FC2ブログ

ストーリーズ・イン・シークレット

恋愛小説置いてます。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

 
 

Information

Date:--/--/--

75 キーワード 



 緊張していて、でも嬉しくって
「ありがとう」
の言葉がつまる。
「ピンクのバラね、大好きなの」
“欲しかったの、よく分ったね”
とか
“高かったでしょう”
なんて彼の事持ち上げて大げさに喜ぶのが女のお作法かもって思いながら、私は10代の女の子みたいに甘い気持ちを噛みしめるのに夢中だった。
 そんな私よりも子供達の方が気が利いていて
「いらっしゃい、勝利」
「早く上がって。手洗いうがいしたらこっちおいでよ」
甘える様に見上げながら、玄関で私の出方を探っている勝利の手を
“大歓迎”
の仕草で引っ張った。我が子ながら本当にこの二人は無邪気で可愛いなって思う。勝利の口元は彼らに向かって笑いかけ、それでいてどうすれば良いのか迷っているらしく、そっと私に向かって目配せをする。直接
“どうぞ、入って”
って返事すれば良いんだろうけど、今更の様にどきどきしちゃってて、彼によく思われるための演技はむしろできなくなっていた。だから
「二人に案内、頼んだわよ」
ぶっきらぼうだなって思いながら、さももらったブーケで手一杯、みたいな仕草でこの場を子供達に任せた。
 私は稔を見送った時のマンションに今でも住んでいる。だから最後に彼がこの部屋に来た当時のまま、車いすでも場所をとれる様な大きなダイニングテーブルを使っていた。その真ん中にブーケを飾ってみんなを待つ。何だか特別な日って感じ。これって子供達の誕生日みたい。
「お邪魔して、良かった?」
テンション高めの子供達に引きずられ、勝利がリビングにやって来る。花を買わせておいて
『帰れ』
なんて言わないよって。彼も緊張しているんだなって思いながら
「夕ご飯、食べていける?」
脱いだコートを抱えたままの彼に手を伸ばし
「あっ、お願いします」
服を受け取りながら返事を聞く。それってコートの事なのか食事の事なのか分からないよって思いながら
「それじゃぁ30分ぐらい待っていてくれる? できたらそれまで子供達と遊んでくれていたら助かるんだけど」
とソファを指差した。
「とりあえずコーヒーで良いかな?」
今晩お酒は用意していない。再会してからの私達はいつでも子供も一緒だからなのか、車じゃないって分かっていても一度もアルコールを口にした事が無かった。きっとお互い、酔った勢いで初めての夜みたいに馬鹿な事になってもいけないし、子供達の前で失言なんかしたくないって気持ちが有ったんだと思う。
「あっ、はい。お願いします」
台所に入った私に、ソファに座ろうと腰をかがめかけた勝利が振り向き頭を下げ
「僕いれる!」
天仁がキッチンにやって来る。家にあるコーヒーメーカーは一杯毎にいれるエスプレッソタイプ。子供達はまだ飲めないけどそれでも機械に興味津々で、私が飲む時にはいつも交代で入れてくれる。それをやりたいと言っているのだった。
「じゃぁ僕、運ぶ人」
摩利はどこまでもお兄ちゃんだ。
 おずおずとカップを口にする彼と、ワクワクしている子供達。
「美味しい」
当たり前と言えば当たり前な感想を、子供達は全身で嬉しいと喜んでいる。
「ねぇねぇ勝利。良いもの見せてあげようか?」
二人はソファの真ん中に勝利を座らせ、両側から挟みながらニヤニヤしていた。
「ねぇ、ママ。勝利にだったらアレ見せても良いでしょう?」
多分アレだなって想像がついた。だって子供達は家に帰って来てから服をよそ行きに着替えていたから。摩利は緑で天仁は赤。クリスマスを意識したヨーロッパ製のさりげなく豪華なハンドメイドのベストは彼らのよく似合っていた。
「良いよ。おじさんにだったら教えちゃちゃって構わない」
「やったぁ!」
喜ぶ子供達に、
「え、何かな?」
戸惑う勝利。
「じゃじゃ~ん」
案の定テーブルの上には子供向けファッション誌の最新号が乗せられて、紙に癖がつく程何度も見返されたページがぱっかりと現れる。
「これ僕ね」
巻頭の見開きページには二人の大きな写真。
「これ、僕たち。凄いでしょう?」
「ママがね、人には言っちゃいけないって言うけど、勝利は特別」
「僕たちお写真の仕事をしているんだよ」
無駄にひがまれるのは嫌だから、モデルしてるって事は他の人には話すなと日頃から厳しく言い聞かせている。その所為か勝利に話せるという事だけで嬉しいらしい。彼らは写真のあちこちを指差し、思い思いにしゃべりまくっていた。
「このシーン、コートなんか着てるけどね、夏に写真撮ったんだよ、夏に!」
「大変だったんだから。汗だくだよ」
「しかも夏にクリスマス特集撮るってんだから酷いよね。子供の夢を壊すなよって感じでしょう?」
そう言いながらこの時の撮影では二人とも妙に気合いが入っていたなって思い出す。そして
「あれ? 今着ている服って」
当然の様に二人が着ている服が写真のものだと同じだと勝利も気がついたらしい。
「そう、正解!」
「僕達ね、他の子達と違って
“暑い”
って一回も言わないで頑張ったんだよ」
「そのご褒美にって、僕たちだけスペシャルって言われて、これ、みんなの前でもらったんだよ、ね~」
「ね~」
