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ストーリーズ・イン・シークレット

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77 小姑“ダディ”



『言い忘れていたけど、クリスマスには他の家族も集まるから』
それは後から彼に送ったメール。勝利はきっと、他の家族って言うのは私の兄弟か誰かだと思ったんだと思う。でも本当は違う。それを前もって言うべきかどうか悩んだけど、結局止めた。下手な入れ知恵はやめた方が良い。
 勝利がやって来たドア、温められた空気と冷えたが空気入り交じる。花籠を受け取り先を進む私に、子供達に引き連れられやって来るリビング。
「よう」
ソファの上には我が物顔でふんぞり返っているジョージがいた。
 ジョージは病気にかかっていると言えあいかわらずガタイもよく、格闘家の様な風貌で、当然私とは似ても似つかない。その彼の事を
「勝利。ダディの事、紹介するね」
子供達は屈託のない顔で引き会わせる。勝利はほんの少し動揺を見せ、
「始めまして」
と背中を丸めた。
「このおじさんはね、パパのいとこのおじさんで、僕たちが産まれる時から一緒にいてくれた人なんだよ」
「ずっと仲良しなんだ」
「だから僕たち、おじさんの事“ダディ”って呼んでいるんだ」
「でね、この人がね、勝利」
天仁が勝利の腕を引っ張り、ジョージがゆっくりと体を起こし前にかがみ込む。
「ああ、君ね」
コイツの前世は
“ぐうたらだけど風格だけはあるオスライオン”
だったに違いないって思ったね。
「こいつ等から」
ジョージは口元だけは微笑みながら子供達に顎をしゃくった。
「君の事、聞いてるよ」
“天仁を助けてくれたおじちゃん”
と。子供達の言い草はまるで
“スーパーマン”
あわや車にひかれそうになった天仁を、三回転半宙返りで登場した勝利が抱きかかえ、突っ込んできた車を飛び越しスタッと着地。そんなノリだった。
「あっ、はじめまして」
でも勝利はそんな
“武勇伝”
を語られているなんて知らないし、すっかりジョージに迫力に負けして、借りて来た猫みたいにちんまりしている。
「余田勝利と言います。ご縁が有ってお邪魔しています」
なるほど、折り目正しい彼は長い事営業畑にいますって感じ。典子の
『あいつ、実は出世株だよ』
の言葉はまんざらじゃなかったんだって思う。ジョージはまるでここが自分の家の様な態度で軽く片手を上げ
「よく来たな」
と一人がけの椅子を指差した。
「まぁ、座れば」
自分が他人に及ぼす影響力がどれほど強いか分かっている、男の優劣を示すゼスチャー。
「ありがとうございます」
それに対して勝利は素直に従った。
 全く、ジョージってヤツは忌々しいったらありゃしない。それでもこの“家族で過ごす”
クリスマスに彼にいて欲しいって思うのは、結局私はジョージが好きだからだし、コイツがいなくなったら私の人生のワンピースが無くなってしまう、そんな寂しさがあって、彼が元気でいる限り一緒に過ごしたいって思うからだ。それにもし勝利が家族になるんだったら、ジョージ抜きで家族になるって言うのは私的にも子供的にも無いだろうなって思うから。だから勝利にはちょっときつめでも、絶対につき合って欲しい人だった。
「この人ね、私達とは古い付き合いで……」
紹介しかけて
“私達”
ってのが子供じゃなくて稔の事を指しているって自分でハッと気がついて、その上
“古い”
ってどんなだよって思い言いよどみ、
「コイツの事は高校の頃から知っていて」
何とか逃れようと言葉をつないでから、しまったなって思う。
「その、稔とは、亡くなった旦那とは高校の頃からの付き合いで、その頃からの知り合いで」
私は言いにくい言葉を頑張ってはっきり聞こえる様に声を出した。
「さっき摩利も言ったけど、その亡くなった旦那のいとこで、私にとっては“小姑”みたいな人、です。正直嫌みな所はあるけど、悪い人間じゃないから」
なんとかそこまで何とか言い切って
『だから勝利もこの人の存在、認めてね』
って心の中で呟いた。
 そんな私に向かって
「ひどい言い方だな、涼子」
ジョージはわざとらしく名前を呼び捨てにする。それから勝利に向かって
「ま、今の所、この子達の“父親代理”って所だな」
と笑い、素早く私に含みのある目配せをした。
 それは
『分かっている』
のサイン。最初から写真家なんかしているジョージの目を誤摩化せるなんて思っちゃいない。きっとコイツの事だから一発で勝利の事を
“子供の父親だ”
って見抜いたんだと思う。現実の姿は意外とそうでもないけれど、写真に写した時の天仁は、目元や笑い方、全てが勝利に生き写しだ。
「そう、今の所はね」
私は皮肉っぽく聞こえる声でそう答える。
「ま、あんたは一生“ダディ”のままで頑張って頂戴ね」
とりあえず一息つきたくて、勝利には悪いけど
「料理仕上げちゃうから、しばらくみんなで遊んでてね」
私はキッチンに逃げ込んだ。
 今日は家族のクリスマス。稔がいなくなってから二回目のクリスマス。去年はがらんとした部屋が寒かった。うつ向き気味なジョージと、カラ元気で振る舞う子供達。でも今年は少しいい感じ。
 子供達は屈託なく、勝利もジョージも程よい距離で遊んでいる。オーブンの中からはチキンの焼き上がる良い香りが漂い、冷蔵庫の扉の向こうでは苺のケーキが出番を待つ。私はキッチンのカウンター越しにボードゲームを囲みながら微妙な小競り合いをしている四人を眺め、今の幸せを感じていた。そんな中
「うわっ! 何で婚約指輪に給料の二倍も払うんだよ!」
人生ゲームの一コマで天仁が絶叫し、
「そういうものらしいよ~」
摩利が
「諦めろ」
と言う。しかもついでに
「やっぱ勝利も婚約指輪買うの?」
とか言い出して。
「勝利の給料つてどれぐらい?」
身を乗り出した天仁が、偽のお金を払いながら問いかける。
「秘密」
勝利は今度は動揺せずに切り返し、ルーレットを回した。
