ストーリーズ・イン・シークレット

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73 プレゼント


“どうして?”
湧き上がった疑問。私達は意外な程上手くやっているつもりだったから。でもふと思い当たる節があり、奇妙な納得感を覚え静かに頷いていた。
「そうかぁ」
なんて。彼は電話越しに言葉を詰まらせ、
『今度きちんと会って話すよ。でもその前にこうして子供達抜きで乃木さんと話しをしたかった』
そう言った。

 クリスマスを間近に控え、私は子供達がクリスマスプレゼントに何を欲しがっているのか探りを入れていた。去年は自転車で、その前はジョージが使っている様なデジカメだった。もちろん、デジカメなんか無理だから他のものにしたけれど、今年はどんなものを子供達が欲しがるのかワクワクだった。これって親バカだなって思いながら、何を欲しがるかに子供の成長が出ている、そんな気がしていて、少し
“無理目”
なリクエストをしてくれる事を期待していた。もしかしたらスノーボードが欲しいって言い出すかもしれないし、Willかもしれない。摩利だったらプラネタリウムを自分で組み立てるキッドかもしれないし、天仁だったら巨大な鏡を欲しがるかもしれない。プレゼントってもらう以上にあげる方が楽しいよなって思いながら、勝利にも何かあげないといけないかなって事が頭をよぎる。だから子供達には内緒で、二人が産まれたときの写真をフォトフレームに入れてあげようなんて事を考えていた。
 小さなクリスマスツリーを出し、電飾を飾る。それからおもちゃのサンタクロースだとか金の球を飾り付け、最後にお星様。
「おおっ、綺麗に飾れたね~。さて、今年はサンタさん、どんなプレゼントをくれるかなぁ」
子供達の顔を覗き込むと、間髪入れず
「“お父さん”が欲しい」
答えたのは摩利だった。
「えっ?」
思わず聞き返した私に
「だってほら、僕たちに“パパ”と“ダディ”はいるけど“お父さん”はいないでしょう?」
そのいかにも
“当然”
とでも言わんばかりの表情に驚いた。
「な、何言ってるのよ」
私は答えを探し焦る。
「“お父さん”は……」
“売っていないよ”
「ねぇ、ママ。僕達“お父さん”欲しいなぁ」
あどけない天仁の瞳。子供って残酷だなって思う時が有る。人間は仔犬や子猫じゃないんだよって。そんな簡単に“お父さん”が手に入るはずがない。下唇をぐっと噛んでしまった私の服の袖をそっと引っ張り
「ねぇ、ママ。勝利に頼んでよ」
摩利が覗き込む様に私の目を見上げる。
「勝利だったら“お父さん”になってくれるよ」
「だって勝利、僕たちの事だ~い好きって言ってたよ、ママ、ね?」
この子達にとって
“お父さん”
は、
“遊んでくれる人”
という意味なのだろう。でもね。私は二人の頭を撫で、彼らをなだめる振りをしながらゆっくりと考えを巡らした。親になるってそれだけの事じゃ無いから、と。お金の事もそうだし、将来の事や躾の事も考えて、体調やお友達の事も心配し。ほんのささやかな事に一喜一憂しながら、毎日小さい事を積み重ね、手探りで進んで行く。今でこそ子供達は勝利の前で
“いい子”
をしているけど、でも家に帰ればそれだけじゃない。摩利は頑固で、天仁はかんしゃく持ちだ。その全てをひっくるめて親になる。
 何よりも、幸せを手に入れたいと思ったら、最初に自由を手放さないといけない。
 それにね。お父さんになるって事は、私と結婚するって事だから。
“勝利がお父さんになる”
考えた事がない訳じゃない。むしろ
“そうなって欲しい”
とさえ思う自分がいて、でも無理強いはできないって思う。
 私達と歩く時、彼はいつも子供達と手をつなぐ。二人を平等に扱いながら、時々
『これで良いかな?』
とでも言いたげな、ちょっと不安を含んだ目で振り返るから、私は
「二人とも楽しそうね」
子供達に声をかけるフリで勝利に答える。
『大丈夫だよ』
彼はほっとした表情を見せた後、再び子供達の世界へと戻って行く。勝利は私の隣りに居るのではなく、子供達と居る。
 できるなら、子供達が駆け回る姿を見ながら、二人で手をつなぎたかった。そして彼らが手を振るのに合わせ、私達も手を振りながら、つないでいる手にそっと力を込め無言の会話を楽しみたかった。でも今の私達にその余裕はなかった。
 それに彼が子供達を大好きだってのは分かるけど、それだけじゃ足りないって思う。ましてや
“罪滅ぼし”
な気持ちで親になんかなって欲しくない。
 そんな事を考えながら子供達に言い聞かせる。
「無理は言わないで」
不服そうな彼らは唇を尖らし
「だって」
「勝利に言ってみてよ」
を繰り返す。
「第一ね、あんた達がおじさんを“勝利”って呼んでる所でアウトだから。普通“勝利おじさん”とか“おじさん”って呼ぶものでしょ? ほら。そんなんであの人の事を“お父さん”なんて、呼べるの? ん? 無理無理。それよりさぁ、クリスマス会の時に、シドに頼んでクリスマスリースを焼いてもらわない? それともみんなで作ろうか? でもってお友達みんな驚かしちゃう?」
私は何とか彼らの興味を他の方に向けようと気を惹いたものだった。