二人はいかにも双子にありがちな、同じ動作をするって練習をしょっちゅうしていた。だからこういうときの息はぴったりだ。
「少し早いけど、クリスマスに何でも好きなものが手に入る様におまじないって、もらったんだよね~」
「ね~」
私は業界というものに全く興味はないけれど、子供達にとってはあの戦いの世界がとても魅力的な世界らしい。彼らはさも自慢げにベストを見せびらかしていた。すると
「凄いね」
勝利は一瞬目を見開いたあと、ふわりと目を細め
「君たちはプロなんだね」
二人が一番喜ぶ言葉を口にした。
 それからというもの、子供達は古い雑誌やアルバム等をテーブル一杯に並べ出し、
「僕たち、小ちゃかった頃はさぁ」
なんて、大人が聞いたら吹き出しちゃうような解説を目を輝かせながら話し始めた。そんな屈託の無い子供達の姿に、私の緊張は少しずつほぐれて来ていた。それなのに。お客様がいても躾は躾だからお手伝いはさせた方がいいよな、なんて事を考えながら
「もうすぐご飯できるから。摩利も天仁も、用意手伝ってね」
いつもの様に声をかけ
「は~い」
「分かったぁ」
いつもの様な返事を聞いた。その時、
「ああ、そうだ」
勝利は普通の声で子供達に問いかけた。それは何気ない一言の様に聞こえた。
「君たちのパパに挨拶させてもらえる?」
彼が何を言ったのか、分からなかったのは私一人。もしや空耳? なんて盛りつけかけていたハンバーグがフライ返しの上で宙に浮く。立ち上がった子供達は
「いいよ~」
何とも言えない軽い響きのあと、キッチンから見て正面の壁側にある稔の仏壇の前まで勝利を案内した。
「ここに居るよ」
と。
 私は料理を続けるフリをしながら、三人の背中を盗み見る。
「これがご仏壇なの?」
やっとの事で届く不思議そうな声音。
「うん、そうだよ。格好良いでしょう?」
子供達にとってはそこが重要らしい。
「ここをこうして。ほら、これがパパ」
きっと開け放たれた扉から、私が数時間前に焚いたお線香の残り香が勝利の鼻に届いているに違いないって思う。彼の顔は見えないけれど、背中がぴくんと揺れていた。でも子供達はそんな事に構う事無く
「これね、明るくなって、ホタルみたいに光って、とってもキレイなんだよ」
まるで自慢するかの様に見せびらかしている。その声はとても誇らしげだ。
「天仁、ランプ点けてよ。僕は灯り消すから」
「うん」
天井の照明が消え暗くなった部屋の中、仏壇の内側からもれる柔らかな光。
“灯籠流し”
みたいな影が部屋の壁一面に広がって。
「キレイ」
を繰り返した子供達と、
「そうだね」
を呟く後ろ姿。勝利は少し頭を垂れ背中を丸くし、両手を前の方へと引き寄せる。つられて子供達も手を合わせる仕草をし。
「ありがとう」
私は心の中で呟いた。届かないって分かってるけど、何でだか稔と勝利、二人に向かってそれを言っていた。
 やがて部屋に灯りが戻り、それと一緒に子供達もスイッチが切り替わったらしく
「お腹ぺこぺこ」
キッチンに駆け込んで来て
「あ~、これ大好き! やったぁ!」
「お盆、運ぶ!」
いつもと変わらない騒ぎを始める。振り返って彼らを見つめる勝利の顔には穏やかな微笑みが浮かび、みんながリラックスしている様だった。それなのに私だけが
「うん、そうだね、よろしく」
複雑な気持ちを抱え緊張を続けている、そんな感じだった。食事をとりながら、子供達を注意しながら、おしゃべりしながら。箸を動かし皿を持つ度にいつもの自分に戻れない苛立の様な焦りのような不思議な気持ちを隠しつつ、作り笑顔を保つ。
 今の私は指輪をしていない。それでも指には長年の蓄積の跡が根付いていて、微妙な日焼けの所為で透明な指輪をしているみたいに見えていた。
「口に合うかな?」
そう聞きながら小皿を勧め、勝利がいつその事に気がつくかなって思ってた。私が着ている服は下品に見えない程度に襟ぐりが開いたカットソー。何も着けていない胸元。昔の様にゴージャスな指輪をこれ見よがしにネックレスに通してなんかいない事、彼は気がついてくれるだろうか。でも勝利の目が私の胸元に来る事は無く、時々社交辞令みたいな感じで目を合わせる、それ程度の成り行きだった。それが一変したのは子供達の一言がきっかけだった。
「美味しかったでしょう?」
コンポートの乗ったアイスの、アイスだけを先に食べた天仁が勝利に向かって言う。
「うちのママね、お料理が最高に上手なんだよ。だから」
その後に続く言葉は想像がついた。
“お父さんになって”
と。でも
「ずっと家にご飯に来れば良いのに」
ほんの少し私の予想が外れたあとに
「それって僕に君たちのお父さんになって欲しいって言う事かな?」
言い切ったのは勝利だった。
 この瞬間が来るだろうって思ってた。
 誰も他人の気持ちなんて分からない。私の望みは50・50のシーソーゲーム。勝利が切り出す言葉は全てが私に有利だとは限らない。
 ふっと真顔になった勝利に、子供達は目を釘付けにした。そして彼が言ったのは
「ご免ね」
の言葉だった。
「残念だけど、君たちの父親にはなれないって、そう思うんだ」
予想は、してた。でもやっぱり現実にその言葉を聞くと悲しくて、何か気の効いた言葉で子供達を慰めなきゃって思いながら、でももしかして誰より自分が慰めて欲しいって思ってるかもしれない、なんて親とは思えない情けない事を考え、スプーンを持つ手をぎゅっと握りしめていた。