「やばっ! 俺“人生最大の賭け”だって」
「うわっ! 勝利、頑張れ!」
騒ぐ二人に
「大丈夫。俺、勝負強いから」
なんて、チラッと私の方に投げかけられる視線。何だか勝利らしくない言い方だけど、ジョージがいるからあえてそんな感じなのかもなって思う。
「強気じゃん」
ちゃかすジョージに
「負ける気、しませんから」
勝利は笑って答えてた。
 やがて卓ちゃんが
「遅れてゴメン」
とやって来る。
「待ってたよ、お兄さん!」
子供達が勝利に卓ちゃんを引き合わせ
「僕達の“お兄さん”」
顔を見合わせクスクスと紹介する。
「本当のお兄ちゃんじゃないけど、でもお兄ちゃん」
いつもジョージと一緒にいる卓ちゃんは、成り行き的にそう決まっていた。
「僕たちね、意外と家族が多いんだよ」
それから鳴らされたクラッカー。子供向けのなんちゃってシャンペンを綺麗なグラスに注ぎ、みんなでポンポンのついた赤い帽子を被り乾杯をする。子供達が先頭になって歌うクリスマスソング。行き交うプレゼントの箱。カラフルなリボン。
「お爺様とお婆様からも届いてるよ」
稔の両親にはお正月には会いに行く。でもその前に必ずこうしてプレゼントが届いた。
「僕たちって幸せだね~」
「来年も沢山プレゼントもらえると良いね~」
子供達はケーキを片手に床に広げたプレゼントで遊び出し、勝利やジョージに向かって見せびらかし始めた。
 勝利からのプレゼントはプラネタリューム。それからそれに合わせたCDだった。灯りを消したリビングに星が降り、柔らかなメロディーが流れる。ジョージからは昆虫の写真集が二冊。卓ちゃんはお揃いのおしゃれなリュック。稔の両親からはレゴブロックで、私の両親からもレゴブロック。しかも同じシリーズで違う種類。まるで示し合わせたみたい。そして私は二人が欲しがっていたアニメのDVDをプレゼントに包んだ。ちなみに毎年現れる
“謎のサンタさん”
は、24日の夜に一年間のアルバムを届けてくれるのが習わしだった。
 当然、子供達から大人への手作りのプレゼントも披露され、私達は折り紙で折ったパンダや花を受け取り、その小さいなりに頑張っている作品にうふうふと笑い合った。
 そしてなぜかクリスマスツリーの下には紙袋が一つ残っていて、それに気がついた天仁は
「これ、誰の?」
と頭を突っ込んだ。
「あっ、それは、ママへのプレゼント……」
少し気まずそうに勝利が手を上げ、その紙袋がバケツリレー方式で私の所に届けられる。もしかしてネックレスかなって思ったけど、大きさが違う。じゃぁ定番でバックかな、なんて思いながら
「ありがとう」
受け取ったそれは意外と重くって、
「え? 何?」
私はみんなの見つめる中で綺麗にラッピングされたプレゼントを取り出し、その淡いブルーのリボンを引っ張った。すると
「可愛い!」
中から出て来たのは陶器で出来た双子の男の子。多分リヤドロ。透明な肌にほんのりと色づく頬、柔らかな曲線に可愛らしい仕草。これってまるで赤ちゃんが産まれたお祝いみたいだよって思いながら
「ありがとう」
を言う。掌に乗せた二人はまるで摩利と天仁の小さかった頃みたい。それはほんの数年前の事なのに、物凄く懐かしいって思う、綿菓子の様に甘い思い出。
 子供達は再び自分達のプレゼントに没頭し、私はそっとその場を離れ陶器の双子をダイニングテーブルに飾った。そのプレゼントをずっと眺めていたいって思ったけど、みんなの視線が恥ずかしくってそれは出来なかったから。それからテーブルの上の空いた皿を持ってキッチンへ行くと、ジョージが
「手伝うよ」
とか言ってやって来て、片方の眉を引き上げた。その含み笑いに
「なによ」
私はつっけんどんに返事をする。勝利の事を言いたいんだろうなって事は分かってた。
「別に~」
からかう様な間延びした声。ジョージは洗い物を手伝うフリで私の肩に自分の肩をそっと押し当て、
「好い男そうじゃん」
彼らには聞こえない様な声で囁いた。
「まあね。天仁の事助けてくれたし」
私はふとジョージから目をそらした。コイツが何を言いたいのか分かっているって事を伝えたかったけど、なかなかそれは言葉に出しづらく
「それに、ほら、その」
“見れば分かるでしょう?”
なんて。するとジョージはにんまりと笑い、こっそりと視線を送ってきた勝利に向かって片手を振ってみせた。
「実の父親だし?」
コイツは私が言いにくいと思っている事をさらりと口にした。
「ま、まぁね」
すると
「何照れてるんだよ、らしくない」
ジョージは勝利から目をそらさないまま含み笑いをする。
「でもまぁ、何で今更ってのが俺の正直な感想だけど、な」
「あっ、うん、そうだよね」
ジョージはかなり性格ひねくれてはいるけれど、彼なりに私達親子を愛してくれているって感じてた。本当はもっと近くに居たいって思っているっているのに、最近では私が彼氏を作れる様にって、あえて距離をおいているって事ぐらい知っていた。そう、正に本物のお兄さん、男の小姑だ。だから、一度破綻した恋人同士が上手くよりを戻せるなんて、そんな夢見がちな事は現実には起こらないって疑っているに違いない。
「お前とあの男を見ていて、焼けぼっくいに火がついたって言う感じとは違うんだよ。子供が出来た時にどんな経緯が有ったかは聞かないけどな、お前があいつと一緒にならないって選択した訳ってヤツが有るはずだろう? なまじ好い男っぽそうに見えるから、そこがさ、余計に引っかかっていると言うかなんと言うか」
ジョージは彼らしくない感じで曖昧な言い方をした。
「分かってる」
コイツの気がかりは手に取る様に分かる。
「ご免ね、心配かけて」
すると
「本当に、らしくないなぁ」
ジョージはさもおかしそうに笑った。その声に勝利が振り向きかけ、それをぐっと堪える気持ちが彼の背中から伝わって来る。
「お前も惚れた男を相手にすると人が変わるんだな、分かったよ」
それから軽く手を拭くと
「さて、アラ探しついでに虐めて来てやるか」
とキッチンを後にした。


