すんだよ」
とらしくもなくどもった。
 そんな彼のいきなりの愛情表現。私もそうだけど卓ちゃんも驚いたらしく、一瞬手を引いて逃げる様なモーション。でもジョージの手は彼の手を握って放さず、諦めた様に卓ちゃんはその手を握り返した。男同士とはいえ、それはごく普通の恋人同士の甘い仕草。自然に惹き合う二人の体が艶かしく触れ合い、
『早く二人っきりになりたい』
と言っているかの様だった。その見せつける様なゼスチャーに、勝利はさっと顔色を変えーーー赤くなった。まるでテレビの画面に予期せぬラブシーンが出て来た子供の様だ。
「あっ、あの……」
彼は何か言わないといけないと思ったらしい。散々言葉を選んだ感じで
「幸せそうで、いいですね」
と言った。
「俺も出来たら、その、あやかりたいです」
と。ジョージはニッカりと肉食って感じの歯をのぞかせ
「あやかるも何も、努力次第だろう?」
そんな勝利を笑い飛し、ほんの数十分前までのとんがった空気を完全に吹き払い、空いている手で馴れ馴れしく彼の肩を叩いた。
「でももしお前がこの女と一緒になったら、お前は俺の弟になるって所か」
思いっきり含みの有る、かなり意味深い言葉を口にした彼。ちょっと驚いた様な勝利の顔に
「ほら、帰るんでしょう」
慌てる卓ちゃんがジョージの手を引っ張った。
「涼子さんも、良いお年を。あなたも、お幸せに」
常識人な卓ちゃん。
「あんた達もね」
と、その時。背後の空気が揺れ、勝利が私との距離を詰めた。至近距離で感じる彼の体温、漂うほのかな香り。私の肩には大きな手がそっと乗せられ、強くはないけどしっかり私を包み込み。私と勝利を
“私達”
という存在にし。それから彼は声に力を込めて
「また、ご一緒に。来年もみんなで」
と言った。
 嫌だ、私、きっと真っ赤になってるよ。ジョージのニヤニヤ笑いと、卓ちゃんのやけに物わかりの良い笑顔。超恥ずかしくって、私は胸の前で小さく手を振った。
 閉まるドアに
「馴れ馴れしくして、ゴメン」
私にかけられていた手がそっと外れ、勝利はうつむきながら謝った。
「ん、良いよ」
むしろ彼が行動に出てくれた事が嬉しかった。強面のジョージ相手に、
“男ぶる”
のって、結構キツいと思うから。私は彼と向き合う様に体をずらし、彼を見上げた。勝利の目が真っ直ぐ私を見下ろしていて、吸い込まれてしまいそうになる。一つ屋根の下、子供達がいる。今見られちゃまずいよって思いながら、それでもその瞳が私に向かって降りて来て欲しいって思った。だから
『抱きしめて』
の思いを込め彼の瞳を覗き込む。
「りょ……、乃木さん」
あいかわらず不器用な彼。でもそこが好きなんだって、きっと彼は言われないと分からない。
 勝利の指先が私の額を撫で、顔にかかっていた髪の毛をそっとかき分ける。その指先は恐る恐るって感じ。でも丁寧で優しくって。暖かい指の流れが頬を伝い、顎の手前で止まった。



    戻る    鏡TOP    続く

                   あとがき


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Date:2009/11/07
Trackback:0
Comment:4
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

* おはようございます~

続きありがとうございます。
勝利、がんばってますね!
そろそろ二人きりになれそうだし、このあとは大人の時間??(笑)
お忙しいとおもいますが、続き期待してます~!!
2009/11/08 【kanon】 URL #F/BsZWm2 [編集]

* > kanon ちゃんへ お早うございます♪

はい、もう何年かぶりで二人っきりの夜なのです♪
ちょっと強気になり始めたチキンカツ(おほほほほ)
涼子のために、ジョージの前では強気を見せないとって
そう思ったんですね♪
続きを書くのは、私も楽しみです♡
2009/11/08 【廣瀬 】 URL #- [編集]

*

はぁ~、次が楽しみ~。
勝利の気持ち、言葉が本当に嬉しいよね。
私もそんなドキドキする言葉、欲しいなぁ♪

ちなみに・・娘がインフルちゃんになりました。
流行の新型です!
馬鹿にできませんね!本当に辛そうでした。
明日から普通の生活に戻れる・・かな?
今日次第で・・。
2009/11/11 【tomo】 URL #- [編集]

* > tomo ちゃんへ

娘さん、大丈夫? お大事に!
熱が高いと脱水になりやすいので気をつけてね。
本人にその気が無くても、せっせとお水を飲ませてあげてください。
親も気疲れするし、夜も落ち着かなくて大変だと思います。
tomo ちゃんも体を壊さない様にね。
2009/11/11 【廣瀬 】 URL #- [編集]

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