 そんな事を思い出し、電話に向かって苦笑いを浮かべた。それとなく子供達も勝利に向かって“当たり”をつけたんだろうって事は察しがついていた。
「あの二人、でしょう? 何か言った? 例えば
“お父さんになって欲しい”
とか?」
完全な沈黙が流れ、言いにくそうな声が
『まぁ、そう言う事だよね』
と囁いた。
 彼が困るのも仕方がないよなって思う。私達が再会して6ヶ月と少しが経っていた。長い様で短いこの期間に、失ってしまった七年間を取り戻そうと思ってもできる事じゃ無い。それに悠々自適な独身生活と、子供に振り舞わされる日々じゃ天と地も違うから。私だって子供は可愛いけど、時々嫌になるのが現実。
“もし子供がいなかったら”
それは絶対に嫌だけど、でも考えてしまう瞬間が有るのも確かだった。
「子供って、重荷だもんね」
思わずそう漏らした私に、
「そんなんじゃない」
彼の答えは早かった。
「そんなんじゃないから」
と。
「期待、してしまうから」
その声はか細く、彼が苦しんでいるのは分かるけど、でも私が知りたい答えは出してくれてはいない。期待してしまうのは誰? それは勝利? それとも子供達? もしかして私の事を言っているの? そう
“もう辞めたい”
というならいっその事
『子供には責任を感じているし、可愛いと思う。でも、一緒に暮らす自信はない』
とでも言ってもらえた方がよっぽど納得がいく、そう思った。だから
「本心、言ってよ、ねぇ」
携帯をぎゅっと握りしめ、今聞かないといけない事を聞いた。
「勝利の本心は? 今更じゃない? 私達、散々失って来たから。これ以上に最悪も、これ以上のどん底もないって思ってるよ。だから、私は勝利の本心が聞きたい」
本当は七年前に言わなければいけなかった言葉。ずっと言わないといけないと知っていて、先延ばしにしていた言葉。
『そうだよな』
電話越しの彼は頷いていた。
『涼子の言う通り、そうだよな』
そしてまるで自分に何かを言い聞かせるかの様な沈黙の後、勝利は口を開いた。
『もしかしたらって。涼子が俺と一緒に暮らしてくれるかもしれないって期待してしまうんだ。過去に俺が犯した過ちを全部許してくれて、受け入れてくれるかもって。何事も無かったフリなんかできないけど、それでも今の俺を家族にしてくれるかもしれないって、期待してしまうんだよ』
彼の饒舌が私の心に響く。
『でも、それすらも怖い。もし涼子が“子供達のために”って妥協して俺を選んでくれたとしたら? それはそれで俺にとっては幸せだけど、涼子にとってそれが本当に幸せかどうか、分からない。あの子達の父親にはなれたとしても、涼子の夫になる事はできなかったらって思うと、悲しいんだ。そんなの、やってみなけりゃ分からないって、当たって砕けろって、もし他の誰かが同じ立場だったとしたらアドバイスすると思うよ。でも、自分の立場だと違うんだ。これ以上、誰も、傷つけたくない』
私は相槌を打つ事も叶わず、乱れそうになる呼吸の音が彼に伝わらない様に携帯の下の方を口元から遠く離した。
『この前、涼子のいない所でこっそり摩利君が言って来たんだ。
“僕たちにはパパとダディがいる。でも、お父さんはいない。だからもうそろそろ、お父さんが欲しいな。勝利はなる気は無いの”
って。』
彼の話し方は摩利そっくりだった。
『天仁君も頷いていた。だから、辛いんだ。涼子が
“子供達のために”
って愛してもいない男を夫に選んでしまったらって。俺は君の前のご主人には敵わない。器が違う、分かってる。その彼と比べられ、妥協して俺と一緒になったら、また涼子、不幸になってしまうよ。涼子には、子供の、父親と、一緒になって欲しいんじゃなくて、涼子が、涼子が本当に愛している人と一緒になって欲しいんだよ』
その絞り出す様な声が
“愛している”
って。言葉では言わないけど、でもはっきりと彼の気持ちを伝えてくれていた。
 私は涙を堪えるためにぐっと目頭を掌で覆った。
 どこまでも続く沈黙。私も答えたいけど、答える事ができなくて。
『ご免、取り乱したりしてさ』
彼の声が耳元で優しく囁いた。
『今度会った時、直接話させてくれないか? 子供達にも俺から話したい。絶対涼子の事悪者にしないって約束するから。だから俺の素直な気持ちを話したい。子供達も大事だけど、それ以上に大事な人がいるんだって』
どうして私は彼のその気持ちに今まで気がつかなかったんだろうって思う。嫌じゃなかったから。勝利が傍に居てくれるのが嬉しくて、その緩やかな延長線で
“いつか”
なんて温い事を考えていた。勝利がこんな風に悩んでいたなんて、思いもしなかった。だから彼の気持ちが切なくて、ああ、愛されていたんだなって。すれ違いのままここまで来ちゃったけど、何もかも乗り越えられる日は来るんだなって思えた。
「うん、その方が嬉しい」
みっともなく鼻水が落ちて来て、私の今の顔はチンクシャだ。
「私も勝利に会って返事したい。勝利の目を見て、私も自分の気持ちを話したい」
今ここで言わないのは卑怯かもしれない。それでも
「三日後の夜、家に来てくれる?」
私は彼と約束した。
「私ももう、逃げないから」
と。