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         あとがき



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 みんなで静かに言葉の続きを待った。勝利はほんの少し身を乗り出し、組んだ手をゆっくりとテーブルの上に乗せると、左右に座っている子供達の顔を交互に見た。穏やかな表情。それから一度開きかかった口元がきゅっとキツく結ばれ、次に両方の口の端を少し持ち上げ、笑っている様な顔つきで話をつなげた。
「とっても大事な理由があるから」
と。
「君たちが俺に
“お父さんになって欲しい”
って言うのは、君たちのママと一緒に……」
この時彼は少し言いよどみ、言葉を変えた。
「君たちのママと俺が結婚して、四人で暮らす事を言っているんだよね?」
「うん、そう」
間髪を入れない返事が天仁の口から返って来る。
「勝利と一緒にご飯食べて、一緒にお風呂入ったり、遊んだりするの」
そこに摩利が
「ママのご飯、美味しいでしょう?」
可愛らしい声でとってつける。
「ねぇ、勝利。それじゃぁ駄目なの? 勝利は僕たちが嫌いなの?」
不満そうな顔で天仁は結論を急ぎ
「僕たちは勝利の事、大っ好きなのに」
くちばしを尖らせ手にしていたスプーンをアイスの皿に投げつけた。そんな天仁に勝利は左手を伸ばし、その小さな拳を自分の掌の中に収める。少し驚いた様な彼の顔をよそに、勝利はもう一方の手を摩利に伸ばし、固く握りしめられていたそれをつかんだ。三人の視線が当惑と安堵を混ぜ合わせながら行ったり来たりしていた。そして努めて軽やかに言った。
「君たちが嫌いな訳じゃない」
ずしんと心が重くなる気がした。彼が言いたいのは
『子供は嫌いじゃないけど、母親が嫌いだ』
ってことなの? ふと目の前のピンクのバラの芳香が鼻先をかすめ、キレイであればキレイな程、忌々しいと思った。ここまで来て、やっぱり少し期待していた部分も有って、ぬか喜びしてた部分が私には有ったから。仕方が無いよなって、子供の前で泣き出したくなんか無いから、頑張って笑顔作る私に
「君たちのママの気持ちを考えなきゃいけないって事だよ」
の声が届いた。
「それにね。もしも僕が君たちの“お父さん”になるとしても、その前にとっても大事な事があるんだよ」
そして彼はゆっくりと一呼吸をおいた。
「君たちのママと俺が結婚する事が必要になるんだ」
二人が頷く様子を確認してから彼は話しを進めた。
「君たちのお父さんになるためには、君たちを一旦別において、俺とママが仲良くならないといけない。この家族の中で、君たちだけを取り出して俺がお父さんになる事はできなくて、むしろママと俺だけが先に夫婦になる必要があるんだ。分かる?」
もしかしたらその意味は子供達には難しいかもしれない、そう思ったけど、二人はうつむきながら頷いた。すると勝利はふと体を低くし、二人を下から覗き込む様な仕草で話しを続けた。
「ところで結婚式って、どういう事をするか知っている?」
天仁は大きく首を振り、摩利がぼそぼそと呟いた。
「“お互い一生大事にします”
って誓って、指輪の交換をするんだ」
「その通り。摩利君の言う通りだね」
彼は右の手を軽く持ち上げ、摩利の手を握手する様に軽く振って見せた。
「その時にはね、結婚する二人が一生相手を大事にしますって約束するんだ。世界中の誰よりも、その人を愛しますって」
彼の視線が一瞬持ち上がり、私に向けられそうになる。でもすぐに子供達に戻されて。
「人を愛する事に順番だとかって無いはずだけど、でも本当はあるんだ」
今度は握っている天仁の手をぎゅっと握りしめるのが分かった。
「例え君たちのお父さんになりたくてママと結婚しても、結婚したら俺は君たちよりもママの事をもっと大事にしてあげたいと思う。君たちは俺にとって二番目で、ママが一番になる。もし君たちのお父さんになれたとしても、世界で一番君たちを愛してあげる事はできない。だからきっと、君達が望んでいる様な
“理想のお父さん”
になる事は出来ないと思う」
ここに来て初めて彼が何を言いたいのか分かった私だった。これって愛の告白ってヤツだ、そう思いながら彼が子供達に向かってこんな話しをするとは思わなかった。だって彼がしているのは、まだ幼い子にしてみれば
『嫌い』
に等しい言葉だったから。戸惑い何も言えずにいる私の前で
「それって、僕たちよりもママの方が大事だって事?」
今度は聡い摩利が勝利の手を引っ張る。
「そう言う事に、なるね」
柔らかな、それでいて悲しそうな勝利の声が私に向かって響いた。
「僕、よく分らないや」
顔をしかめる天仁に
「勝利は僕たちよりもママが好きなんだって。だから僕らのお父さんになるより、ママと結婚したいんだよ。でもママにはそんなつもりが無いからどっちにしたって駄目なんだ」
いきなり摩利は話しを飛ばした。私は慌てて顔を上げたものの、迷いの中で沈黙を続け、寂しげな笑顔を保ったままの勝利を見た。
「それに近いかな。だからね」
彼は静かな落ち着いた声で話す。
「何よりもママの気持ちを大事にしたいんだ」
言葉は子供達に語られながら、でも本当は私に言っているんだってそう感じる。