   戻る     鏡 TOP   続く


                       あとがき


* もしよろしかったら ↓ クリックしてもらえるとかなり! 嬉しいです

          

   ♪ こちらも応援頂けると励みになります ♪

       にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
  ▲(1回/1日)    ▲(1回/1日)  


  オンライン小説/ネット小説検索・ランキング-HONなび      エッチ小説ランキング
  ▲(1回/1日)       ▲(1回/1月)      



                 
        


スポンサーサイト

 
 

Information

Date:2009/10/10
Trackback:0
Comment:5
Thema:自作恋愛連載小説
Janre:小説・文学

Comment

* お忙しい中

ありがとうございます~
息子さん、ひとまず大丈夫そうで安心しました。
予想外の展開・・・・まあ、経過が長いからそう簡単にはうまく行かないよね・・・
涼子ちゃん、相変わらず素直じゃないし・・・
大丈夫。しっかり見守りますからね!
今週末3連休なんですよね・・休み多くてありがたみが減ってます・・・・
2009/10/10 【kanon】 URL #F/BsZWm2 [編集]

* 初コメですっ

いつも更新楽しみにしてる18歳です。 少数派なのですかね(笑) 恋愛も人生も経験不足ですが 涼子と勝利の大人な恋がすごく素敵です(稔が一番大好きです!)。 大人だからこその障害も乗り越えて 幸せになってほしいな・ω・` 応援してます! 頑張ってくださいっ
2009/10/11 【みつ】 URL #- [編集]

* > kanon ちゃんへ

コメントいつもありがとう♪
30代の恋愛は20代の頃よりある意味頭が重くなっていて
複雑な気がします。
ですがここはひとつみんなが幸せになれるようなハッピーエンド向けて
頑張らなきゃ! です。

ちなみに私、子供から風邪もらっちゃいました。
連休中に治さないと!
2009/10/11 【廣瀬 】 URL #- [編集]

* > みつ様 はじめまして♪

いつも頂くコメント&メールのほとんどの方が、
お子さんいらっしゃるのですよ♪
他の作家さん達は明らかに10代と分かるコメントが多く
『コメント多くても、マナーの知らない人が滅茶苦茶多くって
むしろコメントもらっても……』(← オフレコね)
っておっしゃってました。で、
私は一度もそういった経験無いので
多分 10代の読者様は少ないだろうと当りを付けていたのです。

大げさですが、最後に読み終わった後、
読者様がご自身の人生でも希望を見つけられる様な
そんなラスト♪ 目指しています。

応援ありがとうです♪ 頑張りますからね~。

2009/10/11 【廣瀬 】 URL #- [編集]

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2009/10/12 【】  # [編集]

コメントの投稿







 ブログ管理者以外には秘密にする
  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。