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           オマケ付きの あとがき

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72 願い事


 それから毎晩の様に彼はメールをくれる様になった。
『子供達は寝た?』
いつも夜9時には寝かしつけているから
『寝たよ』
すると少し間を置いて
『今大丈夫?』
返事が来る。良いよって打って、見ていたテレビ消して勝利からのメールを待つ。水を飲みにキッチンに行ってる間に着信が鳴って
「えっ、あっちょっと、電話?」
なんて、メールと電話の音を勘違いして慌てて出ようとする自分がおかしい。
 他愛のないメールのやり取り。天気の話しに、子供達の好き嫌いの話し。可も無く不可もなく。でも何となく楽しくて、だらだらと続けてしまう。
 ねぇ、勝利。今でも私の事、好き? 私はね、結構勝利の事、好きだよ。

 七夕は彼に誘われてお祭りを見に行った。
 子供達は撮影でもらって来た色違いの浴衣を着たがり、私は子供達の
「ママも一緒に着ようよ」
のおねだりに負け、デパートに足を運んだ。
 平日だって言うのに売り場には10代20代の若い子達が沢山いて、浴衣を合わせながら髪をアップにしたり、かんざしを選んだりしながら笑いひしめき合っている。そんな中、一人で買いに来た自分だけが老けて見えた。
“おばさんのくせに、本当は彼にキレイだって思って欲しいって思っているんだ”
なんてバレていそうで肩身が狭かったし、ブームの所為なのか柄はみんな派手目で、私の年齢で着れそうなものなんて一見した感じ無かった。 
 手に取る事もできずハンガーをカチャカチャめくるだけの私に店員さんが
「コレなんていかがですか?」
勧めてくれたのは、淡い水色に鯉が泳ぐ個性的な浴衣。勝手に合わせられ
「凄い! お客さんスタイルが良いからかなりいい感じですよ。普通の人じゃ着れませんから。コレは絶対に買いです。限定品でこの一着しか残ってませんから、押さえときましょう」
思わず苦笑いしちゃいそうなお褒めの言葉をもらう。
 まあ良いかって感じで鏡の中を覗き込むと、水のうねりの中を丸まると太った赤い斑(まだら)の鯉が泳いでいた。鯉って不思議だね。本当はオスもメスもいるはずなのに、赤い鯉はメスで、灰色はオスだって勝手に思えてしまう。そして目の前を泳ぐ鯉達は
“中年の熟女です”
って感じ。彼女達は上に下にと泳ぐ。流れに逆らい、流れに従い。水槽の中で日なたを楽しむ
“小娘な金魚じゃないから”
とでも主張しているみたい。私の中を泳ぎながら別の世界へと飛び出そうとしているかの様だった。
『若い頃は』
最近になってよく頭に浮かぶセリフ。
『若い頃はミニスカだって履けたし、ショートパンツも怖くなかった』
でも今は違う。けど今頑張らないと、10年後、43の私は
『33歳の時にもっと楽しんでおけば良かった』
そう言うに決まってる。だから
「これ、お願いします」
例え無理目でも、今回だけはこの鯉達から元気をもらって頑張ってみようかなって思った。