「結婚をして、君たちのお父さんになるためにはまずママの気持ちが大切だよね。でも二人とも分かっている様に、ママにはとっても大切な人がいる。それは君たちにとっても同じだと思うけど、ママにとって亡くなったパパは一生愛し続けますって誓い合ったぐらい特別な人だから。その大切な人よりも俺を選んで欲しいなんて簡単にお願いなんか出来ないだろう? それに君たちだってママに無理強いしたくなんかないだろ?」
彼が噛みしめる様に話す内容はとっても的を得ていて、子供達にも分かる様なこと。でもそれだけじゃなくて、私や子供達に対する気遣いに満ちていた。誰も傷つかない様に、みんなが納得できる様に。それでも彼は自分の気持ちをはっきりと告げていた。
 なんでだか急に、都合のいい話しだけど、勝利の事を好きになって良かったって、本当に調子のいい話しだけどそう思った。
「余田さんは子供達の父親になりたいの?」
これは私なりの牽制。彼は子供達の手をもう一度握りしめ
「それは、なりたいさ」
“どうして?”
とでも言う様に首を傾げた。
「この子達はとっても可愛くて、でも逞しくって。甘い父親になって他の大人に叱られそうな予感は有るけど、でも、全身全霊、摩利君と天仁君を宝物にしたいって思っているよ。でもそれだけじゃ父親になれない」
その目は今日ここに来てから初めて真っ直ぐに私を見つめた。
「君が大事にしているものを、僕が無視する事は出来ないよ」
その目があまりにも綺麗に澄んでいて、
「狡いよ」
思わずそう呟き、なぜだか涙が溢れ出す。
「狡いよ」
って。勝利の愛は純粋で混じりけが無かった。その心があまりにも綺麗すぎて、私の目は眩みそうだ。
 子供の前でみっともないって思いながら、涙は止まらない。それどころか後から後から沸き上がり。どうしてこのタイミングで泣いてしまうんだろうってくらい、私にもコントロールできなくて。もしかしたらこれは七年分の涙かなって思った。
「ママ、どうしたの?」
子供達の心配そうな声。すると彼はまたしても
「ご免」
そう謝った。過去に何度も聞いた誤りの言葉。私は何度彼に謝らせれば気が済むんだろう。
「こんな風に涼子の事、追い詰める気なんか無かったから」
そんなんじゃない、そんなんじゃないと言いかけ、でも涙が邪魔して声を出せず。
「ご免」
彼はテーブル越しのその言葉を最後に立ち上がった。
「今日はもう、帰ります」
私の横には困った顔の子供達がいて、指の間から見上げる勝利さえも泣き出しそうな瞳で私達を見つめ、それから背を向けた。
 引き止めなきゃって。戸惑う子供達を脇に抱えながら玄関まで彼を追いかける。ぐちゃぐちゃになったメイクと止めどない涙。
「じゃあ、今晩はこれで」
小さく頭を下げる勝利に
「僕は二番目でも三番目でも良いよ」
私よりも先に声をかけたのは摩利だった。彼は私の体にぎゅっとしがみつきながら、はっきりした声で勝利を引きつけた。
「別に一番じゃなくて構わないし、それにママもきっと勝利の事、好きだから。パパより上だとは思わないけど、でも嫌いじゃないよ。だからまた遊ぼうよ。僕、勝利にお父さんになってって、もう言わないから、だから、遊んで。僕は勝利の事、大好きだから」
その言葉を耳にした彼は眉間に浮かべ皺をゆっくりとほどき、大きく目を開いた。彼の震える手が摩利の頬をそっと撫で、熱を加えたバターみたいに目元が溶け出し、暖かい微笑みに変わる。
「ありがとう」
そんな勝利と目が合って
「クリスマスに」
それは二人同時に飛び出した言葉。
「あっ、その、お先に」
ちょっと肩をすくませる様に頭を下げる彼に
「んん、勝利から、先に言って、お願い」
擦れる声でそう言った。
 ほんの少しの沈黙の後、子供達が見上げる中で彼はすっと肩の力を抜き頭を伸ばすと、その柔らかい笑顔を崩さずに
「さっきの話しだけど、その、いろいろややこしい事を言ってしまって、困らせてしまったけど、でもクリスマスに、もし都合が良かったら、もしその気になったらで良かったらなんだけど、呼んでくれるかな? 毎年そこのスケジュールは空いているから。その、もし良かったらだけど」
なんて控えめな言い方なんだろう。彼らしいと思いながら、私は涙を流したままでほんのりと笑っていた。
「ぐっ、偶然ね。私もそれを言いたかったの」
彼の視線ははたと天仁の肩を抱く私の手元に釘づけになっていた。そして視線が私の胸元へと移動し、驚いた様に小さく息を飲んだ。こんなに思い詰めてやって来て、帰り際のこのタイミングで気がつく彼って、鈍感かも、なんて少し余裕が出て来た私はそう思った。
「この家でするクリスマスね、25日の夜にしようかと思っているのよね。で、丁度金曜日だし、だから、その、良かったら、また来てくれる?」
さっきまで困りきった顔をしていた子供達が、突然天使の様な顔を浮かべ私を見上げた。勝利はおずおずと
「その、子供達と、みんなにプレゼント、持って来ても良いのかな?」
と聞いて来て。
“七年分のクリスマスプレゼント、持って来てよ”
って言いかけ、心の中に留めてみた。それはきっとこの子達の誕生日に言う事になる言葉だって予感が有ったから。その代わりに出て来たのは
「私の分も忘れないでね。あっ、でも指輪とかアクセサリーを選ぶんだったら、私も一緒に行くから」
ああ、なんてあいかわらずな言い草。どうして私はここまで来て
“傲慢な女”
っぽいセリフ言ってるんだろう。でも彼は満面の笑顔で私に応えてくれた。
「指輪を選ぶ気になったら、その、一緒に、絶対一緒だから」