 当日は案の定着るのに時間がかかり、汗だく。マンションを出てすぐにコンビニに行ってデオドラントスプレーを買ってトイレで吹き付ける、まるで高校生な私。 
 先に待ち合わせの場所にいた勝利は、遠くからでも目立っていた。色落ちした藍染めの浴衣に細い帯をしていて、時代劇の浪人みたい。きちんと巻かれた帯はまるで着つけてもらったかの様に彼に馴染んでいて、桐の下駄が良く似合っている。
『凄く、格好良い』
その言葉を呑み込みながら、飛び出す子供達の陰に隠れ
「お待たせしました」
私は軽く頭を下げた。自意識過剰かもしれないけど、彼に見られていると思うと恥ずかしかった。
 お祭りの会場はそこから歩いてすぐの所に有り、沢山の笹が空から降り注いでいるかの様に並んでいた。私達はそれぞれお願い事の短冊を書き、勝利が全員の分を高い場所に吊るしてくれた。
「今度のオーデションで選ばれます様に」
天仁は派手に拍手を打ち、摩利はそっと手を合わせる。勝利の短冊には
『健康であります様に』
なんて書かれてて、誰の健康かは分からない。
 私は
“幸せになれます様に”
って書きたかった。この偽物の家族がいつまでも続きます様に。
『乃木さんは』
彼は私をそう呼んだ。呼びにくそうに、でも絶対そう呼ばないといけないって口調で。だから
『せめて“涼子さん”くらいで良いよ』
なんて事、私は言えない。彼が詰める気の無い距離を私は無理に詰める事ができなかった。
 そして散々悩んだ挙げ句
『やせます様に』
と書いた。子供が産まれてからお腹周りが少し出て来た感じだったから。彼は
「痩せる必要なんか無いのに」
と私の方を見ないでそう言った。
 夜のネオン、キラキラ。子供達は夜の外出なんて滅多にしない所為か大はしゃぎで勝利の腕にまとわりついている。
「よいしょ」
のかけ声で、その左側の子供達が持ち上がり
「きゃぁっ!」
二人は大歓声で
「もう一回!」
をせがみ、左右を何度も交代した。そう言えば、稔はずっと体調が悪くってこんな風に子供達と遊んだ覚えが無かった。ジョージにしてもそうだった。昔はバスケでならしたとしても、今はただのおじさんだ。その上彼だって緩やかに体力が落ちて来ている。今が一番元気のいい子供達だから、勝利みたいな
“おじさん”
はとにかく嬉しいに違いない。後ろからついていく私よりも、前を歩く三人の方がずっと本物の親子の様に見えた。その彼の横顔が笑っている。垂れた目で子供達を見下ろしながら、どっちが子供なのか分からなくなりそうだ。
「ねぇ、余田さん」
私はそんな彼を引き止めた。
「確かこの前、誕生日が近いって話し、していませんでした?」
子供達と話している彼の言葉に聞き耳を立てていた。本当は7月7日が誕生日だって、免許証を見て知っていた。でもあからさまに言い出す勇気はなかったから、やんわりと誘導する。
「へぇ、そうなんだ。勝利、誕生日?」
「いつなの?」
「何歳?」
矢継ぎ早な質問。
「あ~と、実は今日が誕生日で、幾つだっけ?」
34だよ、私は心の中で数えた。私より少し早い誕生日だもの。
「34歳になった」
その笑顔に
「なんだよ~、勝利、水臭い!」
「お祝いしなきゃ!!」
黄色い声がこだました。