 そしてクリスマス。彼は沢山のプレゼントを持ってやって来た。大きな紙袋二つにこの前よりも大きな花籠。彼は
「やっぱり諦めきれなくて、君たちのママを説得しに来た」
と子供達の耳元で囁いて、彼らを味方にした。



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              あとがき


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75 キーワード 



 緊張していて、でも嬉しくって
「ありがとう」
の言葉がつまる。
「ピンクのバラね、大好きなの」
“欲しかったの、よく分ったね”
とか
“高かったでしょう”
なんて彼の事持ち上げて大げさに喜ぶのが女のお作法かもって思いながら、私は10代の女の子みたいに甘い気持ちを噛みしめるのに夢中だった。
 そんな私よりも子供達の方が気が利いていて
「いらっしゃい、勝利」
「早く上がって。手洗いうがいしたらこっちおいでよ」
甘える様に見上げながら、玄関で私の出方を探っている勝利の手を
“大歓迎”
の仕草で引っ張った。我が子ながら本当にこの二人は無邪気で可愛いなって思う。勝利の口元は彼らに向かって笑いかけ、それでいてどうすれば良いのか迷っているらしく、そっと私に向かって目配せをする。直接
“どうぞ、入って”
って返事すれば良いんだろうけど、今更の様にどきどきしちゃってて、彼によく思われるための演技はむしろできなくなっていた。だから
「二人に案内、頼んだわよ」
ぶっきらぼうだなって思いながら、さももらったブーケで手一杯、みたいな仕草でこの場を子供達に任せた。
 私は稔を見送った時のマンションに今でも住んでいる。だから最後に彼がこの部屋に来た当時のまま、車いすでも場所をとれる様な大きなダイニングテーブルを使っていた。その真ん中にブーケを飾ってみんなを待つ。何だか特別な日って感じ。これって子供達の誕生日みたい。
「お邪魔して、良かった?」
テンション高めの子供達に引きずられ、勝利がリビングにやって来る。花を買わせておいて
『帰れ』
なんて言わないよって。彼も緊張しているんだなって思いながら
「夕ご飯、食べていける?」
脱いだコートを抱えたままの彼に手を伸ばし
「あっ、お願いします」
服を受け取りながら返事を聞く。それってコートの事なのか食事の事なのか分からないよって思いながら
「それじゃぁ30分ぐらい待っていてくれる? できたらそれまで子供達と遊んでくれていたら助かるんだけど」
とソファを指差した。
「とりあえずコーヒーで良いかな?」
今晩お酒は用意していない。再会してからの私達はいつでも子供も一緒だからなのか、車じゃないって分かっていても一度もアルコールを口にした事が無かった。きっとお互い、酔った勢いで初めての夜みたいに馬鹿な事になってもいけないし、子供達の前で失言なんかしたくないって気持ちが有ったんだと思う。
「あっ、はい。お願いします」
台所に入った私に、ソファに座ろうと腰をかがめかけた勝利が振り向き頭を下げ
「僕いれる!」
天仁がキッチンにやって来る。家にあるコーヒーメーカーは一杯毎にいれるエスプレッソタイプ。子供達はまだ飲めないけどそれでも機械に興味津々で、私が飲む時にはいつも交代で入れてくれる。それをやりたいと言っているのだった。
「じゃぁ僕、運ぶ人」
摩利はどこまでもお兄ちゃんだ。
 おずおずとカップを口にする彼と、ワクワクしている子供達。
「美味しい」
当たり前と言えば当たり前な感想を、子供達は全身で嬉しいと喜んでいる。
「ねぇねぇ勝利。良いもの見せてあげようか?」
二人はソファの真ん中に勝利を座らせ、両側から挟みながらニヤニヤしていた。
「ねぇ、ママ。勝利にだったらアレ見せても良いでしょう?」
多分アレだなって想像がついた。だって子供達は家に帰って来てから服をよそ行きに着替えていたから。摩利は緑で天仁は赤。クリスマスを意識したヨーロッパ製のさりげなく豪華なハンドメイドのベストは彼らのよく似合っていた。
「良いよ。おじさんにだったら教えちゃちゃって構わない」
「やったぁ!」
喜ぶ子供達に、
「え、何かな?」
戸惑う勝利。
「じゃじゃ~ん」
案の定テーブルの上には子供向けファッション誌の最新号が乗せられて、紙に癖がつく程何度も見返されたページがぱっかりと現れる。
「これ僕ね」
巻頭の見開きページには二人の大きな写真。
「これ、僕たち。凄いでしょう?」
「ママがね、人には言っちゃいけないって言うけど、勝利は特別」
「僕たちお写真の仕事をしているんだよ」
無駄にひがまれるのは嫌だから、モデルしてるって事は他の人には話すなと日頃から厳しく言い聞かせている。その所為か勝利に話せるという事だけで嬉しいらしい。彼らは写真のあちこちを指差し、思い思いにしゃべりまくっていた。
「このシーン、コートなんか着てるけどね、夏に写真撮ったんだよ、夏に!」
「大変だったんだから。汗だくだよ」
「しかも夏にクリスマス特集撮るってんだから酷いよね。子供の夢を壊すなよって感じでしょう?」
そう言いながらこの時の撮影では二人とも妙に気合いが入っていたなって思い出す。そして
「あれ? 今着ている服って」
当然の様に二人が着ている服が写真のものだと同じだと勝利も気がついたらしい。
「そう、正解!」
「僕達ね、他の子達と違って
“暑い”
って一回も言わないで頑張ったんだよ」