「大きなケーキが良い!」
「丸ごとのケーキだね」
子供達は勝利をダシにしてケーキを食べる気満々だ。いつもはこの時間、お風呂に入って寝る準備をしている。それにだらだらケーキなんか食べさせたりしない。だから
「今日は特別なんだからね!」
念を押す私に
「ありがとう」
彼が聞こえるか聞こえないかの微かな声で呟やいた。
 場所はいつものイタリアンレストラン。勝利達はお店に入るなりケーキの並んだショーケースに詰め寄って、きゃあきゃあと騒ぎ出し、
「あれだよね」
「あれしかないよね」
なんて指差し合う。三人が見つめているのは一番大きな苺のケーキ。どう見たってピースに取り分けてお客様に出しているってそれを、勝利は
「これ、お願いします」
と満面の笑顔で決めてしまった。軽く12人前も有りそうで、どう考えても四人で食べきれる量じゃない。
『ちょっとそれは……』
口を開きかけた瞬間、目の前の子供達の背中が
「ロウソク、34本!」
と叫んだ
 テーブルの上には中華鍋を引っくり返した様な巨大なケーキ。向かい側の長椅子では、真ん中に勝利が座り両側に摩利と天仁がひしめき合いながらぶすぶすとロウソクを突き立てている。
「火をつけるのはおじちゃんがやるよ」
彼は店員さんを呼んでライターを借りる。多分そうだと思ったけど、今の彼はタバコも止めたらしい。そうしている間に、馴染みの店員さんが
「良かったらお写真撮りますよ」
なんてデジカメを持って現れた。
「ママもこっちに来てよ!」
天仁が声をかけ、期待を込めた六つの目に見つめられ
「はいはい」
ここで駄目を言う程野暮じゃない。
「それじゃぁ、詰めてくださ~い」
お尻で天仁を押しながら、私達一家で長椅子を占領する。
「あっ、ちょっと待って」
突然勝利がハッと気がついた様に手を振って
「摩利君。君が真ん中に来た方が良いんじゃない?」
彼はひょいひょいっと位置をずらし、子供達二人が中央に来る様に座り直した。
「これが良い」
その声は子供にというよりは私に話しかけているみたいだ。
「あの、もう少し真ん中に集まってもらえますか?」
お店の人の身振りに私達は肩寄せ合ってぎゅっと詰める。どうしても体がぶつかるから、私は天仁を抱きながら摩利にしがみつく。そして
「あっ!」
彼の左手の甲が私の首筋にそっと振れ、微かな視線を感じた。
 嬉しいって感じた事が凄く恥ずかしかった。でも彼に知られる勇気なんて無いから、視線を返すことなんかできなくて
「はい、チーズ」
私はカメラに向かっておどけたポーズを続けた。
 そしてその勢いで
「みんなで吹き消そう」
彼が全員の背中をケーキに向かってそっと押した。
「待ってよ勝利。消す前にお願い事しなくっちゃ」
「でも口にしちゃ駄目だよ。心の中で思うんだ。そうしないと、叶わなくなるからね」
二人が騒ぎ、勝利は
「そうだね」
と眉間に思いっきり皺を寄せ
「んんん~~~!」
マンガみたいに唸ってみせる。当然子供達はしばらく笑い転げ、落ちそうになりながら消す事になる。三回目に息を吹きかけやっと消えた火に
「何お願いしたの~」
天仁が聞いて来て
「だから、言っちゃ駄目なんだって」
摩利の言葉に再び笑いが起こった。