「そのご褒美にって、僕たちだけスペシャルって言われて、これ、みんなの前でもらったんだよ、ね~」
「ね~」
二人はいかにも双子にありがちな、同じ動作をするって練習をしょっちゅうしていた。だからこういうときの息はぴったりだ。
「少し早いけど、クリスマスに何でも好きなものが手に入る様におまじないって、もらったんだよね~」
「ね~」
私は業界というものに全く興味はないけれど、子供達にとってはあの戦いの世界がとても魅力的な世界らしい。彼らはさも自慢げにベストを見せびらかしていた。すると
「凄いね」
勝利は一瞬目を見開いたあと、ふわりと目を細め
「君たちはプロなんだね」
二人が一番喜ぶ言葉を口にした。
 それからというもの、子供達は古い雑誌やアルバム等をテーブル一杯に並べ出し、
「僕たち、小ちゃかった頃はさぁ」
なんて、大人が聞いたら吹き出しちゃうような解説を目を輝かせながら話し始めた。そんな屈託の無い子供達の姿に、私の緊張は少しずつほぐれて来ていた。それなのに。お客様がいても躾は躾だからお手伝いはさせた方がいいよな、なんて事を考えながら
「もうすぐご飯できるから。摩利も天仁も、用意手伝ってね」
いつもの様に声をかけ
「は~い」
「分かったぁ」
いつもの様な返事を聞いた。その時、
「ああ、そうだ」
勝利は普通の声で子供達に問いかけた。それは何気ない一言の様に聞こえた。
「君たちのパパに挨拶させてもらえる?」
彼が何を言ったのか、分からなかったのは私一人。もしや空耳? なんて盛りつけかけていたハンバーグがフライ返しの上で宙に浮く。立ち上がった子供達は
「いいよ~」
何とも言えない軽い響きのあと、キッチンから見て正面の壁側にある稔の仏壇の前まで勝利を案内した。
「ここに居るよ」
と。
 私は料理を続けるフリをしながら、三人の背中を盗み見る。
「これがご仏壇なの?」
やっとの事で届く不思議そうな声音。
「うん、そうだよ。格好良いでしょう?」
子供達にとってはそこが重要らしい。
「ここをこうして。ほら、これがパパ」
きっと開け放たれた扉から、私が数時間前に焚いたお線香の残り香が勝利の鼻に届いているに違いないって思う。彼の顔は見えないけれど、背中がぴくんと揺れていた。でも子供達はそんな事に構う事無く
「これね、明るくなって、ホタルみたいに光って、とってもキレイなんだよ」
まるで自慢するかの様に見せびらかしている。その声はとても誇らしげだ。
「天仁、ランプ点けてよ。僕は灯り消すから」
「うん」
天井の照明が消え暗くなった部屋の中、仏壇の内側からもれる柔らかな光。
“灯籠流し”
みたいな影が部屋の壁一面に広がって。
「キレイ」
を繰り返した子供達と、
「そうだね」
を呟く後ろ姿。勝利は少し頭を垂れ背中を丸くし、両手を前の方へと引き寄せる。つられて子供達も手を合わせる仕草をし。
「ありがとう」
私は心の中で呟いた。届かないって分かってるけど、何でだか稔と勝利、二人に向かってそれを言っていた。
 やがて部屋に灯りが戻り、それと一緒に子供達もスイッチが切り替わったらしく
「お腹ぺこぺこ」
キッチンに駆け込んで来て
「あ~、これ大好き! やったぁ!」
「お盆、運ぶ!」
いつもと変わらない騒ぎを始める。振り返って彼らを見つめる勝利の顔には穏やかな微笑みが浮かび、みんながリラックスしている様だった。それなのに私だけが
「うん、そうだね、よろしく」
複雑な気持ちを抱え緊張を続けている、そんな感じだった。食事をとりながら、子供達を注意しながら、おしゃべりしながら。箸を動かし皿を持つ度にいつもの自分に戻れない苛立の様な焦りのような不思議な気持ちを隠しつつ、作り笑顔を保つ。
 今の私は指輪をしていない。それでも指には長年の蓄積の跡が根付いていて、微妙な日焼けの所為で透明な指輪をしているみたいに見えていた。
「口に合うかな?」
そう聞きながら小皿を勧め、勝利がいつその事に気がつくかなって思ってた。私が着ている服は下品に見えない程度に襟ぐりが開いたカットソー。何も着けていない胸元。昔の様にゴージャスな指輪をこれ見よがしにネックレスに通してなんかいない事、彼は気がついてくれるだろうか。でも勝利の目が私の胸元に来る事は無く、時々社交辞令みたいな感じで目を合わせる、それ程度の成り行きだった。それが一変したのは子供達の一言がきっかけだった。
「美味しかったでしょう?」
コンポートの乗ったアイスの、アイスだけを先に食べた天仁が勝利に向かって言う。
「うちのママね、お料理が最高に上手なんだよ。だから」
その後に続く言葉は想像がついた。
“お父さんになって”
と。でも
「ずっと家にご飯に来れば良いのに」
ほんの少し私の予想が外れたあとに
「それって僕に君たちのお父さんになって欲しいって言う事かな?」
言い切ったのは勝利だった。
 この瞬間が来るだろうって思ってた。
 誰も他人の気持ちなんて分からない。私の望みは50・50のシーソーゲーム。勝利が切り出す言葉は全てが私に有利だとは限らない。
 ふっと真顔になった勝利に、子供達は目を釘付けにした。そして彼が言ったのは
「ご免ね」
の言葉だった。
「残念だけど、君たちの父親にはなれないって、そう思うんだ」
予想は、してた。でもやっぱり現実にその言葉を聞くと悲しくて、何か気の効いた言葉で子供達を慰めなきゃって思いながら、でももしかして誰より自分が慰めて欲しいって思ってるかもしれない、なんて親とは思えない情けない事を考え、スプーンを持つ手をぎゅっと握りしめていた。