 そんな風に月日は流れた。花火大会も一緒。ハロウィンパーティーも一緒。外で遊ぶとき、子供達は必ず
「勝利を誘おう!」
を言い、自分の方が兄弟よりも優れている事を彼に証明したくって、競り合いをした。こんな事、初めてだった。これが男親の力ってヤツかもしれないって朧げに感じた。それから、子供達は知らなくっても、血がつながっているのは隠せないんだなって。そして今日も二人は自転車で突っ走る。
 私達は並んでそんな子供達の様子をただ眺めていた。こうして過ごす沈黙を、私は少しずつ心地いいものに感じていたのだ。そして夢中になっている子供達を見ていたはずの勝利の瞳が、不意に私に向かって問いかけて来た。
「あのね、乃木さん」
「ん? 何?」
それは油断していた私の心にそろりと触れる一言だった。
「こうやって会ってくれているって事を、俺はどう受け止めれば良いかな?」
とっさに答えにつまり
「あっ、ううん」
と頷き微妙に目をそらす。彼は眉間にぐっとしわを寄せ
「本当はこんな話し、したくない。もし自分が望んでる答えをもらえなかったら失望するのが分かってるから、それだったらいっその事、話題にしないで逃げ通したい。でも」
彼はきゅっと下唇を噛みしめ、大きく首を振ると
「でもやっぱり俺は、涼子の今の気持ちが知りたい」
ちぎれそうな声でそう言った。
 この時、私はなんて答えれば良かったんだろう。
『もう過去の事は許したつもりでいるから』
『私が味わう事のできた幸せを、勝利にも味わって欲しいって思ったんだよね』
『偽物でも家族ごっこは楽しいから、癒されるし』
それとも
『やっぱりあんたの事好きで忘れられない』
とか
『私の方が、勝利の気持ちを知りたいよ』
そう言えば良かったのかな? でも結局言えたのは
「あの子達の父親が勝利だってことは変えようが無いんだなって、認めている。うん、認めている、そんな感じかな」
なんて、当たり前と言えば当たり前すぎる言葉だった。私は彼を受け入れている、本当にそう言いたかっただけだった。

 そしてクリスマスを目前にしたある日の事、
「もう会うのは止めよう」
言い出したのは勝利の方だった。家では子供達と三人でクリスマスパーティーやプレゼントの相談を始めていたその次の日の出来事だった。

 
  戻る    鏡 TOP     続く


               あとがき


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