   戻る     鏡 TOP   続く


                       あとがき


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ご挨拶

はじめまして。

ストーリーズ・イン・シークレット
へようこそ ♪

このサイトには
甘くてほろ苦くて少し辛味のある
大人の女性向けの
オリジナル恋愛小説をメインに置いています。

タイトルの通り
ちょっと秘密めいた 内緒のお話 ♥ です。

こだわりは リアリティ。

普通の人の普通の暮らしの中にある
普通の感情を大切にしたいと思っています。

一人一人が内側に秘めた感情や生き方、
他人の目には触れる事無いその深い部分、
描いてみたいと思っています。


 必読!! 

作品には年齢制限が有ります。
その年齢に達していない方はご遠慮くださいます様お願いします。

また人間の感情を表現する事に力を入れています。
例えば、苦しみや悩み、辛さと言った事です。
そのような痛々しさをご承知の上で読んで頂ければと思います。


      ご納得の上 ぜひ 小説のページ 開けてみてください。
      読み終わった後、一番最後に幸せな気持ちが残る様なお話を用意して
                   お待ちしています♬
      



 25歳以上の女性の方へ   

女性のセクシュアリティについて 

イン・シークレット

こちらのサイトで熱く語らせて頂いています。
もしお時間がありましたら、ぜひお立ち寄りください。
お待ちしています。

                廣瀬 流が留  2009/ 02/ 02


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74 金曜の夜


 あの頃、体だけの関係だった頃、私たちが会うのは決まって金曜の夜だった。薄暗がりの中で待ち合わせ、誰にも気づかれない様にそっと闇にまぎれネオンをくぐる。ひっそりと素早く二人だけの世界に堕ち、表面だけをすり合わせながら、一番大切な部分は決して明かさず。私は夜の支配者で、勝利の上に君臨しているかの様に見せていた。そのくせ寂しくて、セルロイドでできた人形の様な時間を過ごしていたものだった。
 それなのに再会してからの私達は、これ見よがしな程昼の世界を歩いた。みどりの芝生、煌めく噴水。子供達の嬌声。さざめく木々の葉に、吹き抜ける風。それは子猫を抱きしめる様な暖かな感触。真昼のバンパイアは憧れた世界をついに手に入れたかの様に見えていた。
 そして今晩、この金曜の夜に彼が来る。マンションに彼が来るのは始めての事で、電話越しに渋る勝利を
「今インフルエンザ怖いから外に出たくないの。お願い。子供達が心配だから」
彼の弱点を知っていて、強引に誘う。
『よりによって別れ話をしたいと言っているその時に、初めて自宅に誘うなんて』
彼はきっと複雑な気持ちでいるに違いないよなって思った。それでも私は
「時間は夕方の六時ね」
仕事が忙しいって分かっていて、たたみかける。会社からここまで、時間に間に合う様に帰るには五時半には退社しないといけない。それでも今回だけ。今回だけは我が侭を聞いて欲しかった。
『わかった。それじゃあ金曜日に』
ため息を隠しながら頷く彼の声。
「ありがとう」
私はほっとした声を出していた。
 そして約束の日、子供達を学校に送り出した私は今夜の料理にとりかかる。基本肉じゃが。茄子の煮浸しに、青じそを巻いた一口サイズの照り焼きハンバーグ。みそ汁は夜に作るとして、ご飯は糠漬けを刻んで作る炒飯だ。
『これを出されて嫌いだって言える男がいる?』
ってなメニュー。三日間ずっと考えて、昨日の買い出しでやっと決まった献立だった。くつくつと鍋の煮込まれていく音がキッチンに響く。長葱を刻んで混ぜたハンバーグのタネはあとは寝かすだけ。昨日のうちに作っておいたデザートのリンゴのコンポートはシナモンと一緒に冷蔵庫で出番を待っている。
 思いのほか早く仕込みが終わっちゃって手持ち無沙汰になってしまい、気の向くまま家の中を掃除しまくった。キッチンにテーブル。床に窓ガラス。それからソファの下にテレビの裏側。まるで大掃除。
 彼がやって来る。決心を抱えやって来る。家中には甘辛い香りが漂って、三人掛けのソファァにはふかふかのクッション。家全体が
“ここは家庭だ”
ってアピールを精一杯していた。
 私がやっている事って子供っぽいなって思う。でもやらずにはいられない。この家に足を踏み込んだ勝利が
『ここに居たい』
そう思ってくれる様に。本気で別れると決めた彼の気持ちが揺らぎます様に。想いを言葉にする前に、彼にこの家にいて欲しいって事が伝わります様に。今まで足りなかった私の努力が、もう少し前進を見せてくれます様に。
 ふと気がつくと時計の針は午後の一時半を回っていた。
「何だかお腹空くね」
私は子供用の甘いヨーグルトのカップを二つ平らげ夜に備える。
 それから手を綺麗に洗ってリビングのチェストの上に飾っているドーム型のオブジェに近づいた。
「ねぇ、稔。私の事、応援してね」
それは一見
“かまくら”
みたいに見える白い形をしていて、ルームライトみたいに光らせる事ができた。でもそれには窓がついていて、左右スライド式で中が開く様になっている。磨りガラスの様なその表面に指をかけそっと開くと、懐かしい顔がにこやかに私に向かって微笑んで。その写真の両脇には陶器でできた白い菊の花が飾ってあった。そう、これは稔の仏壇だった。
 彼の遺骨は乃木の実家に収めていた。もちろん、本家代々の仏壇に彼の位牌も安置されている。でも私は私で彼の存在を近くで感じていたかった。だって彼は私達の天使だったから。今でも生活の一部で、私達の事を見守っていてくれているって信じてた。
 その彼に手を合わせ、写真の奥に仕舞っていたビロードの小箱を取り出した。ゆっくりとふたを開けると、中には真っ白いクッションに指輪が一つ。
「懐かしい」
それは私がしている結婚指輪の片割れだ。そっとつまみ上げ目の上にかざし、失われていない輝きに思わず笑みが浮かんでしまう。私達は
『死ぬまでお互いを大事にする』
と誓い合い、この指輪を交わしていた。そして彼が死んだ今もなお、私達の愛は生きていると思う。私は思わずいたずらし、彼の太い指輪を左の薬指に重ねる様にはめてみる。当然ぶかぶかだったけど、そのどっしりとしたラインの重なりは不思議なくらい美しかった。私は笑顔を消せないまま指輪を外し元の場所へと戻した。
「でも、ご免ね。私もそろそろ決心して自分の人生歩くよ。稔にだけ頼って生きていくのは卒業しようかなって思うんだ。それに勝利との事が上手くいかなくても、その時はその時で、またいつか本当の恋ができる様、頑張るから」
そして私は自分の指輪を外した。指輪はあっけなく私の指から滑り落ちる。結婚して随分指が細くなったらしい。内側を見ると、確かに私達の名前が刻んである。
“M to R with Love”
これは宝物だ。箱のふたを閉めながら、摩利と天仁が成人する時に一つづつプレゼントにしようかなんて考える。そしてふと気がついた。あの頃、私は勝利のことを
“M”
って呼んでいたんだっけなって。
 
 子供達は急いで帰って来たらしく、軽く息を弾ませながらマンションのドアを開けた。
「ただいま!」
「勝利は、まだ?」
彼が始めてこの家に遊びに来てくれると話したのは今朝の事で、その事がよっぽど嬉しいらしかった。
「手洗いうがいを済ませてね。それから宿題終わらせないと、彼が来ても遊ばせてあげないからね」
大騒ぎの彼らを洗面所に追いやり、ランドセルの中から洗濯物を取り出す。
『天仁を助けてくれた人と、それなりに仲良くやってるよ』
そんな事をジョージに告白したのは七夕の前の事だった。
『へぇ~、やるじゃん』
彼はそう言って私の頭をポンポンと叩き
『まぁ、お前も猫被ってればそこそこ良い女だから、上手くいくかもよ』
と笑い
『頑張れよ。ちょっと子供達から話は聞いてたけど、好い男みたいだし。俺程までとはいかなくても、お前もそろそろ幸せになれや』
暖かい眼差しを私にくれた。それ以来彼の足はこの家から遠のき、その分子供達の比重が勝利に移って行っていた。あいつはあいつで気を使ってくれているのだと思う。そんな事を考えながら子供達の尻を叩いた。
 あっという間に時間が過ぎ、五時ちょうどで子供達がテレビのスイッチを入れる。もうすぐ彼が来る。と、その時不意に鳴り出す聞き慣れたメロディー。
「勝利だ」
テレビを見ていた天仁が振り返り
「早く来いって言ってよね」
無邪気な声が弾んでいた。
「はいはい。でも本当にお父さんになって欲しかったら、そんな言い方は駄目だからね」
私は目を見開いた二人に背を向け、怒ったフリをしながらそっと部屋を出る。そして素早くボタンを押し、受信部を耳に当て
「どうしたの?」
ささやかな不安を隠しながら、努めて陽気な声を出す。
「忙しくて来れなくなった?」
そんな事も有るかもなって思った。私、無理言っちゃったから。彼は真面目なサラリーマンで、週末に残業が有るのだって当たり前。それでも我が侭を言ったのは
“金曜の夜を乗り越えたい”
それが私の願いだったからだ。素直になれなくて、お互い傷つけ合っていたあの頃の二人を乗り越えて、今の幸せをつかみたかった。
 もう私は大人なんだから、
“金曜の夜”
にこだわる意味なんてないって言う人もいると思う。その事はそれなりに分かってる。分かってはいるけれど、頭と心は違うから。勇気が無くて壊す事ができなかったあの壁を打ち壊すために、私にはどうしてもこの夜が必要だった。
 電話越しの彼は 
『そんなんじゃなくて』
鼻の先でちょっと笑っているかのように答えた。
『間に合う様に行けるけど、その、お土産は何が良かった? ほら、子供達の都合も有るからケーキがいいとか、何が良いとか。言ってもらえると嬉しいんだけど』
今ここにいるからと、そう遠くないデパートの名前を挙げられ、私の頬はほっと弛んだ。来れなくなったって話じゃなかったんだって。何となく幸先(さいさき)が良い気がして
「そうね」
思いつくままに
「花が欲しいな」
と言っていた。
 7年前の彼の手にはコンビニの袋がぶら下がっていた。並んで歩き、中に入っている冷えた缶ビールが時々私の足にぶつかり、彼は声では謝らず、ほんの少し肩を引く仕草を見せたものだった。あのカサカサと鳴る安っぽい音と冷たい感触を私は今でも覚えている。
「テーブルに飾れる様なブーケが有ったら嬉しい」
たまに街を歩いている、小さいけれど手のこんだブーケを手にした女の子。そんな子の隣りにはだいたい彼氏らしい男の子がいて、二人は時々見つめあい、隠しきれないかの様に微笑む仕草を見せる。その
“今日は二人の記念日で、これからお家でお祝いなんです”
みたいな姿を見かける度に、こんな歳になった私でも憧れを持っていた。
『そんな物で良いの?』
彼の声は少し心配そうだった。
「うん、いいよ」
だって本当にそれが欲しいから。
「気を使わなくても大丈夫。それに子供達はあなたが来てくれるってだけで嬉しいみたいだから」
そして彼は
『待っていて』
そう言って電話を切った。 
 やがて鳴らされる時間ぴったりのブザー、我先にインターホンに飛びつく子供達。
「勝利、待ってたぞ~!」
遠慮のないその声に
『待たせたかな?』
あの甘い顔が謝りながらカメラの奥を覗き込んだ。きっと彼の目は子供達を見つめている。その優しい表情に心が打たれた。彼を失いたくない。本気でそう思う。
「いらっしゃい。待ってたから」
うつむきながらドアを開けた私の目に飛び込んで来たのは、沢山のピンクのバラで飾られたフラワーバスケットだった。蔓で編まれたかごは彼の両手で抱えられ、大きさのあまり彼の顔を隠してしまい、表情を読むことができない。
「切り花だと花瓶に困るかもってお店の人が言うから、これにした」
バラの甘い香りと、飾られたリボン。いかにも
“可愛らしい女の子”
って感じで私には絶対似合わないぞってなその花の配色を覚えている。それは遠い昔、彼とした最初で最後のデートの日、私が選んだ
“ウエディングプラン”
のブーケにそっくりだった。



     戻る     鏡 TOP     続く

                 あとがき


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